ル―ニーズ イン ザ シアター【フリー台本】

江山菰

ル―ニーズ イン ザ シアター

*登場人物(すべて人名は演者任意で変更すること)


○A(○は苗字)・・・アラサー女性会社員。妹思い。妹への愛称呼びなどは任意で変更可(例:そのまま呼ぶ、雪子→ゆっきぃ、理沙→りっちゃん など)。


○B(○は苗字)・・・Aの四つか五つ年下のJD。Aの妹で姉思い。姉の呼び方は任意変更可(例:□□ちゃん、□□姉、お姉ちゃんなど)。一見清楚で可愛らしく、男なら構ってしまいたくなるタイプ。後半は柄が悪い。


C・・・Aの一つか二つ年下の同僚男性。育ちと性格はよいことになっている。後半は若干頭おかしい人。


*演技・編集上の注意

・作品ジャンル:あたおか系ラブコメ。

・SEや指定していない箇所のBGMは任意で。例示音源はあくまでも例示なので変更可。


*以下本文


場:小劇場のロビー

SE:SE:じゅうたん張りの廊下を急ぎ足で歩く音。可能なら二人分の足音



A「(少し息を切らして)お待たせ。ごめんねー遅くなって」


B「そんなに急がなくてもいいのに」


A「……二時までには必ず帰れるからって言われて休日出勤したのに、会社出るの三時過ぎちゃって、……あれ? まだ開場してないの?」


B「さっきアナウンスがあって、機材故障で30分遅れるんだって」


A「あー、じゃああんなに急がなくてもよかったんだ」


B「ねえ、あとちょっと時間あるし、開演前に何か飲まない? 劇場内では飲食不可だから」


A「あ、私払う」


B「チケット代出してもらったんだからお茶代くらい私に出させてよ」


A「いいって、チケットはCさんにもらったやつだし。ね、Cさん」


C「(控えめに)あ、俺も実家からもらっただけなんで……」


B「あ、お姉ちゃん、そちらの方が……?」


A「そうそう、こちらがCさん。Cさん、この子が私の妹のB」


B「Cさんですね。(お辞儀して)初めまして。姉がいつもお世話になっております。姉からお噂はかねがね伺ってます」


C「(若干どぎまぎして)……初めまして、Cと申します。○さんと同じ部署で色々教えていただいてます……よろしくお願いいたします」


A「Cさん、なに緊張してんのー、もーうちの妹がかわいいからって」


C「(棒)はい、すごくかわいいかたですね」


A「でしょー。私に全然似てないの。姉の欲目抜きでも、Bってほんとにかわいいんだよね。優しくて、控えめで、私の自慢の妹なのよ。Cさん、そういう子がタイプだって前言ってなかったっけ?」


B「(小声で)お姉ちゃん、やめてよ」


C「(若干動揺しつつ)あ、あの、とにかく、どれ飲みます? ……俺はほうじ茶で」


A「私はおしるこ。Bは?」


C「(小さく呟いて)おしるこ……」


B「(Cの台詞に被せて)うーん、抹茶ラテにしようかな」


C、さっさと自販機にスマホを翳して購入

SE:自販機で飲料を購入する音×3


A「あっ、何でさっさと払っちゃうのよ! 財布出してスタンバってたのに」


C「女性の前ではこのくらいカッコつけさせてくださいよ」


A「(小さく)あ……そうか、カッコつけさせないといけないんだったね」


C「(笑って)まだまだカッコつけ足りませんけどね」


A「(笑って)自販機じゃあね」


SE:ロビーのソファに座る音、缶飲料を開ける音


B「Cさん、観劇はよくなさるんですか?」


C「全然です。俺は見ないんですけど、母が芝居が好きで、この劇団のタニマチやってるんですよ。それで、『※※※』公演のチケットがもらえたんです」(※※※は任意の演目)


A「で、私が小耳にはさんで食いついたってわけ。私、こういう劇場でお芝居見るのってはじめて! なんかわくわくするね」


B「私も! あの『※※※』のチケットがとれるなんて、奇跡みたい! Cさんのおかげです。本当にありがとうございます」


C「いえ、俺もチケット持て余してたんで喜んでもらえてうれしいです」


A「ねえB、Cさんなかなかのイケメンでしょ。優しいし、仕事もすごく覚えが早いし、何でもきっちり仕上げてくれるし、ほんとにいい同僚なの。私こんな弟が欲しいっていうか」


