全世界単位策定委員会

スカイレイク

単位策定委員会開催

 ここは世界の中枢、あらゆる平行世界が収束する特異点、ここで本日は重要な議論がなされようとしていた……


「それではこれより世界統一単位策定会を開きます」


 現在の世界統一単位を持っている『地球』の議長の声によりその会は始まった。


「だからメートルってなんだよ! 地球の大きさに依存したような単位を使うんじゃねえよ!」


 そう『ワルド』の代表が言うとそこにさらなる反論が重なった。


「テメーらだって『ギガント』とかいう単位使ってるじゃねえか! 単位が巨人族基準になると困るんだよ!」


 反論したエルフに対し地球台表が取りなすように言う。


「現在のメートルは真空中を光が進む早さを基準にしています。これは全世界共通であり大変公平な単位かと思われます」


 そこにドワーフから文句が付く。


「わしらは鉱山の中にいる時間の方が長いんじゃぞ! 光の速さなど基準にしておったらワシらの世界での測定に不具合が出るじゃろうが!」


 そこへゴブリンの一言が燃えさかる議論のガソリンとなった。


「地球の単位にするならフィートとかいいんじゃないか? 体の大きさを基準にするならどこの世界でも基準がバラバラなときにおおよそのことが決まるだろう」


「ヤーポン方は滅ぼすべき」


「どうせどこの種族が基準になるかで揉めるんだよ!」


「あの単位系は人間が基準になりすぎじゃ! なんじゃ寒い日の気温が零度で自分の体温が百度って!」


 地球台表もそれに反論するかと思ったら……


「確かにヤード、ポンド、インチ、ガロン、オンス等は我々でも統一できていない単位であり問題があると思われます」


「じゃあメートルもやめちまえ! なんだよ名前の由来が『メタトロン』って! そんなローカル天使知らねえんだよ!」


「距離の単位については後日ということで、次の議題ですが、重さの単位は……」


「グラムはやめろよ? キログラム原器とかいう専用の機械を用意するのが面倒だからな」


「グラムの基準は水の重さではなかったか? 地球の単位は嫌いだがそれには合理性があるのではないか?」


 オーク台表がそう擁護したもののやはり紛糾してしまう。


「そもそも我々の世界と地球では同じ量の水を同じ秤で計っても別の値をさすことが分かっています。やはり世界によって重さが違うのは如何なものかと」


 ドワーフ台表がそれに反論する。


「キログラム原器とやらを大量に複製すれば良いのではないか? ワシらの冶金技術なら寸分違わぬものが作れるぞ」


「何地球に媚びてんだよ! お前らくらいしか作れないんだから一緒だろうが! それともこの世界連合参加世界の全てに配布する用意でもあるのか?」


「む……このくらい簡単じゃろう、地球とてキログラム原器はいくつかあると聞いたぞ、それを貸し出して複製するだけじゃろう」


 それにオーガが切れる。


「そんな細かいことができるわけ内だろ! うちの連中は破壊と殺戮くらいしか取り柄が無いんだよ!」


「それは果たして自慢げにいうことなのか……」


「ああん! 誰だ今減らず口をたたいたヤツは! ここがオーガの里だったらぶち殺してるぞ!」


「野蛮じゃのう……」


 その言葉は、もうすでにキレ散らかしているオークには届かなかった。


「えー……重さも統一が出来ないようなので先送りして、時間の統一を求めたいと思います」


 地球台表はそう言ったのだが、やはりこれも揉めることになった。


「そもそも太陽があるくらいしか同じ要素が無いのにどうやって策定なさる気で?」


「世界で太陽が見えてから沈むあいだを十二等分してそれを……」


「あの……うちの世界はずっと太陽が地平線辺りをうろついて沈まないんですけど……」


 地球台表も常時白夜の世界があるとは想定していなかったのか狼狽する。


「そもそも時間なんて統一する必要があるのか? 朝になったら目が覚めて日が沈んだら寝るもんじゃねえのか?」


 本能に忠実なオークがそう発言したものの、目の下にある隈がこの策定委員会に時間を無視して参加させられたことを語っている。


「世界間での同期は不可能だし、そこは諦めるしか無かろう?」


 ホビットがそう言うと大勢はそちらにつき結局議論が空回りするだけとなった。


「それでは本日も議論の結論は出ずということで、この記録を持ち帰らせていただきます」


 地球台表の言葉に『ちゃんと意見は聞けよ!』などの温かい言葉があったが、結局のところ議論は踊って進まないものだった。

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