第1章:サイランドの新領主

探索、領主館

王都から、ギアシップで俺の領地・サイランド領へ向かう旅。




この間、船内で何をやっていたのかと言えば、3人の嫁達にサポートしてもらいながらの他の女性達との顔合わせだ。




出発前に教えられた通り、一緒にサイランド領に移住する事になった女性達は、なんとかして俺と関係を持とうとアプローチして来た為、談話室で休んで居れば声をかけられ、食堂に行けば周囲に集まってきての会食状態となり、甲板に出れば足の指を使っても数えられないほどの人数と一緒に夕日を見て……




そして、夜は領主のお務めを……


流れはこんな感じだったので、到着する頃にはくたくたになってしまった。




翌日、力を取り戻そうと周囲の女性達よりもはるかに多い量の朝飯を食べ、ホルンが持ってきてくれたお茶で一息つくと、ギアシップが大きな汽笛を上げた。




「どうやら、サイランド領に到着したみたいね。」




アニーのこの言葉に、俺は早くサイランド領を見てみたいと思い、席を立って甲板に立ち船の行く先を眺める。




まだだいぶ距離があったが、その先には川と畑に囲まれた城壁、そしてその城壁でも隠せない一回り高い所にある大きな建物が見える。




「あれが、サイランド領の領主館だね。


 領主館としては小さい部類だけど、建物も城壁も思ってたよりしっかりしてるし、中々いい所だと思うよ。」




ヴィーナの鑑定眼が正しいのかどうかは分からないが、個人的にはあれで小さいのかと少しびっくりしていた。




ここからみても王都のツヴァイクの屋敷より大きいと思うし、そんな大きな建物が使いきれるのか……?




そう悩んで居ると、ギアシップは速度を下げながら城壁へと徐々に近づき、城壁沿いにある大きな門の前に来ると完全に動きを止めた。




「到着~! サイランド領~!!」




声を遠くに拡大して伝える為の機構・スピーカーから到着を知らせる声が聞こえた為、俺は3人と共に乗降口からギアシップの外へと降り、大地の感触を踏みしめた。




ギアシップの乗り心地は中々に良かったが、やはり地面の上は安心感が違う。




「それでは領主様、私は確認作業があるのでここで失礼いたします。」




そう言ってホルンが向かったのは、門の前にある詰所。




彼女は元々王都の衛兵なので、同行した同僚達や船の船員と共に、領内に入る住人の手続きと、住居への案内を行うとの事。




他の乗客は、引っ越しの荷物と共に手続きの行列に並んでいたが、俺とアニーとヴィーナは領主特権で簡単な検査で門を通過し、そのまま街中を通って領主館へと向かった。




「ここが、領主館か……。」




王都で受け取ったカギを使って正面の大きな扉を開けると、多少古びているが奇麗に掃除された豪勢な玄関ホールがあった。




「なんか、玄関ホールだけでも圧倒される広さね……


 王都のお屋敷とは、大分雰囲気違うけど……」




「そりゃまぁ、王都の屋敷と領地の領主館とじゃ求められるものだって違うんだろうしねぇ。」




アニーとヴィーナは、この光景を見て感心するようにそう言った。




なにせ2階が吹き抜けになっている上に、ここだけでも1階に4つ、2階に4つ、階段の踊り場に1つ扉がついているのだ。


いったい、館の中にどれだけ部屋があるのか……。




「ね、領主様、ちょっとこのお屋敷探検してみない?


 どこに何があるのか、わからないままじゃ困るだろうし。」




すると、いきなりアニーがそんな提案をしてきた。


……確かに、広さへの関心と好奇心もあってか、俺もなんだかこの館を探検したくなったのだが……




なんだか、嫌な予感がするのは気のせいだろうか?




「領主様、ひょっとして怖気づいてます?


 いや、今日からここは領主様の物なんですし、なにに怯える必要があるんですか。


 別に、屋敷内をバケモノが徘徊しているわけでもないですし」




うん、確かにそうなんだけどね……。


屋敷の探検と聞くと、なんとなく嫌なイメージが湧いてくる気がして……。




「大丈夫、なにかあったら領主様のロードギアがあるじゃないですか!


