第13話 黄金の血液

「へー、まだいたんだ。不死の紋章の子達。皇帝が全滅させたって聞いてたんだけどなー」

 今、距離があったのに太腿を両断された…。つまり何かしらの飛び道具を持っているに違いない。もう一度使われる前に殺さないと!!

 付け爪で左の手首を深々と突き刺した。痺れるような痛みがはしるが今は構っていられない。傷口画面塞がるのを塞ぐためにさらに深く抉った。どくどくと血が溢れてくる、これを剣に変化させようとしたが何故か死神が持っていそうな大鎌になってしまった。しかし、もう頓着していられない。ニタニタとヴァンパイアは笑っている、攻撃できる隙はあったのに何もしなかった、とでもいうような余裕を持った笑みだ。

 油断してくれるのならありがたい。


 地面を蹴り一気に距離を詰めて、大鎌を右にないだ。大鎌の切っ先が大きく弧を描き敵に迫るが鎌のリーチより僅かに距離を取られかわされた。

「速いだけの攻撃なんかあたらないわよ、これだから御三家は弱い」


 鎌の遠心力を無駄にせず、その場でコマのように回転して鎌を頭上に持ってくると今の一瞬でさらに自分から遠くに動いた敵に向かってジャンプして投げつけた。鎌のつかと自分の人差し指が血のワイヤーで繋がっているので鎌の形は崩れることなく敵に突き刺さるかと思いきや空中でバラバラになってしまった。何が起こった!?

 前にいる敵が何のアクションもしていない。しかしバラけた感じから考えるとやはり、あいつが関係あるのだろう。本当に何を?まさか飛び道具?いや、でもそんな素振りは無かったし視認できない飛び道具なんて……

「アミノ酸の組み合わせ次第では出来てしまうかもしれないのだ」

「透少年!?」

 地面に着地し、考えをめぐらしていると背後から幼いが残っているが知的で冷静な声が聞こえた。何を考えているんだ!?透少年の戦闘は自らが打って出る必要なんて無いのに!!

「あらあら、可愛いお坊ちゃんね。そこのお兄ちゃんが心配で来ちゃったのぉ?可愛いー剥製にして飾っちゃおうかしらクククッ」

 こちらに一歩踏み出した敵を透少年から離すために一気に懐に潜り込んで殴ろうとした拳は軽くかわされてしまった。

「キャッ、そんなに死にたいの?」

 身の危険を感じて素早く離れた、こんなに身体スペックが違うというのに触れ方すら出来ない。こんなに油断はしている敵を仕留められないなんて…

「舐めないでもらいたいのだ」

 透少年はそう言って余裕の微笑を浮かべた。その周囲にはいつのまにかあの大盾が浮いている。先程は気づかなかったが大きな黒い棺桶型をしている。その縁は鋭い刃物となっていた。

「ふーん、それ坊ちゃんの獲物だったの。中々厄介だった…」

 その声を遮って透少年のいつもより少し低い声が暗闇の中、発せられた。

「15メートル先。〇時の方向。ハーモニックモード。目標を殺すのだ」

 動体視力が上がった今ですらギリギリ見えるか見えないかの速度で衝撃波を放ちながらその浮遊盾のブレードが敵に迫る。あの盾、小刻みに振動している。こんなことも出来てしまうなんて透少年は凄い。

 それに対して敵が大きく飛び上がり逃れようとした。しかしどこかに掠ったらしく血が噴き出た。敵の白い洋服が赤く染まる。

「なかなっ………」

「お疲れさまでしたのだ。」

 空中に飛び隙を晒した敵に何処からか高速で飛んできた剣が敵の胸を貫いた。

「ぐっそぉ、ゆるざな…」

 浮遊する剣は敵を弄ぶように、くるっと回って遠心力で敵を空に飛ばすと自分でも追うのがやっとの速度で近づき切り刻んだ。空から敵の血や臓物がびしゃびしゃと降ってくる。

 白衣の電子天使パーシーエンジェルは大きすぎる白衣の裾を血が汚しながらはち切れるような笑顔で「ヒガンバナ、討伐完了なのだ」と言った。

 あの頭がとち狂ったようなヴァンパイアはヒガンバナっていうのか、どこにヒガンバナ要素があったのだろうか。謎だ、どうせハンター達のことだからその場のノリとかに違いない。

「ありがとう。透少年がいなかったら死んでたよ、今…」

「どう致しましたなのだ。何故か緊急事態の連絡が司令部や各部署に伝わっていないので今から僕は確認してくるのだ。リーダーは今、事務連絡や状況把握で忙しいので周辺の警備をしてほしいのだ」

 いきなりの状況報告を頭の中で整理した。つまり、本来なら作動する防衛設備がほとんど起こっていない状態だということだ。そして、その対応でオカマは手一杯で戦力外になっているのだ。

「分かった。他のみんなは?」

「他のみんなはそれぞれの任務を遂行しているはずなのだ。」

 透少年は腕を組んでそう答えた。

「了解、じゃあ気を付けてね」

「お兄ちゃんこそ、背後に気を付けるのだ。じゃあまたなのだ」

 そう言って、透少年は本部に入っていった。

「もっと、強くならないとな。」

 ハンターとはいえまだ、小学生の透少年に戦力として負けているのは如何なものだろうか。そう思いつつため息交じりにそう呟くと、周辺の警備をするための武器を手首を切り裂いて作り出した。やはり大鎌になってしまう、少々中二的な感じするが県よりもこっちの方が手になじむのでもうこっちでいっか。

 徐々に、征服者の紋章が持続している感覚がするのを感じつつ、ヒガンバナの死体から離れようとして、背後からとても冷たい何かに抱きつかれた。耳元に何かの吐息がかかる、身体は冷たいのにその吐息は熱かった。

「キャハッ。もう勝った気でいるのねぇ。かわいー、どうしちゃおっか?ねえねえどうされたい?わたしに」

 ぞっとした。足がすくんで手から力が抜けそうになる。取り落としそうになった大鎌を持ち直そうとすると、大鎌を持っていた右手が切り落とされた。右手から血が噴き出た、すぐに右手が再生していくが唐突な痛みに身をのけぞってしまう。

「キャッ、分かった。こんな状態になっても動かないしこうされたいんだねー」

 唐突に足を絡めてきたかと思いきや右の耳が食いちぎられた。地面に骨伝導型イヤホンが転がる。逃げようとして足を出そうとするとそれに合わせて絡められた足が太ももを蹴り上げ、体勢を崩し地面に転がってしまう。再生した右手と左手を使って距離を取ろうとしたがその瞬間、腰に鈍い衝撃がして動けなくなった。

「ゲハッ」

 血を吐いた。腰の骨を砕き胃を貫通して腹を突き破った感触がした。足が折れたときなんか比にならないほどの激痛に思わず悲鳴がついて出る。

「キャハ、喜んでくれてるみたいだね。ご褒美にこんなのも追加しちゃおー」

 そういった瞬間、両腕が切られ背中に莫大な圧力がかかった。肋骨がへし折れていく音がした。

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ワイングラスに血液を 水無月 陽 @119055sn

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