第31話

「君達の御両親も行方不明になった木下さんも亡くなられた三嶋さんも君達が体育館に残って無惨に殺されたら凄く悲しむよ。皆と一緒に移動することを望まれているはずだ」


 情に訴えて説得しているが芳しくない。


「生きていれば日本に帰れるチャンスは必ずある。皆と一緒に行こう!」


 伊藤が3人に手を差し伸べている。

 1年生の菅原洋子はピクピク反応しているが、2年生の2人は無反応だ。

 

「外山どうしたらいい?」


 伊藤が顔を横に振りながら聞いてきた。

 菅原洋子は落ちそうな気配だ。

 しかし2年生の2人が難題だな。


「菅原洋子は同じ1年の女子に説得させよう。たぶんいけるはず。

 久保と佐々木は2年の女子と職員さんに事情を聞いてもらうしかないかなぁ。

 残りの者は移動の準備で」


「それしか……ないか……」


「それと伊藤、正式に俺達のリーダーになってくれないか?

 この状況で部長というだけでリーダーを続けるのは無理があると思ってな」


「……いいのか?

 俺が戦闘関連を担当すれば外山は十分リーダーとしてやっていけると思うぞ」


「もっと人数の多い集団であればリーダーの権限を分担して組織化していくこともできるだろうけど、今俺達に必要なのは皆を引っ張っていける存在だ。

 俺は性格的にそういうタイプではないからな。伊藤の方が適任だ」


「わかったよ。交代することは出発する時に皆に言おう」















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===ギュートリア===

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「ねぇねぇ絡繰君、忘れてないよね?」


「わかってるよ」


 俺達は朝一番で新規で登録する為に指揮所に向かった。

 昨日話し合った通りに佐伯含めて4人で活動することになる。


「いつになるかな?」


「?? これから指揮所で登録するんだろ?」


「ちがぁ~う! お風呂のことだよ!」


「そっちかよ。五右衛門風呂みたいなの作ろうかと考えていた……」


「却下!」


「へ?」


「五右衛門風呂ってドラム缶に入るやつでしょ?

 お風呂に入って、ン~って体伸ばせないじゃない!」


「俺も風呂はゆっくり浸かりたいな」


 風呂派の近藤も同意見のようだ。


「となるとバスタブタイプか。特注で作ってくれるとこ探さないとな」


「軒下のとこに設置するんだろ?

 体洗う場所や庭に排水溝も作らないといけないから結構大変だな」


 ちなみに俺達が借りた家には大きい庭が付いているが、芝生ではなく土と雑草である。


「ちゃんと外から見えないようにしてよね!」


「隣の家とは離れているから大丈夫そうだけど……」


「絶対ダメ!」


「最初はとりあえずブルーシートで覆う感じか。

 最終的には塀で囲う……のは無理そうかな。

 木材使って柵を作ればなんとかなるかね」


「なぁ、お湯はガスではなく直接火で温めるのだろ?

 容器の部分に直接触れたら火傷しないか?」


「そうだな。入る時には木の板でも沈めてその上に座るようにしないとダメだろうな」


 ドラム缶温めれば十分だろと安易に考えてたけど思った以上に大変そうだ。

 今更やっぱ風呂はなしでとか言ったら佐伯はブチ切れだろうしなぁ。

 まぁ兵団としての活動以外は娯楽の無い世界だし基本暇なんだ。

 毎日少しずつ作業していけば佐伯も文句言わないだろう。




 街の中心地にある大きな石造りの建物が指揮所である。

 兵団員らしき武装した人間が頻繁に出入りしている。


 俺達の装備は昨日防具屋で買った革製のモノで初心者向けにと薦められた3万コルトの品だ。

 籠手の部分に鉄の棒を仕込んで受け流せるようにしている。

 佐伯は軽めの盾を1万コルトで購入した。


 武器は体育館から携帯しているモノを使う。

 ムロガの街でもこのギュートリアの街でも武器屋を物色したのだが、新品の武器は高くて手が出せなかった。

 安価な廃棄寸前のボロ武器もあるのだが、今持っているゴブリンから奪った剣のほうが出来も状態も良いので買う必要がない。

 剣を収める革の入れ物のみを購入した。上手くサイズの合う鞘がなかった為の代用品である。



 指揮所に入り受付で新規に登録する旨を伝える。


「登録料が1000コルトになります」


 いかにもザ・受付嬢的な美人さんに1000コルトを支払う。

 受付は全部で3つあり、他の2つもタイプの違う美人さんが応対している。

 美人受付嬢をエサにやる気を出させる方針なのだろうか?

 受付嬢は小さな鉄制のカードを渡して来た。

 表面に「61」の数字が彫ってある。


「こちらの用紙に名前を記入してください。

 1番上の欄はリーダーの方の名前でお願いします」


 左上に「61」と書かれた用紙に名前を記入していく。


「これであなた方は兵団として登録されました。区分けは見習いとなります。

 約2ヶ月間の期間活動が認められた場合に正式な兵団に昇格致します。

 指揮所に御用の際は必ず先ほど渡したカードを持参してください。

 カードに記されている番号は見習い期間中のみの管理番号となります。

 さらにカードを紛失すると再発行するのに1000コルト必要になりますので注意してください」


 まずは試用期間という訳か。

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剣を手に取り抗う者は 常盤今 @tokiwakon

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