第3話始まりの朝

 夜凪達の前に自称神が現れる日の朝。

 窓の隙間からほのかに香る桜の香りで目が覚めた夜凪はゆっくりと体を起こし、近くに置いてあったスマホを手に取って電源をつける。

 今日の日付は4月9日。時刻は朝6時を回った頃だった。

 4月9日といえば、どこの学校も新学期を迎え、新1年生はこれから出会う友達や起きる出来事を楽しみにし、2・3年生はクラス替えで仲のいい友達や好きな子と一緒になれるかドキドキしたりする日だ。

 今年16歳になる夜凪も前者の1人に入る。しかし、夜凪の心境は他の新1年生の人とは違い、憂鬱という言葉そのものだった。

 その理由としていろいろあるが、1つは夜凪のコミュニケーション能力だった。小学生時代、1人も友達ができないのを相手側のせいにして挑んだ中学生。しかし、自分から何もしないスタイルを取った夜凪は、結果的に小学校から中学校までの9年間でまともに話せた人はたったの1人もいないまま終わってしまった。

 結論、夜凪はコミュ障だった。

 そんな振り返りたくもない過去を持つ夜凪、めんどくさいにならないことを祈り日課の自習を始める。

 見たことがあるような数式の問題を黙々と解いていく夜凪。

 さっきまで憂鬱で埋め尽くされた思考が問題の答えを考えていくにつれクリアになっていく。まるで1種の中毒症状のように。

 そんな中毒患者の夜凪は15分で5ページほどの問題集を終わらせ、ベットに座るように腰を下ろし、溜息をつく。

 両親に言われ、もう10年間ぐらい朝の自習を続けてきた夜凪の学力は、国内の有名大学なら余裕で合格できるぐらいになっていた。

 中学では常に学年トップを取り続けた夜凪だが、これといって達成感なんてなく、周りから近づきがたい印象を作っているだけだったことに気づく。

 そしていつの日からか夜凪は他人と友好を深めるのはこの人生では諦めるようになった。

 だからこそ夜凪は口癖のようにつぶやく。


 「次の人生では自由に生きたいな…」


 静かな部屋の中で夜凪の声だけが響く。

 そして1人、叶いもしない戯言を言った夜凪は虚しくなる。

 部屋の天井を見上げたまま。 

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