据え膳・タオル太巻き三本セット
「ふぅ……やっと終わった……」
叙爵式が終わり、控室のソファーに腰かけて大きなため息をつく。
「おつかれさま、やっぱり叙爵式って疲れるよね。
しかも、キミの場合は一人だったんだから、なおの事……」
テーブルをはさんだ向こう側にいるツヴァイクが、緩み切った俺に同情半分、からかい半分といった表情でねぎらいの言葉をかけてきた。
「大したことはやってないから、身体の方は平気なんだけど、
アレだけ注目されると精神の方が……プレッシャーが重いというべきか……」
「それだけ、みんな君に期待してるって事だよ。
それに、身体の方も叙爵式はともかく、連日励んでるせいでそれなりに疲れも溜まってるんじゃないか?」
こいつ、いったいどこまで知っているのか……。
いや、俺が借りている屋敷もお手伝いさん達もこいつが用意してくれたものだし、ここ数日表に出ていないから何をやってるかは筒抜けか……
「お疲れ様です、ご主人様。
立派なお姿でしたよ。」
背後から肩に手を当てられながら声をかけられたのでそちらを振り向くと、そこには上等なドレスを着たアニーが、更にその後ろには同様の恰好をしたヴィーナとホルンが居た。
それも、この前には着けていなかった同じ柄のチョーカーを首に巻きながら。
「まさか、こんな展開になるとはねぇ……
これもあの時ご主人様が情けをかけてくれたおかげで……」
「……不肖このホルン、恩に答える為にこの身が朽ち果てるまで、領主様についていく覚悟です!!」
俺への呼び方も、この間のぞんざいな物からご主人様呼びに変わっており、それぞれの表情から不満ややらせ臭い雰囲気は一切感じられない。
何故、この三人がこんな風になったのかと言えば……。
数日前、3人に与える罰を決めるように指示された時のこと。
考えがまとまるまでの時間稼ぎのつもりで、身体で払ってもらうと言葉にした途端、悲観していた3人は鳩が豆鉄砲を喰らったかような顔になってから、すぐさま顔が真っ赤に染まっていき……
「どうしてこうなった……」
気が付いた時には、俺は上半身裸でベッドの上で頭を抱えており……
その横では素肌にバスタオル1枚のみを羽織った三人が、湯気を立てながら期待を込めた瞳で俺の方を見つめていた。
「あの……今さらですけど、冗談とかじゃないですよね……?」
「まさか、身体で払えだなんて……
アタシみたいなのに、そんな男らしい事言ってもらえるなんて……」
2人とも身体で払うという事が意味する行為に関して不安はあるみたいだが、喜びと期待がそれを遥かに上回るとばかりに、だらしない笑顔を浮かべている。
「いや……そりゃ、出来るんだったら俺もうれしいんだけどさ……
いいのか? こう言う事は、もっとデートとかして仲良くなってからいい雰囲気になってするもんじゃあ……」
用意してもらった据え膳に、両手をあわせて『いただきます』を言う直前のタイミングでこんな事を言うのは流石に憶病かもしれないが、あの状況での言葉を真に受けて無理矢理……という卑怯な流れなのであれば、流石にこのまま受け入れる事は出来ない……
などと、今さら過ぎる殊勝な事を思っていたのだが……
「で……デェトって……あの伝説の……?」
「そりゃまぁ、そっちもやってもらえるんだったらお願いしたいけど……
でも、それはこっちが終わってからでも……」
……と、相談する様子にはまるで拒む様子が見受けられない。
唯一、ホルンだけは顔を背けながら震えていたのだが……。
「あの……もしかして嫌だった?」
「めっ!? めめめめめメッソウもないです……!
こここここ、これも衛兵としてのつとめ……!
