Bar37本目:終結、それから

「皆の者! ここに居る異世界より現れし勇者ゼンザイとその一行の働きにより、魔王は退治された! 余が戴冠してから悩まされ続けた魔王軍の脅威を取り払ったこの者達に、盛大な拍手を!」

 城門の上、広場が良く見渡せるデッキに並んだ俺達7人に、城前広場に集まったウルク市民の皆さんによって惜しみの無い拍手が送られた。

 こう云うのは苦手だから代表は俺じゃなくてアルーズさんやヴィヴィさんにとも言ったのだけど、当の仲間達には『止めを刺したのは2人なのだから』と譲られ、王様にも『異世界よりの救世主の方が通りが良い』とも言われ、余り固辞し過ぎるのも良くないと思い、渋々引き受けた。

 因みに隣に並ぶ七妃は慣れない数多の視線を浴びて半身俺の後ろに隠れて震えているので、俺が代表としてセンターに立って良かったと思う。勇者七妃は、また機会が有れば。

 本当は黒風も立派な仲間だしロッシ王もそれは認めてくれたけど、単純に馬がここまで上がって来れないと云う理由で、広場で馬車屋のマイさんに綱を持たれて俺達を見上げている。……あ、目が合った。その目は何だか誇らし気だ。気の所為か、マイさんも。


「さて。君達異世界から来た2人には住居を与えたいと思うのだけど、住みたい街や何か、希望は有るかい?」

 凱旋セレモニーが終わった後、城内の執務室に通されて向かいのソファに座る俺達に、ロッシ王は威厳を取り払って訊ねて来た。

 これから住処を探さなくてはいけないと思っていたからこの申し出は僥倖だけど、急に言われてもな。

「んー、この街が良いかな? やっぱり大きい街だし、色々と便利だし。ねっ、善哉ぜんざいっ!」

「そうですね。未だこの世界に不慣れな俺達にとっては、この街が一番暮らしやすいと思います」

 例えばルダオに住んで毎日新鮮な海鮮に舌鼓を打つのも憧れだけど、先ずは毎日の暮らしになれる事が先決だ。

「分かった、じゃあこの街に新居を用意させよう。完成するまでは、宿で暮らすと良い」

「……新居……」

 ポツリと繰り返した、七妃の頬が真っ赤に染まる。

「おや、君達は夫婦や恋人同士では無いのかい? 仲が良いから、てっきりそうだと思っていたんだけどな」

「私もそう思っていたのだけれど?」

「俺もだ」

 口々に好きな事を言い出す王様と、一緒に戦った面々。

「そう云うんじゃないんですけど……」

「なら、住居は分けた方が良いのかな? どうする?」

「……あ、あーしと善哉ぜんざいは全然そんなのじゃ無いですけどっ! でも2軒も頂く訳にはいかないから、一緒で良いですっ!」

 七妃は急に立ち上がって叫び、そして座った。

 ……良いのか。

「ふふっ」

 そんな七妃と俺を見比べて笑う、ロッシ王。何が面白いのか。

「御意。これからの仕事や身分の証明なんかはギルドに登録してする事になるから、その辺の案内は、ヴィヴィ君やグァルド君にお願いして良いかな」

「ええ。2人とも、この後に案内するから、少し時間を頂戴ね」

 ――ギルド。何とも中2病心が騒めく単語だ。

 でもこれからは、俺達の日常になって行くんだな。

 ……それにしても、王様が『御意』って言っちゃダメじゃない?

「有り難うヴィヴィ君、頼んだよ。しかし、魔王の正体が、邪悪な魔力の吹き溜まりだったとはね」

「本当。道理で私達の魔力が有効だった訳ね」

「魔力を籠めない攻撃は無効だったしな」

 ロッシ王には、報告の際にその正体も伝えてある。それでもさっき『魔王を退治』と街の人に伝えたのは、余計な不安を招かない為だと言っていた。

「風、何でそんな邪悪な魔力の吹き溜まりが出来たのか、教えて貰えるかな?」

 フランクに風に話し掛ける王様。それに対する風の声は、俺達にも聞こえた。

『うん、全部終わったから、やっと教えてあげられるよ! あの島は元々、ミモリちゃん達の一族が護っていた聖地が有った所でね。お話に書いてある様にミモリちゃんが力を解放したから世界中に行き渡って適性のある人が同じ力を使える様になったんだけど、それは元々清濁併せ持つ力だった物のの力だけで、濁の部分は地中に残った儘、増えて、濃くなって。それが十数年前に吹き出しちゃったみたいだね』

「成る程。また湧き出る恐れは有るのかな?」

『大丈夫だと思うよ。ヨシヤ君と七妃ちゃんが全部中和してくれて、ヴィヴィちゃんが穴を閉じてくれたし』

「分かった、教えてくれて有り難う」

『ううん、ロッシ君、それに皆も、また何か有ったら話し掛けてね!』

 室内に吹いていた風が消える。

「……だ、そうだ。まさか、あの誰でも知っている物語が、史実だったとはね」

 ロッシ王の言葉に、皆揃って頷く。


 一頻り話をした俺達は、この後も色々と仕事を控えていると云うロッシ王を残して執務室を後にした。

 家が出来る迄の宿は直ぐに手配してくれるらしく、ギルドを案内されている内に終わるだろうと云う事だ。

 ギルドは色々あったが、俺達はメインの登録を、アルーズさん達と同じ冒険者ギルドにしておいた。この世界をもっと色々と知る為には、一番適していると思ったからだ。

 メインが戦闘職ギルドだと云うヴィヴィさん達とは違ってしまうが、どのギルドにもサブとして登録する事は出来たので、また一緒になる事も有るだろう。

 黒風と馬車は、取り敢えずマイさんの店に預かって貰う事にした。家が出来ても繋ぎっ放しにしなくてはいけないと懸念していたが、運動もさせてくれるそうなので渡りに船だ。勿論有料だが、黒風も大事な家族なので、そんな事は問題じゃない。

 皆で食事をして、ヴィヴィさん達、アルーズさん達と別れて、俺と七妃は手配して貰った宿に向かった。


「っあーっ! 本当に終わったんだねっ!」

 その途中、不意に立ち止まった七妃は、大きく伸びをした。夕風が、優しく吹き抜ける。

「ああ、終わったな。ルナ様のお願いを、無事に達成する事が出来た」

「うんっ! ルナ様、喜んでくれるかな? ……あっ、この世界の誰かが行くまで分かんないかなっ」

「……かもな」

「でもさっ、結局勇者様の名前、ゼンザイになっちゃったねっ!」

 再び足を進めながら、七妃は俺に笑い掛けた。

「誰の所為だっ! ……まっ、開き直って善哉ぜんざいでも流行らせてみるかな」

「良いかもっ。お餅さえ有れば、後はあずきボーを出してお椀に溶かして入れるだけだもんねっ!」

 コロコロと笑う七妃。

「あれ? そう言えばあの戦いの最後、俺の事をゼンザイじゃなくてちゃんとヨシヤって呼ばなかったか?」

「んー? そうだっけっ? 聞き間違いぢゃない?」

 分かり易くすっとぼける七妃。

「まあ、良いか」

 いずれ、普通に呼ばせて見せるさ。

「そっ、良いぢゃん良いぢゃんっ!」

「何はともあれ、これからもよろしくな、七妃」

「うんっ! よろしく、善哉ぜんざいっ!」


 ――俺達はこの世界で、一緒に生きて行くのだから――。

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転移した世界で魔王を倒せって言われたから、あずきのアイスで無双します。 はるにひかる @Hika_Ru

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