帰省
麻木香豆
🎏
「渋滞」
「着ぐるみ」
「鯉のぼり」
「やべぇな、スッゲー混んどるわ」
夫の夜勤明けで彼の実家に帰郷する。長い列に彼はイライラしている。ほっとするのは二歳になる娘がチャイルドシートに寝ていることだ。
「運転変わろうか?」
「ええわ、お前もえらいやろ背もたれ横に倒しやーよ」
「大丈夫、次のサービスエリアまでなんとかなる」
私は大きなお腹を撫でる。8ヶ月になる。出産する前にと義父母から呼ばれた。
ただでさえしばらく会えなかったし、生まれてからもしばらく会えないだろう、娘も生まれてから数回しか会わせてない。
何度も義父母は届け物を送ってきた。おもちゃやお菓子や服や靴。私が選んで買ったのもあるけど大量に送ってくるものだから……。今娘が着ている着ぐるみの服も。一応着させてれば喜ぶだろう。
夫には使ってやれよって言われたけど選んで着せるのがどれだけ楽しみなことかわかってないのかな。
ようやく授かったんだから楽しみを奪わないでほしい。頂けるのはありがたいけどさ。
そうか、義父母から離れて3年以上になるのか。当初は同居をしてたんだけどあまりにも不躾で義母は、私に八つ当たりしてくるし、義父はセクハラ紛い、そんな義父母を仕事が忙しいと放っておいた夫。
ストレスだらけで子供も授からなかった。そもそも同居して半年でレスになった。
毎日のように孫はまだか、お前の血筋が悪いと罵られて毎日のように泣いていた。
私はとある日そのまま走って逃げた。
夫はようやくことの深刻さに気づいた。それから数ヶ月で逃げるように離れてレスも解消されてすぐ子供を授かった。
女の子だというと電話先でガッカリされたが初孫だからと大層可愛がってくれた。
そしてそっからの子育ての無駄なアドバイスを電話、メール、しまいには手紙で送ってくる。私はノイローゼになり何も手付かずになって子供が泣いている横で横たわってるところで夫はようやく気づいてくれて彼はブチギレて電話で義父母に怒ってくれた。
反省はしてくれていると思うがやはりものは送ってくる。
初孫だから可愛くって仕方ないんだよ、とまた夫はそういう。
それからまた二人目はまだか、一人目がかわいそうだと娘とのビデオ電話の時に何度も言う。しかもこれは夫がいない時だ。ああ。
実は娘を産んだ後もレスになった。
でもあまりにも二人目はまだか、一人目の子供は本当に息子の子供か? と言ってくるもんだからさらに腹が立った。
あなたたちの息子の子ではないと言うのには、訳があって夫の弟夫婦もなかなか授からず、夫の弟の方に原因がある男性不妊だったことを告げられたそうだ。
だから義父母たちは自分達の子供のせいだと言い始め、さらには私が不倫していると言う妄想虚言まで始めた。
もう怒りを通り越して何も言えない。夫はまた仕事が忙しいを理由に育児どころか家事もしない。
二人目……二人目……うるさい。
夫が寝てる時に私はまたがって一回だけした。
そしたら二人目ができた。
ああ。
渋滞が明けて懐かしい街並みが見えた。夫の実家の近くに我が実家もある。帰る時は実家にも寄るつもりだ。
義父母から離れるために親からも離れた。
ごめんなさい、お父さんお母さん。もうすぐ会わせますからね。親からも義父母とよく町で会うから嫌な思いしてないかしら。さんざん色々言われたらしいけど。
実家が見えた。お父さん仕事から帰ってる。そこは通り過ぎた。夫も私の親から怒られてもう会いたくないんだろう。私と娘だけで実家行ってきて、とまでも言ってた。
このお腹の子が生まれたら離婚を考えよう、大丈夫かしら。なんてね。夫にはたくさん私の代わりに稼いでもらうわ。
夫の家の近くまできた。
「うわ、なんやあれ」
私も同じ心境だ。
目の前に大きな鯉のぼり。他の家庭にはない、目立つ鯉のぼりが。
その下に夫の実家。
その時思い出した。義父母の言葉。
「次は後継ぎを産んでくれよ」
つまり男の子を産めよ、とのことだ。
すると車は停まり、Uターンした。
「どうしたのよ……家行かないの?」
「行かへん、お前の実家行くわ」
「なんで、泊まるって……」
「あほう、あんな家にもう帰らん」
夫は私の実家まで黙ってた。
久しぶりについた実家。親はとても喜んでいる。まだ寝てた娘も起きた。暑かったのか着ぐるみの服は脱がせて私の選んだ可愛い服に着替えさせた。
「大きくなったな、次の子はどっちだ」
父がそう言った。私は夫を見た。彼は微笑んだ。私は夫の決断に驚いた。だから私は言えた。
「次の子は女の子よ」
終
帰省 麻木香豆 @hacchi3dayo
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