第4話夜凪の義妹

 「兄さん、朝食ができたからリビングまで来て」


 ノックもせずに部屋へと入ってきた少女が夜凪に話しかける。

 少女の名は成神由奈。夜凪が11歳の誕生日の日に両親が孤児院から引き取った義妹だ。

 何をしていても表情が一切変わらない顔、スマホに搭載されているSiriのような感情のない言葉が彼女の特徴。

 透き通る銀色の髪が、さらに無表情に花を添えている。

 それに加え、小柄で童顔の彼女は、さながらアニメキャラをモチーフとした人形のよう。

 街中で由奈を見たものは、一瞬思考が停止し数秒立った後に自分が立ち止まっていることに気づく。

大袈裟に言いたいほど由奈は可愛い。

 由奈は夜凪の義妹だが年は同じ15歳で、今年から夜凪と一緒の学校に通う。つまり由奈も頭が良いのである。

 道を通るだけで二度見される由奈がモテないわけもなく、中学ではファンクラブができるほど人気がある。

 その人気は男子生徒のとどまらず、人形のような由奈を愛でたい女子生徒もファンクラブに入会するほどである。

 席替えでは隣の席争奪戦が繰り広げられ、一週間ホームルームが潰れるなんてことが多々あった。

 当の本人の由奈は、そんなクラスの一大イベントが繰り広げられている中、何食わぬ顔で生活する。

 出会ってから5年ぐらいの付き合いになる夜凪でも、由奈のすべてを理解するのは難しい。何なら諦めてもいる。


 「ああ、すぐ行く」


 ベットから腰を上げ立ち上がる夜凪、ついでに少し乱れたベットのシーツを整える。

 そんな夜凪をまじまじと見つめる由奈。その間、由奈の表情は一切変わっていない。

 

 「由奈、もう少しで終わるから待っててくれ」

 「…うん、わかった」


 毎日、由奈が夜凪を起こしに行った後は、二人で一緒にリビングへと向かう。

 リビングへ向かう途中も、決して一緒とは言えない、かといって別々とも言えない、微妙な距離感で接する二人。

 かれこれこの距離間で接して5年は経ち、今はこの距離間こそが二人のパーソナルスペース外なのだ。

 そしてこの距離感をすごく大事にする夜凪。

 長年一緒にいるだけあって夜凪は由奈にかなりの好感を持っている。

 それは由奈も同じことで、表情や言葉に表れていないだけで、夜凪のことを誰よりも信頼や交換を抱いている。

 夜凪と由奈の関係は、互いに替えが利かないほどに、強い絆で結ばれている。

 そんな二人は、今日も今日とて、いつも通りの距離間でリビングへと向かう。

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期待されたくない俺の第二の人生は魔族の王でした。 白星 @shirahosi

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