王都出発、サイランド領へ
「それではサイランド卿、準備はよろしいかな?」
「当分会う事はないだろうけど、身体に気を付けて。」
王都ゼロニアス正門上の広場で、見送りに来てくれたゼロニアス王とツヴァイク公はそんな言葉をかけてくれた。
いよいよ、俺の領地・サイランド領への出発だ。
まだまだ不安はあるが……こうなってしまった以上、覚悟を決めるしかない。
今さら辞めますなんて言えないし、背負うもの背負っちゃったからには無職で放浪生活なんて無責任にもほどがある。
「二人とも、ホント色々ありがとうございます。
しかし、こんなものまでついてくるとは……」
そういって、振り返った俺の目の前にあったのは……
正門の外に広がる広大な草原、そこで大きな機械音を鳴らし、下部が不思議な光を放ちながら地面からわずかに浮いている、とてつもなく大きな……船。
ギアシップという世界でも最大級の乗り物で、サイランド領に持ち込む物資や一緒に移住する住人達を運搬する為に
国王が用意してくれたのだそうだ。
「……また、とんでもないモノを用意してくれましたね」
「新たな領主の為だからな、これくらいは普通だよ。
サイランドはここから結構距離があるし輸送する物のも大量にあるが、ギアシップなら明日には到着する。
乗り心地だって、なかなかのものだぞ。」
それにしても、この大きさは尋常じゃない。
全体的な大きさは、ここから見える王城並のサイズに見えるほどの巨大さだ。
「ギアシップは貴重だから、荷下ろしした後に帰還させるけど、向こうには領主の館があるし移住者用の住居だって十分にある。
物資と合わせて、当分の間は暮らすのに不自由はないはずだよ」
「いざとなったら近隣の領主に助けを求めると良い。
皆、癖はあるが人のいい奴等だから、君の助けになってくれるはずだ。」
「まぁ、なるだけそんな事にならないよう気を付けますけどね。」
やると決めた以上はきっちりと成果は出すつもりだ。
色々とお膳立てはしてもらってるし、嫁となった3人も補佐役の勉強をした上で支えてくれる……
あんまり、情けない所は見せたくはないからな。
そう思って視線を下に向けると、ギアシップに登場する移住者の行列が目に入った。
「……それにしても、一緒に移住する人数かなり多いですね。
サイランドって結構な田舎だって聞いてますけど、なんでこんなに……」
「そりゃまぁ、都落ちしてでも行きたいからだろう。
いきなり出会ったその日に3人前ペロリと平らげた健啖家の領主相手なら、あわよくば自分も……と考える女は、少なくないだろうしな」
「あわよくば……?」
一体、何があわよくばなのか……?
悪戯が成功をした悪童のような目をした国王と、その横でさり気なく笑いをこらえている皇子の様子を見ると、何か悪い事を企んでる様に見えてしまう……
その悪企みがなんなのかは容易に想像がついた
「あの……嫁なら、もうあの3人が……」
「なに、まだ君も若いんだし、このご時世種をまく畑はいくらあっても困らん」
『ボク、小食なんで』と言ってお代わりをしない子供に対し、国王は『ダメだよ、ちゃんと食べなきゃ』的なノリでそんな事を言ってきた。
これは一体、どういう意味なのか……?
「……まだよくわかってないみたいだから言っておくけど、今の世の中は男児出生率がとんでもない事になってるから、他の領主から略奪したりしない限り、そっちの方面に励むのはほとんどのケースで許される……
特に自領内の領民は、みんな側室候補だと思ってくれて構わないんだ。」
おい……おいおいおい!
なんだよ、その無茶苦茶な話は!!
「もっとも、君の場合は都合正室が居ないのだが、それはそれでいいだろう。
ホントなら、ウチからも出せればよかったのだが、適齢期の娘は前回の叙爵式で全部片付いてしまってな……」
そう言って、申し訳なさそうに、国王はため息をついた。
いや、そんな色々と厄介事になりそうな正室とかは別にいいんですけど……
……そこで、俺はふとある事に気が付いた。
新米領主である俺がこんな扱いならば……
「……ちなみに、お二人の嫁さんは?」
「屋敷内で仕事をしてた子達の事は覚えてる?
