ロード・ギア

国王に連れられ、昇降機で地下深くまで降りた俺が昇降機から出て目にしたのは、神秘的な装飾が施された巨大な扉だった。




その光景に驚いている俺をよそに、国王は扉へと近づき手を伸ばして扉についている巨大な宝石に触れる。




すると、宝石が淡い光を放ち扉が左右に開いた。




「目的の物はこの奥にある


 さ、ついてきてくれ。」




俺の方に振り向いて手招きしてから、さらに奥へと歩みを進める国王に置いて行かれないように慌てて後をついて行き、部屋の中を確認すると……。




そこには、幻想的な光景が広がっていた。




足元と周囲の壁は、入り口にあった宝石と同じ色の淡い光を放つ透き通っているような物質で取り囲まれており、見ているとなんだか心が落ち着くような気がしてくる雰囲気だ。




国王はその中でも強く輝く光の道を歩いており、俺はこの光景に驚きながらもその後を追いかけていく。




そして、国王が足を止めて上を見上げた所でつられて同じように上を見上げると……




そこには、とても人に扱えるとは思えない、とてつもなく巨大な剣の柄があった。




刃の部分は床の下になるため、ちゃんと存在するかこの状態では確認できないが、


もし存在するのなら、全長は外から見た城と同じくらいの高さだと想像できる……。




「さて、サイランド卿。


 キミはギアがどういう物か、知っているかな?」




「ええ、まぁ一応は……


 使った事はないですし、ほんのちょっと見たり、聞いたりした程度ですが……」




剣の柄に気を取られている中、いきなりギアについての話題を出されてちょっと困惑してしまった。




実際、実物を見たのは外出したあの時だけだったし、あれ以降は屋敷に籠りっぱなしだったので、結局大したことは知らないのだが……。




「今でこそ、一般にも日常で使う程度のギアが出回っているが、元々は我が祖・初代ゼロニアス王達が邪神と戦う為に振るった武器と伝えられていてな。


 その時使われたギアはゼロニアス王国をはじめ、邪神と戦った勇者達が建立した各国がこの様に保管しているのだ。」




「……と言う事は、このバカでかい剣もギア!?


 国王のご先祖様は、巨人だったんですか……?」




そうでなければ、どうやってこんな巨大な剣を使っていたのだろうか……?




「いやいやいや! もちろんそんな訳はないからな!


 ……まぁ、ワシも初めてここに来た時に同じ事を親父に聞いたし、同じ事を聞いてきたヤツは足の指を使っても足りんほどだが……」




……そりゃ、そうじゃないと思っていてもこれを見てそんな事聞かされたら、そう言いたくなるヤツは絶対結構な数がいただろう。




「まぁ、この巨大ギア……勇者にちなんで、ブレイブ・ギアと呼ばれているギアは、元々どういう使われ方をしていたかはわしも知らん。


 他の国のも同じくらい巨大なものだそうだが、そもそも見た目通りの使い方ではない可能性すらある。」




「……確かに、普通の人間がこれだけデカい剣を普通に振るえるわけが無いですからね……。」






でも、剣でなければ、どうやってこれを使っていたのだろうか……?


現状では、いくら考えても答えは浮かんでこなさそうだ。




「……ただ、肝心なのはかつてどう使っていたかではなく、現在どうやって使っているかでな……


 サイランド卿、すまんが宝石の所に触れてもらえるかな?」




「今の使い方……?


 はぁ、わかりました……」




こんな剣、なにか使い道でもあるのだろうか?


