見つけた二人


 拠点が近づくにつれて周囲の空気が変わりをみせる。


 誰もいない広場の地面に残る血痕と端の方に積み上げられている遺体と思われる物が周囲の空気を淀ませている様だ。


 「司」


 「解ってる」


 見晴らしのいい坂を下る自分達だがその様子は遠目からでもまる解りだ、拠点を築いている以上見張りも居るのが当然で、そうなると自分達は既に見つかっているだろう。


 それを証明する様に二組の自衛隊員が銃を所持したまま拠点に近づく俺達へと駆け寄って来た。


 「そこで一旦止まって下さい、君達はいったい…?」


 言われた通りに止まり敵意は無いと両手を上げるが結果的に全員が俺に倣いその行動をした為、千秋の男爵が天へと掲げられる事になり二人の隊員は更に意味が解らないと困惑する。


 「自分達は普通の民間人です、武器は偶々見つける事が出来た骨董品店で身を守る為に拝借してきました」


 拝借とは言え世が真面なら間違いなく窃盗だ、しかし現状を考えると生き残る為には仕方が無いと思ってもらえるだろう。


 「そ…そうか?その割には…」


 困惑する顔で隊員は千秋を凝視する、やはりあの重量を子供が片手で持てている事が引っかかる様だ。


 「あ~彼女の持っている物は中身の無い軽い物なんです、その証拠に」


 一旦そこで言葉を切って千秋に近づき男爵を借り受けて自身も片手で全く重くないとアピールする。


 「ほら、自分も片手で軽く持てるぐらい軽い物なんです、目立つ物を持って武器を持っていると相手に警戒させて襲われない様にと考えた結果です」


 「あ、あぁまぁそう言う事なら…」


 実際に持たれてしまうとバレるが今の言い訳で納得してくれるなら正直助かる。


 「武器を持っているとは言え良く無事でしたね、ここでは安心も出来ないでしょうし中へ行きましょう」


 二人の隊員の内一人が先導して拠点の中に向かって歩き出して、もう一人は俺達を挟み込む形で最後尾で周囲を警戒しながら案内される俺達の後に続く。


 大人しく案内に従いながらも内心では初手で武器を取り上げられなかった事に安堵して拠点の内部に入ると中にいた人達から一斉に視線を感じ取り、その内の数人が険しい表情をしながらこちらに向かって来る。


 「おい!お前達Sチルとペアか!」


 初対面にも関わらず大きめの怒号を上げて睨みつけて来る人物に合わせて辺りが一瞬で静かになった。


 「いえ、自分達は貴方達と同じ普通の一般人です」


 「嘘つけ!武器を持った子供が集まってるんだ、そんな物普通は持ってないぞ!」


 「落ち着いて下さい、身柄はこちらで確認しましたので間違いありませんよ、彼らも皆さんと同じ一般人の方です、武器も途中で身を守る為に得た物と説明も受けてますので」


 詰め寄る相手との間に素早く身を滑り込ませた隊員が代わりに事情を説明すると相手は舌打ちをしながらも引き下がって何処かへと行ってしまう。

 周囲で様子を見ていた人達も興味が無くなったかの様に向けていた視線を外してそれぞれに何処かに移動する。


 「はぁ…すいませんね、こんな状況ですから皆さんイライラされているみたいで…」


 「いえ、庇って頂きありがとうございます」


 何となくの考えで自分達がSチルとペアだと言う事を隠したのだがどうやら正解だった様だ。

 他がどうなっているか解らないが大東市だけで言えばわけの解らないモンスターがダンジョンから出て来て人々を食い殺したとなればその責任をSチルとペアに取らせる、又は八つ当たりをする対象に選ばれる可能性があった。


 「成程な、黙ってた意味が解ったわ」


 隣にいた野上が腕を組んで何度も頷き全てを理解したと納得する。


 「それよりも…すいません、お尋ねしたい事があるのですが」


 「はい?…何でしょうか?」


 「実は【咲田 美香】さんと言う名前の方を探していまして、こちらにいらっしゃいませんか?」


 彼女の事を話すと自分達の素性がバレる危険が有るが、咲田さんは政府関係者だ、ならもしかすると生きてくれていればこの場所にいる可能性も有るだろう。


 「失礼ですがその方とはどういったお知り合いで?」


 「外にモンスターが表れる様になった時に助けて頂いた事がありまして、いるならお礼を言わせて頂きたいんです」


 「あ~成程」


 顎に手を当てて何かを考える隊員は少しの間思案をした後に僅かに頷いて見せる。


 「付いてきて来て下さい」


 そう一言言い残して先を歩き出した隊員に続き拠点の内部で自衛隊が主な陣地としている様に見える一画へと着くと、幾つもの迷彩柄のテントの中で一際大きい場所に案内された。


 「ここでお待ち下さい」


 再び一言だけ言い残しそのテントの内部へと隊員が入って行き、暫く全員で入り口付近で待機していると案内してくれた人と同じ方が中から出て来て俺達全員に一つ頷く。


 「許可が出ました、どうぞお入り下さい」


 手でテントの入り口の布を捲り上げて中へと誘導されてそれに従い中に入る。

 外からでは解らなかったが内部は簡易的な机や椅子が置かれている事から見た目ほどに広くは無く、そんな室内に二人の女性が向かい合わせの机に向き合って書類を捌いていた。


 「少しお待ち下さい、これが済めば…」


 真剣な表情でこちらを見ずに作業をする女性は片方が自分の知る人物である咲田さんで、もう片方は千秋の担当である中野さんだった。

 二人とも心なしか疲れている様にも見えるし、若干だが大人の雰囲気が増している様にも見える。


 「…」


 中野さんの方も見向きもせずに書類と格闘している事から余程大事な物なんだろうとその場で黙って終わるのを待つ事にしたのだが―。


 「私達も疲れているのよ絵里子?話ぐらい先に聞いてくれてもいいのではなくて?」


 我慢出来ない人物が後方から最前列にいた俺の横に並んでそう言ってのけた。


 「「!?」」


 だがその声を聴いた途端に座っていた椅子を後ろに倒させる勢いで二人が同時に立ち上がり驚愕の表情で俺達全員を見て茫然とする。


 「えっと…取り合えずただいま」


 そこまで驚かれるとは思わず何と言っていいか迷った結果帰宅した時と同じ言葉を伝えたのだが、それを聞いた二人は瞳に涙を溜めてそれが溢れる事により目じりから頬を濡らして行く。


 「「う、うわぁぁぁぁああん!!」」


 そしてこれまた同時に大声を出しながらその場にへたり込み両手で顔を隠して大泣きし始めた。


 「えぇぇぇ!?」


 突然の事態に訳が解らず我ながら情けない声を出して同じ気持ちである仲間達と共にこちらはこちらで呆気に取られる。



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