 私達もちゃんと護衛用のを持ってますけど、それよりもずっと強い力を持ってるんだから、なにかあってもちょちょいのちょいで済みますって!」




アニーにそう言われ、俺は腰に差していたロードギアへと目を向けた。


なんだか期待されている様だが、そもそもこれまで一度も使った事が無いから、どうにも凄さを実感する事は出来ないが……。




……まぁ、変にビビる必要はないか。




「よし、それじゃ早速探検してみるか。」




そう言って、俺はアニーとヴィーナと共に屋敷内を探検を始めた。




……とは言っても、特に変わったものがある訳でもなく、ホール同様の吹き抜けになっている大食堂、その隣の厨房、奥の方の図書室、領主用と思われる、天蓋つきのベッドの置いてある2階寝室以外は部屋の数こそ多いものの、特に変わり映えのしない部屋ばかりだった。




それ以外で気になったものと言えば……。




「うわ、見てよコレ! こんな田舎なのにトイレが水洗式だ!」




「流石は領主館だね……」




流石にトイレの話題で盛り上がるのはどうかと思うが、清潔に使えるトイレと言うのは中々ありがたいものだ。




……しかし、他のトイレはいったいどうなっているのだろう?




水洗でないとするのなら……まさか?




やめておこう、この話題はあまり考えたくはない。


わざわざこれを用意してもらってる以上、領主には縁のない話だろうし……




そんなこんなで屋敷内を一通り見まわった後、いよいよ最後に残った更衣室らしい部屋の中に取り付けられた厳重な雰囲気の扉を開けると……




扉の中からは吹き出るほどの白いモヤが充満していたため、なかなか中が見えなかったが、徐々に中のモヤが薄れていき、中を見渡せるようになると……




そこには、水の満たされた大きな池があった。




……いや違う、この池を満たしているのはお湯だ。


つまり、これは……




「うそ!? 温泉!?」




そう言う事になる。


誰もいなかった屋敷で、到着直後にお湯が沸いているわけがない。




「マジか……領主館とは言え、ここまでとは……」




二人の驚き方が少し大げさだったので、何事かと話を聞いてみると、温泉は一般市民にはなかなか入る事が出来ない施設らしく、入ろうとすれば結構な手間と金額がかかるとの事。




「まさかそこまでとは……


 王様、結構奮発してくれたんだなぁ」




「どう、領主様? よければ、このまま一緒に……」




王様の太っ腹に感心していると、アニーが上着をはだけさせてウインクしながらそんな事を言ってきたが……。




「まだ引っ越しが終わってないだろ、後だ、後!」




まだやる事は残っているので、そう言ってたしなめる。




二人はわくわくした表情で上の方を見つめていたが、一旦放っておいて改めて風呂場の中を見回すと、湯の流れてくる方向に、もう一つ小さな扉があるのに気づいた。




「ここは……源泉の取り入れ口か?」




中がどうなっているか気になったのでそれを開けると、中には外よりも浅く狭い湯舟らしきものがあった。




見た感じは一人用の温泉かと思われたが、部屋の中には神秘的な装飾が施されており、どことなく神聖な雰囲気を醸し出している。




「ん……?」




しばらくぼんやりと眺めていると、ふと腰のロードギアが何か反応したような気がした。


だが、改めて手に持ってみても何も変化はなかったので、気のせいだったのだろうか?




ロードギアを腰に収めてから部屋を調べると、さらに奥にも扉があったのでそちらを開けてみると、その先は先ほど調べた何もない部屋のうちの一つとつながっていた。




本来は、こちらから入るのが正しいのだろうか?




「まぁ、今の状況で一人で風呂に入る事もないだろうし、この部屋は使わないかもしれないな……


 とりあえず、掃除だけはちゃんとやっておくか。」




何か意味ありげな部屋だが、これ以上調べてもなにもなさそうだし、そろそろホルンも戻ってくる頃だろう。




俺は再び温泉の部屋に戻ると、だらしのない顔をしていた二人を連れて玄関ホールまで戻り、ホルンと後ほど送ってくれることになっている荷物を待つことにしたのだった。


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