カチューシャおばあちゃん 🎀

上月くるを

カチューシャおばあちゃん 🎀




 あるさわやかな初夏の日、仕事をリタイアしてから通い始めたカルチャースクールのフォークソング教室に出かけた洋子おばあちゃんはみなさんから褒められました。



 ――あら、かわいい! それ、カチューシャよね。

   なつかしいわ、若いころ、よく付けていたわ。



 まん丸い顔をやさしくひろげ、うれしそうにうなずく洋子おばあちゃんのきれいな白髪には、華やかなピンクに金銀ラメ入りのカチューシャが燦然と輝いていて……。



      🎸



 そのうちに、だれかが言い出しました、「あら? それ、補聴器じゃないの?」

 でも、ふんわりスカートの洋子おばあちゃんは、おっとりと微笑むばかりです。


 たしかにカチューシャの先は両耳にかかっていますが、とてもオシャレなデザインなので、ちょっと見には補聴器とは分かりませんし、たとえ分かっても違和感ゼロ。


 なるべく目立たない色や形を追求して来た従来の補聴器とは真逆で、あまりに正々堂々としているので、斬新なデザインのオシャレなアクセサリーにしか見えません。


 洋子おばあちゃんはスカートの裾を少し持ち上げると、そっとウィンクしました。

 だれにですって? もちろん、アルパカ坊やにですよ~。(笑)ヾ(@⌒ー⌒@)ノ



      👗



 若いころからかなりの難聴だった洋子おばあちゃんの耳がさらに遠くなったとき、まずはテレビ画面を字幕設定にしましたが、人との会話は、そうはまいりません。


 もちろん補聴器の使用も検討しましたが、法外なほど高価なのに雑音を拾うとか、左右バラバラなので何度も失くして家族にも言えずにいる💦という話ばかり……。



      🙉



 そんなときでした、アルパカ坊やが思いがけない提案をしてくれたのは……。



 ――ねえ、洋子ちゃん、いっそのこと発想を逆転させてみたらどうだろうね。



 発想を逆にするということは、見えにくかったものを目立つようにすること。

 派手派手にして、むしろ存在をアピールするのだとアルパカ坊やは言います。



 ――だって、そうでしょう? 洋子ちゃん。(*´▽`*) 

   身体のパーツの経年劣化は、がんばって来たあかし。

   恥ずかしいことなんかじゃない、誇るべきことだよ。

 

 

 そして、アルパカ界のネットワークを駆使し、発明家や科学者、医師、デザイナーなどが総がかりで創ってくれたのが、可愛らしいカチューシャ補聴器だったのです。


 あ、申し遅れました、アルパカ坊やは思い出せないほど以前から洋子おばあちゃんのふんわりスカートに棲んでいます。ですから、ふたりは一心同体なの。(*´ω`*)



      🦖



 機能性抜群のカチューシャ補聴器のおかげで、ギター伴奏やレッスン仲間のハモリもよく聴こえるようになったメゾソプラノは、みんなが驚くほど美しく伸びました。


 で、わたしもわたしもと希望者が押し寄せ、中継ぎの洋子おばあちゃんは大忙し。

 むろん、スカートに棲むアルパカ坊やのことはだれにも内緒ですけど……。(笑)


 


 


 

 

 

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