第9話 初デート
早朝。
まだ学園の登校前。
少々眠いのは、昨日の心労があったからだろうか。
あれから私は火の魔法と風の魔法を駆使して、シャロンの服を乾かした。
手を叩いてファウスを召喚すると、車で彼女を家まで送った。
車の中で服の替えがあるから着替えてもいい。着替えた服は上げるからと、シャロンにふさわしい最高級のブランド服を揃えていたのだが、断られた。
彼女の着替えを見ようとしていたがバレたせいかもしれない。
彼女を送った理由は、彼女を一人にしたくなかったのだ。
抱きしめた感触が今でも残っている。
昨日は辛いこともあったが、あの感触だけで報われたようなものだ。
「……本当にやるんですか?」
ファウスは冷や汗をかいていた。
どうやら私の考えに畏怖の念を抱いているようだ。
「勿論、私はシャロンの為ならどんなことだってするって約束したもの」
「その約束はシャロンさんとしっかり話し合って約束したものですか?」
「いいえ、勝手に取り付けたわ」
「……お嬢様の考えが上手くいくことを陰ながら祈っています」
「ありがとう!! 応援してくれて!!」
陰ながらではなく、堂々と祈ってくれればいいのに。
ファウスは相も変わらずメイドとしての職業を全うしている。
三歩下がって主君の影を踏まずにいるけど、私の隣に立っていいのに。
昨日だって、彼女がいたからスムーズにシャロンを家まで送り届けることができたのだ。
もっと遠慮せずに前に出てきてもいいのに。
「きゃあ!! えっ? リリー、さん……?」
「シャロン、おはよう!! 私のことはリリーでいいわよ」
人の顔を見て悲鳴を上げた理由は皆目見当もつかないけど、朝シャロンっんくぅわいい。
朝からシャロン成分を補給できた。
何て幸福な日なのかしら。
「あ、あのー、一応聞きますけど、何でここにいるんですか?」
「シャロンの護衛としているの。またあいつらがシャロンを襲うかも知れないでしょ? だからなるべく傍についてあげないといけないでしょ?」
シャロンがいじめられた理由の一つは、私が彼女から離れてしまったからだ。
私が眼を放したから、いじめられる隙を与えてしまった。
だから今度は彼女からなるべく離れないようにすればいい。
「今度は何の嫌がらせですか?」
「? どういうこと?」
「だ、だって、ここ、私の家ですけど?」
「知っているわよ。昨日、ここまで送ったから」
シャロンの住所はバッチリ把握した。
これで休日だろうが、彼女の傍まで駆けつけることができる。
漫画内では主要の登場人物が出揃い、シャロンとの仲が良くなってから家に呼ばれるイベントがあるけど、そんなの待ってなどいられない。
こっちからガンガン仲良くなっていかないと、いざという時に彼女の隣にはいられない。
「朝からもしかしてずっといる気ですか?」
「ええ! 任せて!! 登下校の時は毎日私が送り迎えするから!!」
これって、所謂登下校デートってやつだ。
カップルが学校の行き帰りに手を繋いだり、談笑をして仲を深めたりするアレ。
見かけた時は歯ぎしりしていたけど、今度は私がやる番だ。
「何かあったら私がずっ――と傍に居て、あなたを守るからね」
私は自分の推しにそう誓ったのだった。
せっかく悪役令嬢に転生できたので推しのヒロインと仲良くしたい 魔桜 @maou
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