そして、地獄の蓋が

……………………


 ──そして、地獄の蓋が



『日本政府による独占は許さないが、アメリカ政府による独占は許すのか?』


『俺たちは独占したりはしない。国連に委託する』


『嘘吐きめ。あんたはとんだ嘘吐きだな、ネイト。どうなるかあんた自身も分かってないんだろう。違うか?』


『俺たちは──』


 そこでネイトの頭が弾け飛んだ。


『北上……?』


『動くな、アメリカ人。動けばお前も射殺する』


 100階層に現れた北上はシャーリーに銃口を向けていた。


『私はバックアップ。彼が任務に失敗した場合、ダンジョンマスターを殺害するのが仕事。恐らくはあなたもそうなのでしょう?』


『その通りだ。“グリムリーパー作戦”なんて、こんな作戦なんて認められるか。こいつのせいで何十万という人間が死んだんだ。それを宇宙を切り開くために生かす? ふざけるな。俺たちはそんな未来はごめんだ』


 北上がダンジョンマスターに銃口を向ける。


『お前のせいで大勢の人間だ死んだ。発狂し、苦しみ、絶望しながら死んでいった。俺は絶対にお前が許せない。殺してやる』


 ダンジョンマスターに向けて北上が引き金を引こうとしたとき。


「────!」


 凄まじい轟音──いや、咆哮を発してきた髪の背後に、子供が鉛筆で描いたような、そんな不格好な化け物が現れた。黒く、とげとげしいシルエットをしたそれは、その巨大な手で北上を掴み、持ち上げる。


「畜生! 畜生! 畜生!」


 そして、そのまま北上は握りつぶされた。


『どうやらあれがこのダンジョンのダンジョンボスらしい』


『やるかい、アルファ・リーダー?』


『ああ。やってやろう』


 そして、的矢たちは“絵に描いた化け物”との交戦を始める。


 “絵に描いた化け物”は巨大な腕を振るい、的矢たちを攻撃しようとする。


 だが、それを回避し、的矢たちは銃弾をひたすら化け物に叩き込む。


 梱包爆薬も使用され、グレネード弾も使用され、手榴弾も使用される。


 それでも“絵に描いた化け物”は倒れない。


『畜生。ダメージは入っているのか?』


『入っているはずだ。撃ち続けろ』


 “絵に描いた化け物”の速度は遅くなっている。ダメージが入っている証拠だ。


 “絵に描いた化け物”は銃弾の雨の中でグッと両足に力を込めると、的矢に向けて突撃してきた。的矢はその突撃を避けようとする。


 間一髪で突撃を回避した的矢がサーモバリックグレネード弾を“絵に描いた化け物”に叩き込む。絵に描いた化け物が燃え上がり、悶え苦しむ。


『このまま焼き殺せ。全員、サーモバリック弾を使用』


『了解』


 全員がサーモバリックグレネード弾を“絵に描いた化け物”に叩き込む。


 “絵に描いた化け物”が炎上し、炭になって焼け落ちていく。


 そして、それは地面に倒れた。


 炭が、灰に変わっていき、“絵に描いた化け物”は消滅する。


『クリア』


『クリア』


 他に化け物はいない。


「おい。ダンジョンマスター」


「?」


 今まで歌っていたダンジョンマスターが首を傾げる。


《無駄だよ。彼女は子供だ。正真正銘の子供だ。この世界にダンジョンが生まれたのも全ては子供の悪戯というわけだ。彼女は人間の言葉を理解できないし、ただみんなと遊ぶためだけにダンジョンを生み出したんだ》


 クソ野郎め。


《その怒りを叩きつけやるべきじゃないかな?》


 ……俺は最初からそのつもりだったさ。


 的矢が銃口をダンジョンマスターに向ける。


『大尉!?』


『アルファ・リーダー! 何を!?』


 信濃と陸奥が叫ぶ。


「俺はお前のようなクソのおかげで宇宙に行くなんてことはまっぴらごめんだ。それぐらいならば、この汚染された大地で地べたを這いずって生きていくとも。さようならだ、ダンジョンマスター。くたばりやがれ」


 的矢はそう宣言して銃弾をダンジョンマスターの頭に2発叩き込んだ。


 ダンジョンマスターの体が揺れ、地面に倒れる。


 そして、サイレンの音が響き始めた。


「サイレンの音が聞こえる」


 的矢は呟くようにそう言う。


《ことは全てなされた。彼女の体は地獄のそれで出来ている。地獄は死んだ彼女の死体を取り戻そうとするだろう。だが、そうはさせない。この体はボクが貰ってしまうから。永遠に地獄の手に渡ることはない》


 倒れたダンジョンマスタ―の死体が蠢き、それがラルヴァンダードの姿になる。


「やあ。これで肉体を持ったよ」


「ああ。これで全員が認識できる姿になったな」


「恋人にしてくれるかい?」


「その前にすることがあるだろう?」


 ダンジョンの床の一部が崩壊していき、階段が形成される。階段は地の底まで伸び、そしてそこは暖かな地獄へと繋がっていた。


「地獄を攻略する。エキストラステージとは気が利いている。ダンジョンの次は地獄だ。これまでの狩りをたっぷりと返してやる。地獄に進軍し、悪魔を殺し、地獄を征服する。お前と一緒に、ラル」


「ええ。君と一緒に」


 それから起きたことは世界中のダンジョンの消滅と、熊本ダンジョンの地獄への完全接続。そして第777統合特殊任務部隊特別情報小隊アルファ・セルによる地獄への逆侵攻であった。


 化け物を殺し、化け物を殺し、化け物を殺し続けた男は、ついに化け物たちの巣窟へと飛び込んだ。頼りになる相棒を連れて。


 地獄はこれから悪夢を味わうことになる。化け物たちは、悪魔たちは次々に殺され、地獄は地上によって征服されて行くのだ。そして、地上もまた地獄と完全接続したことによって、地上にも狂気が振りまかれた。


 2065年のカタストロフィ。


 地獄での戦いは未だに続いている。地球の地獄化は今も進んでいる。



 サイレンの音が聞こえる。



 ここは暖かい。



 地獄はここにある。




……………………

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人類VSダンジョン ~ダンジョンの脅威に人類は本気を出したようです~ 第616特別情報大隊 @616SiB

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