【短編853文字】墓地『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』

ツネワタ

第1話

 毎夜、墓地で誰かが踊っているらしい。


 老人はその真偽を確かめるべく墓に向かった。


 鎖で固められた堅牢なつくりの扉をいくつも進むと、彼は驚いた。


 墓石の並ぶ夜闇の中、裸足で女が一心不乱に踊っていたのだ。


 何をしているのかと問うと「死者の魂を呼び寄せていた」と答えた。

 どうやってあの堅固な扉を突破したのだろうか。なぜここにいるのか。


 老人は女の話を詳しく聞き、彼女がシャーマンである事を知った。


 どうやら彼女は魂を呼び寄せて、亡霊たちの無念を晴らしているのだという。

 しかし、女の『黄泉還り』の力はおそらく真実だろう、と彼は思った。


 物言わぬ死体が土葬されているハズの地中から幾つものノック音が聴こえるからだ。


「彼らを休ませてあげることが私の務めなのよ。でも霊は疑り深い。だから大変なの」


 話は大体わかった――


 だが、それでも老人は女の起こす事を信じ切る事が出来ずにこう言った。


「他に何か超常現象を起こしてみろ。そしたら信じてやる」

 ……と彼が言い終えた後に、老人は自身が四〇歳ほど若返っている事に気付いた。

「これはすごいッ! 本物だ! 若返っているッ!」

 ……と驚嘆する彼は「一つ頼みたい事がある」と彼女に切り出した。


 彼の願いは最期に言葉を交わせなかった妻を黄泉還らせてほしいというものだった。


「厳しく当たるばかりで良い思いをさせてやれなかった妻に感謝を伝えたい」

 ……と彼が言い終える前に、老人の目の前に若い姿の妻が立っていた。

 彼には言わなければいけない事、謝らねばならない事がたくさんあったが――

 結局口に出来たのは「愛してる。ありがとう」の二言だけだった。


 これで思い残す事は何もない。すると……。


「ねえ、あなたはどうやってここまで来たの? 扉は施錠されていたでしょう?」

「それは普通に…… 普通に? いや、あれ?」


 ……と彼が言い淀んでいる内に彼の姿はみるみる薄れ、そのまま消えてしまった。


「よかったね。もう休んで良いんだよ…… おやすみ」

 毎夜、墓地で誰かが踊っているらしい。


 真偽を知りたい人はぜひ自分の目で確かめてみてくれ。

 疑り深い人は特に。

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【短編853文字】墓地『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』 ツネワタ @tsunewata0816

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