それと、君の嫁達に補佐役の教育をしてたのも……」
「……まさか、それがが全員ツヴァイクの……?」
アレが全員、コイツの嫁……!?
「いやいや、流石に全員じゃないよ、半分くらいは君の話を聞きつけてやってきたそこそこ生まれのいい娘達でね。
移住希望で船に乗り込んだから、向こうでも顔を見ると思うよ。」
少しばかり思い違いがあったようですぐさま訂正されたが……半分でも結構な数だぞ、オイ。
コイツ……涼しい顔して、とんでもないヤツ……
「それに、連れてきたのはほんの一部だけで、他にも領内に正室を含む他の嫁達が……」
前言撤回、もっととんでもないヤツだった!?
しかも、息子でこれって事は親父の方は……
「うむ、まぁ城内の衛兵やら、神官やらの役職持ちは全員……身内だな。」
そう言えば叙勲式の時や場内を移動していた時に、明らかにゲストや観客とは違う装備や服装の奴等が居たが
アレ、全部国王の身内だったのか……
ただ、男児がすべて領主だと言う事を考えれば、身内と言うのが嫁の事だけなのか、それとも娘も含むのか……
ぶっちゃけ、どっちでもとんでもないことは確かだが……
「ただまぁ、それで全部とはいえなくてな……
色々あって一夜限りの相手した数も、それこそ星の数ほど経験あるからして……
ぶっちゃけ、その相手や娘も含めると全部でどれだけになるのか、ハッキリした数はワシにもわからん!!」
うわぁ……
とんでもない爆弾発言しちゃったよ、このオッサン……
いや、この時世においてはこの親子のやってる事がごく普通で、相手もそれに関しては了承済みなんだろうけど……
既に嫁さん3人も抱えている身で言うのもなんだが、正直腑に落ちない感じだ。
「まぁ、そう言う訳だから君も頑張って励んでくれたまえ、どうせ陽が落ちたらやる事は限られるだろうしな」
国王は付け加えるようにそう言うと、俺の肩をポンと叩いた。
それと同時にギアシップが大きな音を立てて、一際大きな光を煙突から放出したと思うと……
「領主様ー! そろそろ出発ですよー!」
アニーが階段を上って、俺の事を迎えに来た。
「分かった、今行く!!」
そう言って、アニーの方に駆け寄って階段を降りようとした時……
「それではサイランド卿。」
「領主の務め、がんばってくれ。」
「「貴殿に偉大なる9柱の大精霊の加護があらん事を!!」」
二人は俺に対し、ポーズをとりながら餞の言葉を送って来てくれた。
なんだか感覚的に疲れる二人だったが、決して悪いヤツではない……ハズだ。
俺は同じポーズを返しながら深々と一礼をすると、ギアシップに乗るためにアニーと共に階段を駆け下りていった。
その最中、一突きになった事があったのでアニーに尋ねて見た所……
「なぁ……アニーは俺が新しく嫁を増やしたらどう思う?
いや、そもそもいきなり3人とった事とか、悪く思ってたりしてないか?」
「え……? なんですか、その問いかけ?
別の領主様なんだから、それくらいは普通でしょ?」
……と、『なに当たり前な事を言ってるんだ』という雰囲気で返されてしまった。
うーん、やっぱり俺の感覚の方がおかしいのか……?
「……まぁ、私はとりあえず3人でよかったと思いますよ。
連日で領主様を受け止めるの……一人じゃ、余りにもきつ過ぎますから」
少しの沈黙の後、アニーは少しほほを赤らめながら、続けてそんな付け足しをしたのだった。
……訂正、俺自身もどうやらおかしい方に入っていた様だ。
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