破滅の序章4


 小学校のすぐ近くには四条畷の駅がある、自分達は今その近辺にいる事から考えると公園までは二時間もあれば着くだろう。

 問題はどうやってそこに行くかだが取れる道は二つで見通しのいい国道を行くか入り組んではいるが時間的にも早く付ける住宅街を通って行く中道のどちらかで、全員の意見が一致した事から後者を選ぶ事となった。


 そちらを選んだ理由は兎に角人を探したいと言う思いと早く目的地に着いて確認したいと言う焦燥感から来る物だ。


 「もしかすると道中の民家に人がいるかも知れませんしね」


 淡い希望に縋る様に琴音がそう言うが仮に人がいて生きていると思うのかと聞かれれば思わない、そう答えるだろう。


 学校があの有様だったのだ、集まって来た人達の事も考えるとあの中は恐らく地獄絵図だろう、避難せずに引き篭もっている可能性も有るだろうが敵がそれを放置し続けるとも思えないのだ。


 現在向かう方角は西で住宅街の中を進みつつ邪魔な者を倒して進んでいるが目に映るのは悲惨な光景だけ。

 ある人は二階の窓に身を乗り出して絶命し、またある人は開かれた玄関に凭れ掛かって服を血で濡らし力無く項垂れている。


 「グギャァァ!」


 そして見つける事が出来るのはニヤケ面で奇声を上げて現れるゴブリンや死肉を貪るウルフで、それらを先頭を歩く千秋が手に持つ男爵の一振りで道の端へと吹き飛ばして壁に激突して塵に帰す。


 「暗い顔していても仕方がないわ、道はこのまま直進でいいのかしら司?」


 「ああ、このまま行くと小さめの川が見えて来るからそれが見えたらまた道を言うよ」


 うちの家は親父が自営業で大きい家に住みたいからと大東市の中であるが何度か引っ越しを繰り返し、その中の一つに川の近くに建てた家があった。

 川沿いの土手に植えられた桜が四月になると満開になり入学式などで制服に着替えた子供とその親が写真を取るのが毎年見れた光景だ。


 「それが今では…」


 場所を知っているだけに川が近づいて来ると感じる思い出と異なる臭い。

 生臭い物とヘドロが混じり合って強烈な悪臭の発生源となっているのが解る記憶の場所は、色が変わり果てた水に様々な恰好で朽ち果てた人の身体で底が見えない。


 「司さん…」


 思わず全員が自らの鼻と口を手で塞いでなるべく早く進もうと先を急かす。


 「このまま川に沿って進むと大きな国道が見えて来る、その国道の下がトンネルになってて反対側に行けるからそこまで我慢してくれ」


 不幸中の幸いと言えば川の塀がある程度高い事だ、年齢から背丈がある自分と野上は意識せずにも中が見えてしまうが少女達は身長が足りない為この地獄を見ずに済んでいる。


 「残っていればこの先に―」


 消えかかった記憶を頼りにかつての家が進む先に見えて来るが何かの物体がベランダに見え、それが何かを把握した瞬間に琴音と千秋を抱き寄せて無理やり自身の胸に顔を押し付けた。


 「二人とも少しの間絶対に周りを見るな、不安なら俺だけを見てろ」

 

