第46話 英雄となった日(番外編)

「……また、爆弾魔かよ!!」


 いつもの日常。いつもの高校生活……いつもの遥との甘々な一時を過ごせると信じていたいのに。


 今この瞬間、俺は自爆テロに遭おうとしていた。


「遙、お前のせいでええええええええッッ!!」

「くそおおおおおおおおお……」



 ・

 ・

 ・



 さかのぼること、一時間前。

 昼休憩となって俺は、遥と共に廊下に出た。


「今日のお昼どうしようか」


 遥の手元には、手作りのお弁当らしきものがあった。多分これは“誘ってよ”と言いたいのだろう。俺はそれに応えた。



「そうだな、一緒に屋上へ行くか」

「うんうん。二人きりだね」

「お、おう」



 照れくさくも屋上を目指していく。

 今日もきっと誰もいない空間でまったりとお弁当を食べられる。



 ――そう思っていたのに。



 屋上に辿り着くと異変があった。

 まるで俺たちを待っていたかのように、男が立っていた。コイツは……うちの生徒で間違いない。制服を着ているし。


 だけど、誰だ?



「ようやく来たか……天満 遙!」

「俺を知っているのか」


「知っているとも。僕の名は『奥村おくむら しゅう』……元校長の息子さ」



「…………マジか!!」

「うそ……! 遙くん! あの男子、まさか」



 遥も慌てて身を引く。

 俺も最大の警戒で身構える。

 やべぇ、あの元校長・奥村の息子か。

 そりゃそうか、いるよな――息子。


 奥村 愁。


 身長170cmはあるだろうか、なかなかに高身長。顔も悪くはない。モテそうな顔をしている。だが、なんだろう……あの元校長の血を受け継いでいるだけある。顔がなかなかそっくりだ。


「僕は悲しい。父さんが爆弾テロ犯のような扱いを受け……不当に逮捕され、校長の地位を失った。いや、それどころが全てを失った。……天満 遙、貴様のせいでな!!」


「俺のせいかよ。なんでそうなる?」

「お前が父さんを陥れたんだろうが!! そんな女と付き合うから、父さんは頭がおかしくなってしまった!!」


「なんだと……俺と遥のせいだって言いたいのか?」


 聞き返すと、奥村の息子・愁は冷たい眼差しで当然のように「ああ、お前達二人のせいだ」とハッキリ断言した。


 コイツ……狂ってやがる。

 あの奥村にそっくりだ。


「いい加減にしろよ、お前。俺はまだいいとしても、遥まで巻き込むな! いいか、あの元校長はな、遥を階段から突き落としたんだぞ。先に手を出してきたのは元校長の方だ!」


「……黙れ」



「なに?」

「黙れえええええ!!」



 発狂する奥村は、スクールバッグのチャックを開けた。

 すると中には見たことあるような『機械』があった。


「お、お前まさか……それ」

「そうだ、これは父さんが残してくれた最後の爆弾・・・・・だァ!!」


「お前!!」


「おっと動くなよ、遙。学校を吹き飛ばすぞ!!」


「正気か! 自分が言っていることが分かっているのか!?」

「ああ、僕は正気さ。だから、遙とお前の女を道連れにして死んでやる!!!」


 くそ、またかよ。

 親子揃って頭おかしいんじゃねぇの!?



