運命の再会

 女性は話を続けた。

「あなたのお母さんは弟のことを知ると、あなたのお父さんを許せなくなって。一度、お母さんがこの家に来られたの。弟のことを知ると私に、『弟のことも夫のことも絶対に許さない。ひどいうらぎりだ』って言って帰っていかれたわ。その後、あなたのお父さんが亡くなられて。」

 そこまで言うと女性は黙った。

 少しの沈黙が流れる。

「…では、母が殺したという事実を知っているわけではないんですね?」

 私は女性の話に少し考えて言った。

「そうね、殺意があることは私はあなたのお母さんから聞いたけど、あなたも知る通り、目撃者はいないから、本当のことはわからない。今の話は私の想像に過ぎないわね。でも…」

「でも?」

 私はこの家に来てからずっと感じていた胸騒ぎが、自分の考えが当たっていないことを願っていた。女性の言葉を待った。

「みのりさん、私があなたに伝えたかったのは、お父さんを殺した人が誰なのか、じゃないってことは気づいてるでしょ」

 ああ、やはり…。

 私は心の中で、そう思う。

「あなたは玲美ちゃんのお母さんですか」

 私は恐る恐る女性にそう尋ねた。

 女性は、ゆっくり頷いた。

 玲美ちゃん。

 私の同級生。

 そして、親友。

 そして、私の恋人…。

「あなたと娘が恋に落ちるなんて。運命はなんて残酷なのかしら。これからあなたがどうするかは任せるわ。私からあなたのお父さんと弟のことを娘にはとても言えないから」

 そう告げると、女性は、父親そっくりのその人形をケースに入れると、私の目の前に置いて、部屋から出て行った。

 私に人形を持ち帰って欲しい、ということだろう。

 私は、しばらくの間、その人形ケースを見つめ、そして、声をあげて泣くしかなかった。

 




 

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人でなしの恋 秋野りよお @oct988

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