動物の園

結騎 了

#365日ショートショート 119

 男は新しくできた動物園へ来た。

 駐車場の位置が分かり辛かったが、作業服の案内人が身振り手振りで教えてくれた。あなたはあちらです、と。指示されるまま、中古の軽でぐるりとUターンする。確かに男は身障者ではない。遠い駐車場でも何の問題もなかった。

 車を降り5分ほど歩くとゲートが見えた。思ったより小さく、装飾も少ない。一見すると動物園とは分からないほどだ。これも不景気の影響だろうか。

 券売機で入場券を買い、受付を済ませ、ゲートをくぐると…… そこには広大な敷地が広がっていた。見渡す限りの草原。そして所々に木々が生い茂っている。あちらには岩場、反対側には水辺もある。よくよく観察すると鳥や小動物がうろうろしており、自然と高揚する。しかし、順路らしきものが見当たらない。なるほど。これはもしや、散策型のコンセプトだろうか。

 男は足を踏み出し、小一時間ほどそこを歩き回った。動物の種類は少ないが、柵もガラスもなく間近でその生態を観察できるのは興味深い。兎と触れ合い、鳥を仰いだ。一度敷地の端まで歩いてみたが、高い壁は表面が鏡になっており、こちらが映っているだけだった。遠くから見たら景色が続いているように見える、粋な演出だ。

 ひとしきり堪能し、男はゲートを後にした。違う方向から親子が歩いてくる。「楽しかった〜。また行きたい!」「そうね、また来ましょうね」。そう話しながら、高級なミニバンへ乗り込んでいった。ほう、別の出口もあったのか。それは気づかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

動物の園 結騎 了 @slinky_dog_s11

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