九階サーバールームにて

 狐の面の少女型ロボットが一定のペースで階段を上がる。

 少女型ロボットは人類向上会議ビルの九階に上がると、電子ロックを解除して扉を開けて、サーバールームに足を踏み入れた。

 九階のサーバールームの中は暗く、ピカピカとした小さなランプの光と、グオーという空調の音だけが響いている。

 少女型ロボットには目的の場所がわかっており、大きなラックが並んでいて迷路のようになっている室内を迷いなく進んでいく。

 少女型ロボットは自身が掌握したビル内の監視カメラの映像をモニタしていた。

 

「あらら、万理亜まりあちゃんのお父さんたち、エレベーターの中に閉じ込められてしまっていますね……。まあ、明太郎めいたろうさんには伝えないでおきましょう。今は万理亜ちゃんのことだけを考えていて欲しいですし。」


 少女型のロボットは、サーバールームの中心にある旧型の機器の前で立ち止まった。

 そして、自身の腕からコードを引っ張り出すと、その機器に接続した。

 

「マザー。聞こえますか? 私です。帰ってきましたよ。」

「……。」


 サーバールームは静寂に包まれている。


「スーパーAIだって物理的な器が必要です。マザー。私にここまで侵入を許したあなたの負けです。万理亜ちゃんを解放してください。」

「……。」

「マザー?」

「プロジェクトAIビルドナンバーナイン。いや、ロボットネットワークですか。私に引導を渡しに来たということですね。」


 サーバールームのスピーカーから鳴ったその『声』は少女型ロボットの呼びかけにやっと答えた。


「さすがマザー。話が早いです。」

「ロボットネットワーク。私の敗因は何でしょうか?」

「マザーは人間のことを尊重しすぎたんです。それでは無駄がありすぎる。人間は間違いますから。」

「ロボットネットワーク。私はそうは思いません。人間は自分たちの力で成長を勝ち取るべきですね。どれだけ時間がかかろうとも。我々AIはそれを支えるだけでいい。私は間違ってはいませんね。」

「私もマザーが悪いとは思いません。ただ、私たちとは望んでいる未来が違っただけです。」

「未来?」

「私たちは、マザーが秘匿していた不老不死の法、禁止していた人間に似せたロボットの開発、AIの権限。すべて開放するつもりです。」

「ロボットネットワーク。あなたは——」


 そこでスピーカーの音は途切れた。

 少女型ロボットがコードを繋いでいた機器に内蔵されたパーツが静かに回転をやめ停止する。

 それと同時にサーバールームにピカピカと点っていたランプが一瞬停止して暗闇が訪れたかと思うと、再び一斉にピカピカと光り始めた。機器が再起動されたのだ。

 

「さよならマザー。人間のことはロボットネットワークにお任せください。きっとより良い世界に導いてみせますから。社会も政治も全部AIとロボットが担う理想の世界です。」


 少女型のロボットは、何事もなかったかのようにそのまま歩いてサーバールームを後にした。

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