第3話 芸術は選択だ

 選択式の芸術の授業をご存知でないそこの貴方のために、ここでリュウグウノツカイのように長々と説明をしておこう。


 我が高校では、学生は一年生のときに「美術」「音楽」「書道」のみっつのうちどれを学ぶかをきめる。週にいちどの芸術の授業であるが、はじめに選択した科目から卒業まで逃れられないため、三年間は同じ面子と一緒に授業を受けることとなる。多くの同級生にとっては変わり映えのしない友人たちとじっくり仲を深める機会であったり、また週に一度の孤独を味わう機会であったりするのだが、今年度の僕にとっては少々事情が異なる。すなわち――


「どうしたヤドカリ、ここの席が空いているぞ?」


 クラスが変わったとしても、この毒舌プリンセスからは逃れられないということだ。


 🐟


 エリサの隣以外に空いている席はないか。ゾエア幼生のように小さな望みにかけて素早く教室を見渡す。すると横目に僕を見ていた同級生たちが一斉に視線を逸らした。イワシの渦のように統率された動きに舌を巻くばかりだが、感心してばかりではいられない。私めのためにわざわざ椅子を引いてくださっているエリサ様(にこにこしている)のご厚意に応えられないのは残念でならないが、今年度こそは彼女から逃れたいのだ。


 ――と再度教室を見渡してみると、なんとエリサの前の席に座っている女子がこちらにウインクをしているではないか。しかも連続で。パチパチと。可愛い。まさかその席代わってくれるのか?可愛い。本当か?隣同士から前後になるだけでもありがたい是非お願いしたい――


パチパチパチ・・・パチーパチーパチー― ― ―パチパチパチ・・・


 ってSOSモールス信号じゃねえか!!


 ...... 確かに僕がエリサの隣に座らなければ、次に標的になるのは前の席の彼女である。流石に助けを求める女子を無視するほど性根が腐ってはいないヤドカリは、観念してホホジロザメのもとへ向かうのだった。

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一年かけて仲良くなったヒロインが、他の男と仲良さげにしている 写絵あきら @zzziakira

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