裏コミケ壊滅
@HasumiChouji
裏コミケ壊滅
「貴様らは、長年に渡ってオタクのフリをしながら……ツイフェミどもの手先と化していた。判っているな?」
いや……待て……twitter社が経営破綻して何年が経った?
だが「ツイフェミ」と云う言葉だけは残った。単に「自分と違う意見の誰か」を罵る為の……使う者によって意味が大きく違うと云う意味では「意味のない用語」として。
だが……絶対権力を持った者に「ツイフェミ」と断じられる事は……「パブリック・エナミー」扱いされる事そのものだ。(なお、ここで言う「パブリック・エナミー」はアメリカの昔のミュージシャンの事ではない。念の為)
「最早、貴様らのような度し難い者達には……真の『萌え』とは何かを強制的に教えるしか無いな」
白銀の鎧を着た、その男は……俺達に向かって、そう叫んだ。
「こいつらを脳改造しろ」
堕落した「正義の味方」は、奴の手下どもに命令した。
奴らは……いつしか、単なる内輪向けのプロパガンダ……と言うより敵対者を嘲笑う為の内輪の冗談……に過ぎなかったモノを自分で信じてしまった。
かつては「敵対者を嘲笑う為の内輪の冗談」だったモノは……「俺達の味方」が下手に権力を握った結果、「絶対の真理」と化してしまった。
それが……「俺達の味方」が圧政者に変る最初の切っ掛けだった。
もう遅い。
あの時、こうしていれば……今更、そんな事を考えても、何の意味も無い。
俺達の運命は決った。次に意識を取り戻した時……俺は俺ではなくなっているだろう。
「すいません。『日曜日の美尻』の新刊有りますか?」
「あ〜、どうも、お久しぶりです」
彼の名は知らない。
だが……まだ「表」のコミケにブースを出せていた頃から良く来てくれていた客だ。
ふと……周囲を見回す。
あの「表現の自由の
だが……ここに来ているのは……。
まだ、俺が今より若く純真な中年だった頃(子供でも若者でもない。念の為)……あの自称「
『また、今年もSF大会の参加者の平均年齢が1つ上がりました』
『フジロックに行ったけど、俺の好きな歌手の歌を聴いてる人達も似たような状況だよ』
『いや、SF大会なら子供を連れて来てる人も居るから、まだ、マシだよ』
『つか、その辺りのサブカル系はまだいいよ。俺、とうとう五〇になったけど、考古学マニアの集りだと俺が一番若いんだぞ』
ついに……コミケでエロ同人誌を買い求める人達も……そうなってしまった。
長年の「お得意さん」達の髪は……ある人は薄くなり、また、ある人は白く染まっていた。
中には、肌に老人斑が浮かんでいる人さえ居た。
『サークル参加者・一般参加者、全員、すぐに撤収して下さい。「表」の連中が、今回の開催の事を嗅ぎ付けました』
その時、会場内に緊急アナウンスが流れる。
「見付けたぞ。違法同人屋どもめ。『萌え文化に対する中傷行為』の現行犯として、全員、逮捕だ。あと、サークル参加者は税務署による取調べも待っているから覚悟しておけ」
奴らだ……「
とうとう六〇も後半に突入した俺より、更に齢は上の筈だが……与党政治家が優先して受ける事が出来る延命治療によって、俺より若々しく見える……。
あくまで噂に過ぎないが……違法な臓器移植により若さを保っているなどと云う話も有る。
奴らを信じていた頃の俺なら……二〇年後か三〇年後に、「
だが……現実は……。
与党支持者が院長をやっている美容整形チェーンによって……かつて奴らが描いたプロパガンダ漫画の自画像そのものの顔になった。
着ているのは……
会場は大混乱に陥った。
表現を規制する可能性が有るあらゆる民間団体は、もう無い。映倫も……エロゲー・萌えゲーのレイティングを審査するコンピュータソフトウェア倫理機構や、成人指定の映像作品を審査する日本コンテンツ審査センターも……。
そして、「表」のコミケの運営も政府機関となり、企業ブースは年々増え、同人誌即売会ではなく、デカい企業が作った商用コンテンツの発表・宣伝の場と化し、開催日も企業ブースに参加する企業の都合が優先されるようになっていった。
だが……いや「そうだ」と言うべきか……昔から言われていた通りだった。
権力は腐敗する。絶対的権力は絶対的に腐敗する。
正義は堕落する。賢しらに「正義は必ず暴走する」などとホザくような自分を「他のあらゆる正義を裁く資格を持つ者」だと思い上がった者は、どんな「堕落した正義」よりも醜く堕落する。
そして……いつしか……。
私は……
そうです。「萌えキャラをエロく思うのは、いつもエロの事しか考えてないヤツだけだ」と云う
しかし、私は……愚かにも、いつもエロの事しか考えられない欠陥人間だったので、崇高なるオタク文化・萌え表現を穢すエロ同人誌を作ってしまいました。清らかで美しいモノである筈の「萌え」を穢し続けていたのです。
そうです……私は……自分の欲望に溺れ、表面上はツイフェミどもを罵りながら、知らない内にツイフェミどもの主張を裏付けるような奴らの手先となっていたのです……。
ああ、何と云う事でしょう。
私も、もう齢です。「表現の自由」に対して私が犯した罪を償う時間は残されているのでしょうか?
『大丈夫だ。私達は、いつも君の側に居る。君は、きっと真のオタク、真の萌え表現者になれる筈だ』
ああ……摘出された前頭葉の代りに私の脳内に埋め込まれた電子機器を通じて……偉大なる
ありがたいありがたいありがたいありがたいありがたい…………。
裏コミケ壊滅 @HasumiChouji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます