第12話 ~家族の歴史~
出産予定日が近づくにつれて、両親や祖父母たちが我が家に荷物を運び込んだり、物置にして開かずの間になっている部屋からあれこれ発掘してきたりしていた。引っ張り出してきたものを見せ合って、思い出話が繰り返されていた。そんなことを繰り返しているうちにリビングと寝室にベビーベッドが設置され、学生の下宿から赤ん坊がいる若夫婦の家へとリフォームされていった。
今日も、俺の母が祖母たちを引き連れて、大きな布の包みを持ってきた。
「和音(おと)、これ、見覚えがあるでしょう?」
「こっちが橘花(きっか)が赤ん坊の時に使ってたので、こっちが皐希(こうき)が使っていたのかな。」「お義母さん、まだとってあったんですね。どうせいつか必要になるって言い含められて、和音と二人で弟たちを子守していたからね。」
「古いものだけれど、親に支援されている身では贅沢は言えないよ。」
「まあ、経済的な問題もあるけれど、ここにあるものって、私たち家族の歴史なの。」
「3歳以降で使うようなのは、さすがにあなたたちが生まれたときに新調して、橘花と皐希が使ったものが多いけれど、これから使う赤ん坊用のものだと、古いものは60年か80年ぐらい前から使っているものもあるのよ。」
「3世代にわたって使ってきて、あなたたちの子が4世代目なんてのもあるからね。」
「お互い他人のことは言えないけれど、みんな早期に結婚して18歳前後で最初の子ができているから、あなたたちの祖父母である私たちだってまだ60歳になっていないから、結構いろいろなものが残っているからね。中には、私たちが赤ん坊の時に使って、自分の子に使ったものが、孫も同じように使って、孫のあなたたちが自分の子に使おうとしているなんてものもある。」
「このベビーベッドなんかも60年前から家にあるものだしね。」
「世代交代が速いから、引っ越しなんかのたびに整理しようとするのだけれど、なんだかんだですぐ必要になったりしてね。」
「新しいのがいいなら、頑張って働くことね。」
いつの間にかアルバムを引っ張り出してきて、今日も思い出話に花が咲いている。こうなると長いので、持ってきてもらったものを片付けつつ、母たちの話し相手を桜花(おか)にまかせてしまう。桜花の母親の洋子(ようこ)さんが存命だったら、この輪の中にいたのだろうなと、壁に飾られた両親が存命だった頃の桜花の家族写真を見ながら、ふと思ってしまう。
珍しく聞き役に徹している桜花に違和感を覚えながら、午前中に買っておいたヨモギの柏餅を10個皿に盛り付けて、残りの二つを別のさらに盛り付けて仏壇に供えた。柏餅の皿をテーブルに置くと、桜花が自分の腰をさすっていた。
「どうしたの?」
「なんか腰に違和感があったの。すぐに収まったから気にしないで。」
「丁度いいから、その柏餅を食べておきなさい。まだ先のことだけど、食べておかないと後が大変よ。和音、用意するように言ってあった桜花の荷物を持っていらっしゃい。」
「え?」
「『え?』じゃないの。これだから男の子は役に立たない。」
「病院(相田診療所)には、これから向かうって連絡しておく。」
「洋子さん、旦那たちに車を出してもらえるように言っておいて。」
俺と桜花を放置して、母たちが席を立って行った。
「和音、今からだと、この子の誕生日は私たちと同じ日にできそう。」
「え?」
「多分、陣痛の予兆だと思う。」
それから後のことは、記憶が曖昧だ。ずいぶん長かったようにも思うし、短かったようにも思える。気が付いたら出産が終わっていた。桜花の父親から名前をもらって和也(かずや)と名付ける予定の男の赤ん坊を横目に見つつ、疲れ果てて病室で眠っている桜花の手を握っていた。
病室から出ると、「次は私たちの番ね」という幼馴染の夫婦、俺の両親、祖父母たち、相田診療所や相田薬局のおじさんやおばさんたちに囲まれた。
「あらためて、おめでとう。」
俺たち夫婦は幸せなのだろう。我が子の誕生をこんなにも多くの人たちが喜んでくれている。これまで世話になって数々のことが思い出される。何か返答しなければと思うが、なかなか言葉にならない。だから短くこう言って頭を下げた。
「ありがとう。そして、これからも応援してください。」
---
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
幼馴染のカップルの話を書きたくてプロット的にいくつか書いたものを短編にまとめてみました。本当はこれをベースに、少し長めのものを本格的に書いてみたかったのですが、登場人物の会話にしても、話の組み立てにしても、まだまだ力不足だったようです。別の設定で別の話を書いてみたくなったこともあり、作中で1年たったところで区切りとしました。
カップルの話って難しいですね。
和音(おと)君と桜花(おか)さん 舞夢宜人 @MyTime1969
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