 「ジャンティお前もだ、こっちに来い」


 若干嫌そうな顔をした彼女だが野上の有無を言わさない気配に大人しくされるがままとなる。


 「司、まだかかるのか?」


 「もう少しだ、そこを左に曲がってすぐ右、その後はトンネルが見えてる」


 自然と少女達を引き寄せる為に肩に回している手が震えて無駄に力みが入り少しでも早くと焦りを生む。


 「こんなもん…見せる訳に行くかよ…」


 ぼそりと気を使いつつも言葉を呟く野上は速足でそそくさと言われた通りに左に曲がりすぐ右に行こうとするが不意にその足を止めた。


 「どうし…ぐ…うぇ!」


 何があったんだと聞く必要はそこには無かった、曲がった先に広がる光景がその言葉を決して許さない。

 古い二階建ての建物に住んでいた住人の亡骸が面している道路に垂れ下がり滴る血が血溜まりを作り出して眼球や臓物が道を塞ぐ。


 一瞬目にしただけで腹の底から込み上げる吐き気をうめき声を上げつつも何とか飲み込んで耐えて両手で抱きしめる二人の肩に更に力が入る。


 先にこの光景を目にした野上も同様に空いた片手で口を塞いで荒く呼吸を繰り返しながら全く異なる方向に目をやって状態を立て直しにかかった。


 「野上走って通るぞ!迂回するには遠すぎるから行くしかねぇ!」


 「マジかよ…くっそが!」


 「琴音と千秋!絶対に目を開けるな!」


 意を決し駆け出した野上の後を追って少女二人を力任せに無理やり抱えて走り出し、奥に見えていたトンネルを超えて公園を囲う坂に辿り着くと来た道が見えない位置に移動をして気分の悪さから二人を抱き上げたままその場に座り込む。


 「司!?」


 「司さん!」


 「二人とももう目を開けていいぞ、でも悪い…少しだけ休ませてくれ」


 身震いする程の寒気が背筋から全身を駆け巡るが幸いな事に抱きしめている二人の暖かさがジワリと時間をかけて温かみを実感させて身に纏う恐怖を緩和させてくれた。


 「ちょぉおお!!何やってんだよお前ぇ!?」


 かなり大きめに聞こえて来た声に驚き三人同時に声のした方を見ると、ジャンティを抱えていた野上が彼女の胸に顔を押し付けて上下に動かし擦り付けている。


 「やべぇんだよ癒しをくれ癒しを!!」


 「意味解んねぇんだよ!外でこんな事するなぁ!」


 尚も顔を動かし続ける野上だがそれをジャンティが顔を真っ赤にしたままで両手で顔を掴み必死に離そうと藻掻く。


 「それにしてもジャンティは押しに弱そうだよな、強めに来られたら拒絶出来ずにそのまま行かれそうな雰囲気があるわ」


 「駄目よジャンティ、男は手の平で転がしてなんぼ、ベットの上だろうと主導権は握りしめていなさい」


 「は~いそれ以上は駄目だぞ!」


 続けて口を開こうとする千秋に手で彼女の口を塞いで黙らせて二人が落ち着くのを待ってから立ち上がり、座り込んでいた坂を登り始める。


 「どうだった?」


 先ほどまでの空気とは打って変わった現状の状況で何となくでは有るが隣にいた野上にそう問いかける。


 「柔らかかった…あいつ意外とあるんだな、舐めてたぜ…」


 そっち方面ではこいつはもう駄目だと把握できる内容の答えが返って来たが、自分が仮に同じ事を出来るかと考えるとどんな折檻を受ける事になるのかが先に心配になって出来ないだろう。


 「試しに司もやってみたらどうだ?」


 「無理だっての…下手にやって受け入れられたらどうすんだよ…そっちの方が本当に困るわ」


 たわいない会話を繰り返し脳裏に残っている残酷な光景を流し去ろうとする俺達の前に坂を登りきった事で見えて来た光景が再び現実へと引きずり込む。


 外周を坂で囲われた広大な公園だが中心に近い広場の方に迷彩柄のテントが幾つか見え、バリケードが築かれていて拠点を作っている。

 装甲車らしき物も見えている事から間違いなく自衛隊は居そうでは有る、しかしその拠点の外はこの場所に来る時に目にしたのと同じ悲惨な状態だった。


 「遠目だがテントの所に人がいるっぽいな…」


 「無事な人がいただけでも良かったです」


 「ジャンティ今夜は野上とは別の部屋で寝なさい、間違いなく襲われるわ」


 「そ!…その時は…」


 約二名全く違う会話をしているがそちらは踏み込まない様に気を付けて全員でまだ距離のある拠点へと向けて歩く。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る