もっとも、そうでなければ、こんな所に連れてこられたりしないだろうが。




そして、言われるまま宝石の中央に触れると……




泥に手を突っ込んだかの様に、宝石の中へと手が埋まってしまった。




「うわっ!?」




宝石部分も見た目はかなり硬そうなのに、大した抵抗もなく手がどんどん埋まっていく……。


いや、埋まっていくという表現は正しくないかもしれない。


泥を掴むような抵抗こそあるものも、宝石その物の形状は全く変わっていないのだ。




「このブレイブ・ギアには、邪神との戦い以前に培われた人類の叡智が詰め込まれていてな……


 領主の資格がある者……すなわち男に対して、その者に相応しい力と知恵を授けてくれるのだ。」




「力と知恵って……」




国王の発言が何を意味するのかは分からなかったが、埋まった手が熱くなっていくのと同時に、俺の掌の中になにか不思議なものが形を成していく感覚があった。




鉱物のように固いが、生物のように鼓動を感じる。


そして、その形がどんどん大きくなっていくのと同時に……




「な、なんだこれは……」




頭の中に、覚えのない映像や音が生まれては、身体のどこかに浸透していく感覚に浸り……。




「これが……力と知恵……?」




なんとなく、国王の言っていた事はこれだと言う事が理解できた。


恐れはあるが、それと同時に好奇心も感じられる……。




その感覚の中、気が付くと固く握りしめられた拳の中に何か大きなものが出来上がっており……




それを認識した瞬間、今度は宝石に手を触れた時とは逆に、埋め込まれた腕が強い力で外に押し出されはじめた。




「うおっ!?」




「……領主となったものは、皆ここでその形ある力を授けられるのだ。」




国王のその言葉が終わったと同時に、埋め込まれた腕は完全に外へはじき出され……




そして、恐る恐る解放された腕を確認してみると、掌の中には不思議な模様と装飾が施された杖があった……。




「……! 杖……か


 それこそ、貴殿がブレイブ・ギアより授かった叡智の証。




 それらを、ワシらはこう呼んでいる……




 ……『ロード・ギア』と。」






「ロード・ギア……!」




手の中にある、その不思議な杖を眺めながら、俺は国王の言ったその言葉を復唱した……。






―――






「ロード・ギアの形状は、授かる者によって異なっていてな……


 様々な形状の剣であったり、槍であったり、斧であったりと、武器の形をとる事が多い。


 キミの様な杖と言うのは結構珍しいんだがね。」




儀式を終え上へと昇る昇降機の中で、国王は饒舌にロード・ギアについて語ってくれた。




「やっぱりこのロード・ギアは、上で見た普通に出回ってるギアとは違うんですか?」




「ああ、現在市場に出回っているギアは基本的にロード・ギアを模倣した、女にも使える複製品でな……


 性能によってコモンや、ロイヤルなどの冠詞がつく事があるが、基本的に一対一ならばロード・ギアの方が性能は上だ。」




国王にそう言われ、改めて自分のロード・ギアへと目を向ける。


両手で扱うほどに大きく、複雑で神秘的な装飾や模様の刻まれた杖……。




見た目から判断すると、かなり強力な魔法が使えそうな雰囲気だ。




「……ところで、このギアの使い方はどうすれば?


 なにしろ、普通のギアの使い方すらわからないので……」




「……必要な時に、君のギアが教えてくれる。




 いきなりこんな事を言われてもわからないだろうが、ロード・ギアはそれぞれが異なる力を秘めているために、扱い方に関してはこうとしか言いようが無いのだ。」




そう言われたが、現状ではまったく使い方がわからない。


ギアが教えてくれる……どういう意味なのだろうか?




「……なに、不安がる事はない。


 そのロード・ギアはすでに君の力となった、必要な時が来ればギアは想いに応えてくれる。


 全て君の思うままに……な。」




「はぁ……」




肝心な事は何一つわからないが、国王の言葉にはそれを真実と感じさせるだけの重みがあった。




―――ガコン!




「さて、上まで戻って来たな……


 今日は叙爵式と、ロード・ギアの儀式で疲れたろう。


 明日はいよいよ君の領地・サイランドへの出発だ。


 ゆっくり休む……のはちょっと難しいかもしれんが、立ち上がる気力を残すくらいには、加減しておきたまえよ。」




「うぉい!!」




そう言って、足早に昇降機を降りて豪快に笑いながら立ち去っていく国王の背中に俺は思わずツッコミを入れてしまった。




……今の言葉は、恐らく夜のお務めの事を指しているのだろう。


真面目な面を持つ一方でこういう冗談めかした面を見ると、やっぱりあのツヴァイクの親父だと実感できてしまう……。




まぁ、間違ってはいないんだけれど……。


正確な年齢も覚えてはいないけど、俺もまだ若いわけだし……。




そう思って、俺は昇降機から降り、控室に待たせている3人の元へ戻っていった。


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