ごごごごご領主様の命とあらばばば、ここここののの身体どうぞいかようにでも……!」
……と、真っ赤になった顔をこちらに向けると、狼狽して声を思いっきり裏返らせながらそう答えた。
「……夜伽が衛士のつとめ……?」
「そもそも、風呂でもめっちゃ気合い入れて身体洗ってたよな?」
「うひゃぁあぁぁっ!?」
どうやら、みんな行為に及ぶことに関してはイヤな訳ではなさそうだ。
……考えてみれば、男が問答無用で領主に据えられるような男女比なのだから、領主が複数の側室を持てるとしても、男性経験がある女性はほんの一握りだけになるはず……。
あの場であんな事を言えば、こんな流れになってもおかしくはないのか……。
「あの……領主様……
このままだと風邪をひいてしまいそうなので、そろそろはじめてもらえないかなぁって……」
そんな結論に行きついたのと同時に、アニーが俺の肩をつついてはやくするように催促してきた。
その奥で、ヴィーナは期待に満ちたまなざしを俺に向けており、ホルンは顔を背けようとしながらも、横目でこちらをチラチラとみている。
……もう、我慢の限界だ。
俺は欲望に駆られるまま3人の方へ手を伸ばし……
直後、3枚のバスタオルが宙に舞い上がったのだった。
「結局、あれから今日まで、一度も屋敷の外に出てこなかったからね。
いやぁ、何とも頼もしい限りだよ。」
「やかましい! あんな事情を理解して、のこのこ外に出ていけるかッ!!」
屋敷に引きこもりっぱなしでナニをしていたのか……
そりゃもう、ご想像の通りである。
「まぁ、そう言わないでくれ。
明日には、君達は君の領地【サイランド領】に出発する事になるんだ。
これ以降、王都にはたまにしか戻ってこれないだろうしね。」
「……そうか、ここへの滞在は長かったのか短かったのか……
それにしても、本当に俺に領主が務まるのか?」
正直なところ、領主の仕事がなんなのか、それすら未だに把握しきれてないし。
「その辺は、彼女達がサポートしてくれるはずさ。
ここ数日、日中は領主の補佐役としての勉強を叩き込まれてたし、サイランド領はさほど大きな領地じゃない。
……まぁ、とりあえずヤリたいようにやれば、なんとかなるさ。」
……なんだか、今のセリフの韻がどこかおかしかったような?
そう訝しげに思っていると……
―――コンコン
「邪魔するぞ……
おお、テディー、ここに居たか。
それに名無しくん……いや、サイランド卿!」
ドアを叩く音が聞こえたと思うと、こちらが答える間もなく先ほど壇上で式の進行をしていた初老の男性が入ってきた。
「……陛下、今は『ツヴァイク公』ですよ。
いつまでも子ども扱いしないでください……。」
「なにを言うか、親が息子をつけた名前で呼んで何が悪い?
プライベートで恰好をつけるな、こういう席では父さ……いや、ダディと呼べ。」
子ども扱いされて不機嫌になったのか、めずらしく不満な顔のツヴァイクに対し、いい笑顔を見せながら気さくな態度で話しかけたこの男性。
俺も今日になって知ったのだが、この人がツヴァイクとリックスの父親。
ゼロニアス王国を統べる国王陛下なのだという……。
国王とは、式の前に挨拶した時に顔合わせをし、最初はなんとも威厳に満ちたおっかない雰囲気のオジサマだと思っていたのだが、いざ口を開いてみればなんとも気さくな、危うくオッちゃんと呼びたくなる軽い性格。
なお、テディ―と言うのは、そこで頭を抱えているツヴァイクの本来の名前。
この国では、名乗る名前はファーストネームと、自分の所領名をくっつけて呼ぶそうであり、所領を得てからは所領名の方で呼ばれるようになるとの事。
ちなみに、公とつくのは王家の実子なんだとか……。
息子相手にしてやったりと言う顔で豪快に笑っていた国王だが、一通り笑い終えると俺の方に振り向き……
「はっはっは……
さてサイランド卿、叙爵式が終わってすぐで悪いが今すぐついてきて欲しい所がある。
今日の行事にはあと一つ、領主になる者にとって重要なものが残っているのでな。」
そう言って、俺に対し、打って変わって真面目な顔でそう告げてきた。
事前に聞いた予定では、今日の予定は全部終わっていたはずだけど……。
「……あ、ひょっとして……!」
国王の言った行事の内容に、ホルンは心当たりがあるようだ。
何か知っているのかと尋ねようとしたが……
「すまんが、おぬし達はここで待っていてくれ。
これは、領主本人しか案内出来ない行事故にな……。」
尋ねる間もなく国王は他の三人を制止し、俺に後についてくるよう催促してきた。
何が起こるかわからないが、ツヴァイクも沈黙したまま頷いていたし、領主になる以上断る訳にはいかないのだろう。
「……わかりました。
それじゃ、行ってくるからみんなはここで待っていてくれ。」
そして、俺は国王の後について行ったまま王宮の中央部にある昇降機に乗り、国王の操作するまま王宮の地下深くへと降りて行ったのだった。
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