破滅の理由
激しく泣き崩れた二人の声が反響するテント内でどうしたものかと考えるが落ち着くのを待つしかないだろうと言う結論に居たり、それぞれ琴音と千秋が担当者の面倒を見始めた事で残りのメンバーは黙って待つ事にした。
暫くするとグズグズと鼻を啜りながらだが持ち直して来た二人に疑問に思っていた事を聞いて行く。
「女性からすれば見られたくない顔をしている所申し訳ないのですが色々と聞きたい事があるんすよ」
「そんなに酷い顔してるの私!?」
涙は痕を残しつつもまだ止まる事がないし鼻水が出っぱなしなので地面にまで滴り落ちているのだ、流石に言い訳の出来ない顔だろう。
「単刀直入に聞きます、いったい何があったんですか?」
琴音が手拭で咲田さんの顔を拭いていて中野さんは自らのハンカチを取り出して顔を拭う所で根本的な問題の質問をする。
「貴方達が見て来た通り、ダンジョンからモンスターが溢れ出た結果こうなったのよ」
「何故ですか!国が管理してちゃんとSチルとペアを割り当てていたんでしょう!?」
これは自身の時にも言われた事だが人数の偏りが出ない様に国が何処に派遣するかすらも決めていたのだ、にも拘らずこの体たらくは納得出来ない。
「その前に聞かせて欲しい事があるの、貴方達がいた世界の西暦と月は?」
「え…?」
言われた瞬間におかしいと感じた。
何故そんな言い方をするのだろう、西暦なんて今この場にいるのだから解っているはずで、大事な話をしている最中に出て来る単語とは思えない。
「2020年9月よ」
「そう、なら三層に潜っていた辺りね…そこからどうやって此処に?」
「どうって…」
三層には建物があったが今思うとあの場所は研究所にも思える、そんな建物の地下にあった隔壁が電源が入った事で動き出して内部に歪みを発見し、そこから戻って来た事を説明する。
「なるほど…報告では開かなかったと聞いていたけどそうなってたのね」
「は?報告?」
「落ち着いて聞いてね、まず今貴方達がいるこの世界の西暦は2024年5月よ」
「はぁ!?どう言う事っすか!?」
「言葉通りよ、貴方達は自分達の世界に戻ったつもりでいたかもしれないけど、実際にはそこから四年の歳月が経った世界なのよ」
意味が解らない、そんな訳がないだろう。
もし仮にでは有るがそれが事実であるならこの世界には自分達がいるはずだ、それがなぜいない?最前線で戦っているのだろうか?
「世界がこうなった理由だけど…」
咲田さんの話に続いて口を開いた中野さんがその後を説明し始める。
「大阪の天王寺の地下に未発見の入り口があったからなの、誰からも忘れ去られた場所だった事で発見出来ていなかった、そこから一気に外に溢れ出て来て第一波で数千人の民間人が死亡、すぐに自衛隊が出動してそれを制圧したんだけど…その後が止めきる事が出来ずに第二波、第三波と続いてこうなってしまったの」
天王寺と言えば大阪の中心地点にかなり近く人通りもかなり多い、あんな場所で溢れて来たとなればその死者数も当然だろう。
「こうなった原因はそれでいいとして、私達が別の年代から来たと言う判断はどうやってしたのかしら?この時代にも私達が居るでしょうし本人だって事もあるのではない?」
「それは…」
千秋の当然な質問に二人の女性は少し俯いて平常道理の顔に戻っていたそれを悲しく重い物へと変える。
「2024年5月時点で貴方達は全員死亡しているから…本人だって事は有り得ないのよ」
「「「「「……」」」」」
嫌な予感はあったが突然の自分達の死亡通告にメンバー全員が黙り込む。
「死亡した理由は政府が決定した天王寺ダンジョン内部進行作戦、内容は外部に出て来たモンスターは自衛隊が殲滅した為止まる事無く溢れ出るモンスターを内部に入り、殲滅は無理でも間引きして外部に出て来なくさせると言うもの」
「待って下さい、私達だけでその内部に行けと命令が出た…とかですか?」
外に出て来る程の数になったモンスターに対しこちらは五人で行けなんて自殺行為以外の何でもない、流石にそれはないだろうと琴音の質問に内心で答えを出し、それが正解だと首を横に振る中野さんの仕草によって解る。
「集められたのは日本にいるSチルとペアで総数は約二万四千人。他のダンジョンの間引きもあるし、それだけいれば大丈夫だろうと思われたんだけど…逃亡して来た組みの証言により内部にいた他の人達が全て死亡し、負けた事が解ったの。そしてその後にそれを証明するかの様にモンスターが止まる事無く流れ出て来て…」
自衛隊が奮戦するも物量に敵うすべが無く、天王寺を中心に被害が拡大して行きこうなったと言う事だった。
「遺体を確認出来てはいないけど状況からして生きているはずがないって事ですね…」
確かにその状況なら生きているとは思えないだろうし、実際生存出来ているはずが無いだろう。
「四年後の世界が貴方達の世界とダンジョンの内部に現れた歪みを通じて繋がったのはこっちの世界がモンスターの進行によりダンジョンの一部として飲み込まれ始めているからだと思う、思い出して欲しいんだけど一層と二層も都市や館だったでしょう?それがこの時代の大阪と同じで飲み込まれた結果ダンジョンの一部となったのでしょう」
「私達はどうすれば…」
自分達や大阪の未来を知ってこれから先の事を何も考えられなくなった気持ちを口に出した琴音に咲田さんが両手を肩に置いて真っ直ぐに見つめる。
「ここで貴方達に出来る事は何も無い。通って来た歪みから自分達の時代に帰りなさい」
「でもそれじゃぁこの場にいる人達が…!」
このまま帰るとなれば見殺しにするのと同じだ、小さな事でも何か出来る事があるのではないかと琴音が縋る。
「どちらにせよ一緒よ、この時代で生きている人達は私達を含めて死ぬわ、それに一度繋がったとはいえ通って来た歪みがずっと繋がっている保証は無いのよ、いつ消えてもおかしくない、だから帰りなさい。そして戻って伝えて欲しいの、天王寺に有るダンジョンと待ち受ける未来の事を」
見つめられる琴音の目に涙が溜まって行き唇がワナワナと震えだし、そんな彼女を咲田さんが優しく抱きしめて頭を撫でる。
「琴音ちゃん生きて幸せになりなさい、ちゃんと年齢を重ねて結婚もして…おばあちゃんになってから幸せだったと笑いながら死んで行ける人生を送って」
堪え切れなくなった琴音の目から頬を伝い止まる事のない涙が流れる。
「貴方達の時代なら四年も時間がある、内部の敵は強いと報告も聞いているから野崎だけではなく他のダンジョンに挑んで力を蓄える事も可能なはずよ。だから帰って必ず来る破滅に抗って欲しい」
抱きしめていた身体を離して手で琴音の涙を拭い、再び自身も涙の溜まった目で見つめる。
「未来を変えて…未来を救って」
全身全霊の祈りを伝える咲田さんは話し終わった後に僅かに微笑み周りで話を聞いていた俺達全員にその視線を向けた。
大阪END 小隈 圭 @kuma0107
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