キモオタデブスに恋してる

沼田 章子

第1話キモオタデブスに恋してる

 うららかな春、俺、高木聖斗は幼なじみの森松比奈の家に来ていた。


 何度も足を運んだ比奈の部屋。使い古した机に回転椅子。それらの隣にある大きな書棚、書棚の中身は参考書とごくつまらない本だが、つまらない本は比奈の宝物でもあり、大切な推したちの本だ。


 比奈はいわゆるオタクで、今は架空の戦国武将に嵌まっている。加えて比奈はオタクのなかでもディープなジャンルに嵌まっているらしく、男同士の恋愛ものでもあるBL に夢中だ。


 今日も俺を呼び出し様々なポージングをさせてはそれをさも重要なものであるかのように眺めながら比奈は推したちの漫画を描いている。


 俺は比奈の頼みを断っても構わないが、いつも断らないのは、比奈が俺の唯一の推しだからだ。


 身長百五十センチのちんまりした身体は肉付きが良くぽっちゃりしている。つぶらな真ん丸の黒目がちな瞳に小さな丸い鼻、おちょぼ口。良くて太ったマルチーズ、悪くてパグの様な見た目をしている。


 自分はデブ専ではないが、初めて会った幼稚園の頃から、この真ん丸ぽちゃぽちゃの可愛い幼なじみに夢中だった。他の男連中は比奈の容姿を決して褒めたりはしないが、比奈の後ろに俺が控えているからいじめはしない。


 俺は自分自身でいうのも恥ずかしいが文武両道、イケメンのハンサムである。母方には外国人の血が入っており、俺の容姿は亜麻色の髪に白磁のような白い肌、整った顔立ちにスッと通った鼻梁、都会の街を歩けばスカウトの声がかかる。


 そんな俺は気が付いたら比奈に夢中で、時間を貢ぎ言われるがままにポージングをしたり、夏と冬に信じられないぐらいの行列に並び薄くて高い本の荷物持ちをさせられている。まぁ、買い終わったら段ボールに詰めて宅急便で比奈の家に送るだけだが、そこまでが長く何回もサークルという個別な販売の行列に並ばされて(たまに一人で買いに行かせられる、そんな時は「新刊下さい」という魔法の呪文を唱える)地獄をみたが、比奈の笑顔との引き換えなので後悔はない。


 比奈は俺の推しであり、俺は推し活を通して、比奈をいつでも応援している。

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