エピローグ

 あの後、俺と万理亜まりあがビルを降りると、地震のせいでエレベータに閉じ込められていた比呂美ひろみたちが救出されていて一階のフロアで俺たちを待っていた。

 俺は万理亜と繋いだ手を掲げて見せて、万理亜の救出を報告した。


「それで?」


 比呂美が俺に尋ねた。


「俺は万理亜も比呂美も好きだ。二人と交際を続けたい。どちらかを選ぶことはできない。」


 俺は自分の気持ちを正直に打ち明けた。

 比呂美は呆れた顔をして、

「まあ、そうなると思ったわ。」

と言った。


「私、嬉しいです。ハッピーエンドですね。明太郎めいたろうさん、比呂美さん。これからも末永くお願いします!」


 万理亜が俺と比呂美に抱きついて言った。


          *


 それから俺たち三人は大学卒業までは一緒に万理亜のシェアハウスで暮らした。

 万理亜は子供を望まなかったので、比呂美の妊娠を機に俺は比呂美と結婚した。

 万理亜はロボットネットワークに就職し離れた町で暮らすようになったが、今でも月に何度かは会いに行っている。離れていても俺と万理亜の絆は変わらない。

 

 

 今日は万理亜が海外への長期の出張から帰ってくる日だった。

 俺と比呂美と娘の比奈ひなは、万理亜の住む町を訪れていた。

 比奈はまだ五歳だが万理亜によく懐いていて、万理亜ちゃん、万理亜ちゃん、と日頃からうるさかった。

 万理亜に会えるのが嬉しいのか、比奈は一人でどんどん先に駆けていってしまう。

 その後を犬型ロボットのジョンが追いかけていった。

 ジョンは万理亜が比奈のために作った犬型ロボットだ。比奈が怖がらないようにと吠える機能はついていない。



 万理亜の研究室に着くと、狐の面をかけた女性型ロボットがドアを開けて迎え入れてくれた。

 この数年で、ロボットネットワークは人間と見分けがつかない精度のロボットを開発して売り出していた。どうやら人間の義手などにも使われる生体パーツを使っているらしい。


「どうぞ、明太郎さん、比呂美さん、比奈ちゃん。」

「ありがとう、『たま』。」


 俺はドアを開けてくれた女性型ロボットの『たま』に礼を言った。

 『たま』のボディも最新型にアップグレードされている。

 俺が研究室に入るより先に、娘の比奈がドアの隙間から中へすべりこんだ。


「万理亜ちゃん! 私、来たよ!」

「ふふふ。比奈ちゃん、いらっしゃい。」


 振り向いた万理亜に比奈が飛びついて言った。


「万理亜ちゃんに会いに来るとね! いつもお空が虹みたいに綺麗な色になるから好き!」

「それは私が比奈ちゃんに会えるのが嬉しいからですよー。」

「えへへへへ。あたしも嬉しいの!」


 万理亜は眼鏡をかけていて、その黒髪を肩の長さで切りそろえていた。


「ごめんな、万理亜。出張で疲れているだろうに。」

「いいえ、明太郎さん。私、比奈ちゃんにはいつも元気をもらってますから。」


 研究室の外から比呂美が俺たちに声をかける。

 

「ねえ。この後、食事だっけ?」

「はい、そうです。予約してます。」

 

 俺たちは万理亜と一緒に研究室を出てレストランへ向かった。

 今も空全体が虹色になっている。

 結局、万理亜の力は残ったままだったが、今はこの程度の影響に抑えられていた。

 比呂美が万理亜に言った。

 

「今日は万理亜の日なんだから、明太郎を独り占めしてもよかったのに。みんなで食事したいだなんて。」

「私は比奈ちゃんのことも好きですし、今日は久しぶりに会えるので、みんなで食事したかったんです。家族みたいだって思ってますから。」

「ははは。家族だよ、万理亜。なんなら、また一緒に住む?」

「いいんですか? ぜひ、そうしたいです!」

「え? 万理亜ちゃん、うちに来るの? やったー!」


 比奈が飛び跳ねて喜んだ。

 万理亜が満面の笑みで俺の手を取って、小指を絡ませてみせた。

 そう、俺たちは赤い糸で繋がれている。

 これからもずっと永遠に。

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自称縁結び♡の神様が強引すぎる 加藤ゆたか @yutaka_kato

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