「遥、ここは危険だ。逃げろ!」

「ううん。この前のわたしは何も出来なかった。だからね、今こそ借りを返す時なの!」

「だ、だが……ヤツは爆弾を持っているんだぞ。どう対処するんだよ?」


「そうだね……前の爆弾はどんな感じだったの?」

「以前のは時限式だった。タイムリミットは十分しかない」

「そう。なら、爆弾を奪って今は誰も使っていないプールに投げ込むっていうのはどう?」


「なるほど、それしかなさそうだな。だが、どうやって奪う」

「二人の力を合わせて」

「……分かった。万が一があるかもだからな、今の内に言っておく。……愛しているよ、遥」

「うん、わたしも遙くんを愛してる」



 しっかりと目線を合わせ、俺は遥から距離を取っていく。



「なんだ、こんな時にプロポーズかぁ!? 随分と余裕があるな、遙。だがな、もうおしまいだ!!」


「まて、奥村。話がある」

「話ィ? 話なら地獄で聞いてやるぞ、ベイベー!」



 だめだ、話にならねぇ。

 会話は不可能かもしれない。

 だが、それでも。



「奥村、お前はまだ犯罪者ではない。わざわざ罪を負う必要はないだろう」

「……もう僕には何もない。あの事件から孤立した」


「まだやり直せるさ、人生ってそういうもんだろ」

「そんなわけがない!! なら、なんでこんなに毎日が苦しい!!」


「親の責任はあるだろうが、別にお前はお前だ。逃げるという選択肢もあるはずだ」

「逃げる!? そんな敗北者みたいな真似ができるか!」


「だから、やり直せばいいだろ。転校とか」


「ふざけるな。この学校は父さんの学校だ!! 奪われてなるものかあああ!!」



 興奮する奥村は、今にも起爆しそうだった。だが、俺との会話で隙だらけになっていた。


 うまく立ち回っていた遥は、奥村の抱えているスクールバッグを奪い取る。



「ナイス、遥!!」

「うまくいった!! 遙くんのおかげだよ!」



 よし、これで……!



「くっそ!! よくも僕を騙したなあああああああああああああ!!」



 俺は、遥の方へ寄り、体を支えて走り出す。プールを目指す!!



 * * *



 全力疾走で屋上を降りていく。階段をどんどん下へ。背後からは、目の血走った奥村が悪鬼となって追い駆けてくる。表情が怖すぎだろ!


 なんとか逃げ続け、ついに昇降口へ。


 よし、まだ距離はある。

 靴を履き替えている余裕はないので、上履きのままプールを目指す。



「……はぁ、はぁ」

「遙くん、大丈夫?」

「遥は平気なのか」

「うん、わたしは陸上部だったからね」



 そうだ、ああ――そうだった。

 俺より足が早いわけだよ。



 やがてプールに到着。

 しまった、まだ扉が開いていない!!



「ふははは、ざまぁみろ!! 今日はどの学年もプールの授業がないんだよ、バ~カ!!」



 背後から接近する奥村が邪悪に笑う。

 まずいな、追い付かれる。



「遥、俺を踏み台にしろッ!!」

「で、でも……」

「俺より遥の方が足が早い。早く!!」


「う、うん」



 俺は低姿勢になり、背中に乗ってもらった。遥は身軽に俺を踏み台にして高い柵を乗り越えた。爆弾を抱えたまま。



「馬鹿なあああああ!!」

「奥村、お前の負けだあああああ!!」



 俺は、あくまで正義の為に。

 この学校を守るために鉄拳を振るった。奥村はビビって叫んだ。



「や、やめろおおおおおおおおおおおお!!」

「うおおおおおおおおおおおおッッ!!」



 バゴォっと俺の拳が奥村の頬にメリ込む。多分、三回転はして奥村は地面へ沈んだ。


 その直後、遥がピョンピョン飛び跳ねて帰ってきた。



 そして――、




『ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ……!!!!!』




 大爆発が起きたんだ。




 * * *



 この事件により、奥村は逮捕された。

 俺と遥は学校を守った英雄として認知されるようになり、一躍有名人となってしまった。



 ――教室内――



「お昼の爆発やばかったよなぁ!」「爆弾テロらしいよ」「ああ、同じクラスの天満くんと小桜さんが阻止したんだって!」「うそー! なにその映画みたいな話!」「マジィ!? 凄すぎるだろ」「天満くん、最近かっこいいよね」「うん、私も気になってる」「でも、小桜さんと付き合ってるっぽいよね」「え~、まだチャンスないかなぁ」「天満くんはヒーローだな」



 ――とまぁ、大騒ぎになってしまった。



 ……結婚してから俺は、どんどん人生が変わっていくなぁ。




【あとがき】


 お久しぶりです。

 やっと番外編(ほぼ本編)が公開できました。


 二人を動かすのは楽しいです。

 ワチャワチャした日常、また機会があったら書きたいです。


 では、また。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話 桜井正宗 @hana6hana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