第2話 後戻りはできない
ヤツはあまり勘が鋭くないのか、家の1m手前まで来ても気づいた素振りの一つも見せなかった。アイツまで後この歩幅だと10歩で届く。俺は決して気づかれないよう、確実に、しかし気配を殺して、ヤツの手前まで歩いて行った。
目の前までついた。相変わらずこっちに気づく気配はない。俺は取り敢えずナイフを仕舞い、右の拳に怒りを込めぶん殴った。男は「ギャ!」という声をあげたが石の椅子に頭をぶつけて、すぐに気を失った。
取り敢えずコイツには聞きたい事が合ったので逃げられない様に足にナイフを突き立てた。鉄が肉を抉る。嫌な感触だった。取り敢えずはこれで不足の事態が合ったとしても簡単には逃げられないだろうと思い、その後椅子にそこらへんに落ちていた縄を使って縛りあげた。息がしずらそうであったが、そんなことを構う訳が無かった。
やがて男は呻き声をあげながら気を取り戻した。どうやら状況がつかめていないらしい。辺りをキョロキョロと見渡している。やがて俺に気が付いたのか、「あんたは一体…?」とほざきだした。やはりフードを被っているいるから俺の事が分かっていないのか、「助けてください」なんてズレた事を言ってやがった。
「これで分かるか? 見覚えがあるだろ?」
俺が顔が見やすい様にフードを取り外し聞いたところ、帰ってきた答えは、想像していたものとは違った。
「…誰ですか? どこかでお会いしたことがおありで?」
俺は気が付いたら顔をぶん殴っていた。俺があれからずっと忘れなかったのに対して、コイツは記憶にも残っていなかったのだ。殴り続けたかったが、聞きたいことはまだまだあったので取り敢えず殴るのを止めて質問に戻った。
「まぁ良い。 お前に聞きたい事があるんだ。8年前にある町を襲っただろ? その時のメンバーは今どこで何してる?」
「8年前? そんな昔の事覚えてる訳…」
男は最後まで言い切れなかった。俺が足で顔面を蹴り上げていたからだ。
俺の事を覚えていないだけでなく、あの日の事も全然覚えていなかった事に俺は怒りを隠しきれなかった。
その後も拷問しながら情報を聞き出したが、殆どが役に立たない情報だった。
・今はグループは解散している。
・仲間とは連絡を殆ど取っていない。
この位の情報しか手に入らなかった。しかし役立つこともあった。組織のメンバーの一人の顔写真を持っていたことだった。俺が写真をポッケに入れていると、男は「思い出した…、」と言い出した。
「お前、俺が殺したヤツのガキだろ? 復讐なんてアイツらが喜ぶと思ってんのか?」
「なんでお前に母さん達の考えが分かんだよ。 俺でさえ分かんねえのに。」
「そりゃ自分のガキが人殺しなんかしてたら嫌だろう?」
「ならなんでお前は母さんたちを殺したんだよ。」
そう聞いた俺に対して帰ってきたのは、俺の考えの及ばない答えだった。
「偶々だ。」
「偶々? 」
「あぁ、俺たちが獲物を探していて、その時偶々近くにお前たちが居た。それだけだ。」
何を言われても許す気は毛頭なかったが、あまりのクソっぷりに何も返す事が出来なかった。すると、それを俺がビビってる?戦意喪失している等と思ったのかは分からないが、男は明らかに最初より調子に乗って喋りだした。
「お前らのとこはしけてたよな~、全然金目のものも無かったし、売れそうなガキなんかも全然いなかった。」
俺がそれに対して何も言わないと、更に男は続けた。
「おい、お前。今謝れば許してやるぞ。分かったらさっさとこの縄をほどけ!」
もう我慢の限界だった。こいつを調子づかせればなにかこちらの得になることを話すかと思ったが、何も言わないし、何より死者への暴言しか吐かない。
もう生かしておく価値は無いと思いポッケから拾ったナイフを取りだした。するとさっきまでベラベラ暴言を吐いていた男の顔色が明らかに変わった。
「お、おい。冗談だろ。 悪かったって。さっきのは全部嘘だって。ホントはあれからずっと後悔していたんだ。 教会にも行った。 反省したんだ。だから殺さないでくれ、な?な?な?」
「それをいの一番に言っていたらまだ結果は変わったかもな。」
俺がそう告げると男は泣き落としは通用しないと判断したのか、別の事を言い出した。
「ひ、人を殺すってことがどういうことなのか、分かってんのか?もう潔白な体で無くなって、お前が嫌悪してる俺らと同類になるってことなんだぞ!!? そうはなりたくなねえだろ!?」
「別に。」
もうそんなこと気にしてられるような段階はとっくに過ぎていた。
ナイフを男の心臓部分に当てがった。何かをまだ喚いていたようだったが、もう何を言ってるか分からなかった。懺悔の言葉だったのかもしれないし、怨嗟の声だったのかもしれない。しかし、全てがどうでもよかった。
ズブリ。
刃が心臓を貫いた。男は相も変わらず何かを叫んでいる。しかし5分もすればもう何も聞こえてこなくなっていた。相変わらず嫌な感触は手に残っていたが、あまり気にならなかった。俺はゲロを吐きそうになったが、耐えた。さっきまで気が付かなかったが手は赤色に染まっていた。
親の仇を殺した感想としては、達成感なんてものはあまりなく、「もうこれで戻れなくなってしまった。」というものだった。俺は取り敢えず今後の方針を固めるべく、家に帰ることにした。
俺にヒーローは訪れなかった。 理系メガネザル @Saru-Yama
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