小さい穴の開いた大鍋

―――サイランド領。




ゼロニアス王国の西端に位置する辺境領。




北西から南側に流れる川沿いに市街があり、その周辺に畑が広がっている為、


食糧事情も悪くなく、一般市民にとっての住み心地は可もなく不可もなくといった所。




だが、南西側に掛かる橋を越えた先には、未開の森林地帯・ドゥーア大森林が広がっており、


現在そちら方面への開拓は行っていないが、森の中の魔獣モンスターと植物は


重要な資源となる為、冒険者と呼ばれる流れ者達が探索・狩猟を行っていているのだという。




もう何年も、領主の居ない領地だったらしく、


俺が領主任命される前は、近隣の領主・ヴィルシュヴァー卿が


側室の一人を代官を送り込んで管理してくれたそうだが……



代官と言う役割は、任命者にとっても、住人にとっても、人気があるものではなく、


ヒドイ状況とは言わないが、施政に関しては最低限くらいにしか行っていなかったとか




そんな訳で、俺が領主を務める事になったサイランド領の現状に関しては、


食糧・治安・住居などなど、様々な面において普通から、やや悪い程度との事……




「まぁ、ぽっと出の新任領主としては……普通なんじゃないかな。」




「辺境とは聞いてたけど、まさか大森林のすぐそこだったとは……


 流通もちょっと弱いけど、上手く回す事が出来れば……こりゃ化けるかもしれないわね」




現状の説明を受けて、特にがっくりする事もなく現状を受け入れた俺の横で、


アニーは商人らしく、頭の中でそろばん勘定を行っていた。




商売に関しては、本職ほどの知識はないので、


その辺は、アニーに任せておくのが現状の最適解だろう。




「ただ、現状は小さな問題がいくつかある為、


 まともな領地運営を行うには、問題を解決していかなければいけません。」




眉間にしわを寄せながら、ホルンは言う。




「問題か……領主生活が始まったばかりなのに、


いきなりヤバそうな話題が出てきたな……」




サイランド領を大鍋に例えれば、


収入となる水を注ぎこんでも、問題と言う名の小さな穴から


収入を上回る支出が出ていってしまうといった所だろう。






「あ……いえ、すぐどうなると言う事はありません。


 とりあえず、今のままでも3か月はやって行けるはずですから……」




俺の不安そうな雰囲気を察したらしく、ホルンは安心させようとフォローを入れてくれた。


3ヶ月……短くはないが、油断をしてたらあっと言う間だ。




「それで、まずはどの穴……


 いや、問題を解決すればいい?」




「まずは、食料面の問題を解決すべきかと、


 詳しい事は……カティ、お願いします。」




「了解しました。」




俺の問いかけに対し、ホルンは簡潔に答えてから、


詳細の説明を隣に居る知的に見える女性『カティ』に振った。




彼女は、元々王都で姫・令嬢相手の教師をしていたそうで、


ツヴァイクの口利きで、出立までの三人の教育係をして貰ったのだが、


3人と相性が良かったのか、誘われる形で今回の移住に参加し、


ギアシップの上で会話した際、話も弾んでいって……




……結果、まだ正式ではないのだが新しい嫁さんとして加わる事になった。


本人は適齢期を逃しているから、最初の方は遠慮がちだったそうだが……




正直なところ、どうみても十分すぎるほど若く見える。




アニーとホルンよりは年上で、ヴィーナに近いといった所だけど


三人とは違ったタイプの、温和で知的美人といった印象だ




話を聞かせてもらった際には、どこが適齢期遅れなのかと心の中で思ったが……




まぁ、それは今となってはどうでもいい事だ。




「食糧問題の一番の原因は、元の住人と移住者の他に


 どこからか領主様の話を聞きつけてきた流民や冒険者が


 想定以上に領内に集まってきたのが原因です。」




「アニーもそうだけど、耳ざといヤツってのはどこにでもいるもんだね……」




カティの説明を聞き、ヴィーナが呆れたようにそう言うと、


アニーは不機嫌そうなしかめっ面をする。




「なので、現状の食糧生産量のままでは


 日に日に備蓄が減っていき、その後は輸入頼りになって


 資金が流出していくかと……」




「いきなり食糧問題とはな……」




人が増えれば食べる量も増える、当然の話である。




王都では、ツヴァイクに援助してもらっていたので衣食住に困る事は無かったが、


領主となった今は、自身はおろか領民全部が困らない様に運営しなければならない。




「……食糧難を避けるためには、どうすればいい?」




「まずは、開墾して畑を広げるべきだと思いますが……


 これだとすぐに結果が出ないので、加えて漁や狩りをする必要があるかと


 王都に連絡して、追加の物資を請求する手もありますが……


 これはあくまで、最後の手段ですね」




俺の疑問に対し、カティはすぐに簡単だが、的確な答えを返してくれた。




人数に応じた広さの畑は、いずれにしろ必須だし


畑だけでは、食卓が寂しくなりそうだから、肉や魚も可能ならば取得しておきたい。




「畑と漁は権利の都合上、元々の住人と移住者でやる事になってましたから


 狩りに関しては……」




「冒険者に依頼して、狩猟に出て得た肉を納品してもらう……だね


 これに関しては、他に答えは無いと思うよ」




ヴィーナが、意を得たりとカティの台詞に割り込む。




「ただし、冒険者もただで働いてくれるほどお人よしじゃない。


 依頼するのなら、それ相応の見返りを出さなきゃならないだろうね」




だが、その顔はどこか面白くなさそうにも見えた。


冒険者への依頼が厄介事になりそうなのだと思っているみたいだが、


表情からは、詳しい事までは読み取れない。




「……領主様、どうなさいますか?


 一時的に買い取り額を上げるなどで、狩りを推奨する方法がありますが……」




カティが、冒険者への対策としてこう提案してきたが……




「いや、まずは状況の把握の方が先だ。


 ヴィーナ、冒険者が集まる場所と言えばどこだ?」




「んー、狩りに出てなければ、酒場か、宿屋か……


 それとも表に見えたキャンプかな……って、領主様、まさか……」




それを却下し、ヴィーナに冒険者の事を質問すると


ヴィーナは返答しながら、俺の意図を読み取ったらしく


みんなと一緒に、驚きの表情を見せる。




「仕事を頼む相手の事は、ちゃんと把握しておかなきゃな


 みんな、悪いけど一緒についてきてくれ。」




そう言いながら、俺は外出する準備を進めたのだった。

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覇鋼(はがね)のロードギア ~領民はすべて側室候補!! いきなり領主物語~ (略して)将軍 @syougunmk9

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