B「(Aの台詞に被せて)お姉ちゃん、やめてよ。Cさんに迷惑でしょ」


C「迷惑ってわけではないんですけど、……あ、開場みたいですよ、そろそろ行きましょう」


SE:じゅうたん張りの廊下を歩く音


A「ねえ、B、Cさんってよく気が付くいい人でしょー。彼女募集中なんだって」


C「えっ」


A「この間、言ってたじゃない。ほら、一緒に問屋街回ったとき、帰りの車の中で」


C「い、言いましたけど……」


A「あのね、Bってすごく晩熟おくてで大人しくて、今まで彼氏が一人もいないの。こんなに清楚で可愛いのに」


B「(嗜めるように)お、お姉ちゃん!」


A「(Bの台詞に被せて)姉としてすごく心配してるのよ。Cさん、B、どうかなあ?」


C「どうかなあって言われましても……」


A「Bは性格もいいし、家事もばっちりで本当にいい子なの」


B「やめてってば! Cさんも困ってるでしょ」


A「Cさん、困ってる?」


C「えっ……と、ぐいぐい来られてちょっとビックリしてます」


A「何にビックリしてんの?」


C「あの……姉パワーをもろに浴びたっていうか……俺、きょうだいがいないので新鮮っていうか」


B「もう、お姉ちゃん、Cさんがこんなに言葉選んで気を遣ってくれてるじゃない! (Cの方を向いて)Cさん、ごめんなさい」


C「いえ、大丈夫ですよ」


SE:スマホの電話呼び出し音


A「(電話に出て)はい。あ……もう! 何で出た途端切れるかなあ! ……ごめん、ちょっとロビーで電話してくるね」


C「もしかして職場からですか?」


A「うん、多分バイトリーダーの子から。また来月のシフトのことよ。心配しなくていいから」


B「もうすぐ始まるよ?」


A「でもほっとけないのよ。もし間に合わなかったら次の幕間に入るから気にしないで。ゆっくりCさんと親睦深めて、連絡先の交換とかしといてね」


SE:遠ざかるAの足音

間。


B「(態度が豹変してここから柄悪く)おい」


C「(ここから少々不愛想に)何だよ」


B「あんた、うちのかわいい姉ちゃんによけ―なこと吹き込んでねーよなあ?」


C「よけいなことって」


B「おいおいにいちゃんよぉ、実はあたしらが知り合いなこととか、あたしがここいらではちょいと顔が知れてるってこととか、いろいろあるだろーがよぉ」


C「何も言ってないよ」


B「ふーん。で何、今日はなんであたしまで誘ったわけ?」


C「誘ってない」


B「あ"ぁ?」


C「Aさんしか誘ってないよ。もともとペアチケットだったのに、Aさんが無邪気な笑顔で妹も誘いたいっていうから買い足したよ! ああ、罪な女だ……俺の想いをぐっちゃぐちゃに踏みにじって、なお狂おしく愛おしい……」


B「(溜め息)はあぁ……姉ちゃん天然だからなぁ……そこがまた、尊みが深いんだけどさ」


C「(溜め息)これでもアピールしてるんだけどなぁ……仕事はできるのに、イミフなとこでなんか幼女みたいだったりとかさ、もう、いい加減にしてくれないと俺が死んでしまうんでやめてほしい……さっきの見た? 『おしるこ』だって! 『しるこ』じゃなくて、目きらきらさせて『おしるこ』だって。ちょっと天国が見えた……」


B「それな。あれは控えめに言って天国が見えた。殺しにきてたね、あれは」


C「ああ、Aさんと愛に満ち満ちた生活がしたい……思いっきりかわいがりたい……俺の愛で温めて、暑苦しがられたい」


B「はっ、あたしは一つ屋根の下で暮らしてるもんね! 寝顔とか風呂上がりの姿とか見てるよ! くやしーか、どうだ、くやしーだろ。やーいやーい」


C「くっ……俺のAさんを実家という牢獄から解放しろ!」


B「だったらさっさとコクれや、チキン野郎」


C「それはちょっとタイミング見計らって……だってさ、観劇に食いついてくれただけで感激しすぎて目眩がして鼻血出たし、体が持たない」


B「観劇で感激っていうとこ、マイナス方向にエモくてサブいぼが立つわ」


C「一緒に出張に行くのが決まった日なんか、帰り道で頭の中が真っ白になって、気が付いたら道に倒れてAさんの名を呼び続けてたし」


B「元ネタわかるやついんのかよ」


C「他人にわかってもらうためにやってるんじゃないから! Aさんへの愛の発露だから! とても自然なことだ。決しておかしなことじゃない」


B「(徐々にちょっと泣いて)不自然だし、おかしいだろうがよ……ばーか……」


C「なに泣いてんの」


B「あんたが、道で姉ちゃんの名前呼びながらぶっ倒れてるの想像したらさ……バッカじゃねーのっていう気持ちと、……わかる……わかりみが深すぎるって気持ちがマリアージュしてさ、さすがだよ……さすが、愛の奇行師と呼ばれた男」


C「知ってたんだな……俺の二つ名を」


B「知らねーわけねーだろ……更なる奇行を編み出さねえと、あんたには勝てねえ……ふふ……待ってな、こんどはあたしがぶっ潰してやっからよ」


C「望むところだ」


B「(おずおずと)握手、しやがれ」


C「ああ、いいとも! (熱い握手を交わして)これからもお互い、正々堂々とAさんを愛し続けていこう」


B「(泣きながら)おう」


C「(力強くマウントして)だが、現行法上、Aさんと結婚する権利が認められているのはこの俺だ」


B「(激昂して)超ムカつく! あーこいつぶっ殺してぇ!」


SE:さじまち劇場のオープニングのアナウンス


A「(SEに被せて)あーギリギリ間に合った! あれ? あんたたち何やってんの?」


B「(かわいく清楚な妹に戻って)あ、お姉ちゃん、観劇のこといろいろCさんに聞いて、ちょっと感激しちゃって」


C「観劇で感激(ちょっと鼻で笑って)」


B「(ドスの利いた声で)うるせえ黙れ」


C「あっはい」


A「えっ今なんか言った?」


C「いえ、何も」


B「(無邪気に愛らしく)お姉ちゃん、幕が上がるよ!」


SE:開幕の拍手


  ――終劇。

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