伏せる線

結騎 了

#365日ショートショート 117

 男は手遊びしながら口を開いた。どうやら落ち着きがないらしい。

「なあ、伏線って言葉の使い方、間違ってるよな」

「えっ、なんですって」

 女は心当たりがないといった様子だ。

「君がSNSで書いていたやつだよ。漫画の冒頭で、すれ違った子供を遊び半分に怖がらせたヤンキーが、最後に別の子供に刺されて死んじゃうやつ」

「その伏線、よかったわよね」

「だからそれが違うんだって!」

 ぱっちん。脳が弾ける。イライラを隠せないのか、男は語気を強めた。ポケットの中の右手が強く握られているのが見て取れる。さすがの女も、その様子から苛立ちを感じ取った。

「ええっ、どうして。子供に刺されちゃう伏線として、子供への当たりがキツいシーンがあったのよね」

「そういうのを伏線とは言わないんだよ。単なる因果応報じゃあないか。第一、伏せられていない。隠されていないんだ。それを伏線だなんて言わないでおくれ」

「もう、いい加減にして!じゃあどういうのを伏線っていうのよ!そこまで言うならはっきり教えなさいよ!」

 待ってましたと言わんばかりに、男は立ち上がり距離を詰めた。右の拳から滑り出た折りたたみ式ナイフで腹をひと突き。女は血を吐いた。

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伏せる線 結騎 了 @slinky_dog_s11

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