くーるびーてぃふゅる

@imoimo425

自販機

「起立、姿勢、礼」

「ありがとうございました!」

透き通るような声から発せられた号令。その言葉により帰りのHRが終わり、生徒たちの帰宅が始まっていく。


「疲れたー」「ほんとそれ!」

「今日もどっか行く?お?いいね!」

ありふれた会話が行われる中、今日の日直である牡丹は学級日誌に手を付けようとしていた。

「あ!牡丹さん!それ残りは私がやっておくよ!」

「いいのいいの!こいつ何もしてないし、牡丹さんにはいつも忙しいことやってもらっているし!」

「何もしてないは余計だよ!まあ私たちでもこれくらいならできるかなぁって!」

そう言われた牡丹さんは少し考えた後に


「……そうですか。ではお願いします」

そう答え帰り支度を済ませ、教室を出た



「お前サラッと“私たち”って言ったけど、手伝わないからな?俺たち」

「ケチ、…まあそれはそれとして」

クラスに残っていた者達が机を並べ始める。

「大丈夫かな?もういける?よし!」


「えーこほん。ではこれより、本日の牡丹さん情報共有会を始めます」

“待ってました!”“イエーイ!”


「今日の体育の時間はマジやばかったよぉ…!かっこよすぎて何人か倒れてたよ絶対!」

「あぁ…眼福ですわぁ…」」

「近くを通っただけでなんというか…いい匂いが」

「ああっ!ホンっトこの学校通っててよかった…!」




“ポチポチ…”


[いまどこ?]


[靴箱で待ってます]

メッセージのやり取りを終えたスマホを鞄にしまう。

彼女、牡丹の学校での印象を語るのであれば、

才色兼備、アルプスの天然水もびっくりな透き通った声、冷静沈着で動揺しない。

簡単に言い現わすならクールビューティフールガールなわけである。

決してはしゃぐタイプではない。

浮かれるようなタイプでもない。

滅多に転んだりもしないだろう。

でももしそんな少女が一人の男の子にだけ違う面を見せていたら?



身体が軽い

今日はいつもより早く彼と帰れるから

人がいないのをいいことに思わず廊下でスキップをしてしまう


早く会うために階段も何段飛ばしかわからないほど飛ばしてみる。


途中で階段を踏み間違えそうになって内心ひやひやしながら靴箱で待っているであろう彼を見つける。そして

彼に向かって手を振りながら突撃するのだ。





「え!?今日朝から何も飲んでないんですか?」

『だからのどがカラカラなんだぁ』

牡丹さんは僕といるときには喋らずフリップを使ったり、口パクで話したり、行動で表したりと個性的なコミュニケーションの取り方をする。

「水道のお水飲めばよかったんじゃ…」

『さいこうにおいしいものを一気に飲むのって最高でしょ?だから我慢してた』

“どや~”

「……」

『……』

「フフッ」

『???』

「いや、僕と一緒にいる時っていつもと雰囲気違うなって」

「っ!それは前にも説明したはず…。」

牡丹さんは動揺すると声が出る。

牡丹さん曰く

「学校のみんなにはしっかり者として見られたい」ということらしい

まあだらしないと思われるよりはいいとは思うけど。

「じゃあなんで僕だけ…」

『…!あった!』

そんな風にボソッと口に出している間に牡丹さんは何か見つけたみたいだ

…っていうかしれっと違う道を進んでいた。

「自動販売機がありますね。…まさかここで買うために今日?」

『大正解~!ピンポンピンポーン』

「ほんとに思いたったらすぐ行動ですもんね…いつものことですけど」

牡丹さんはかなり自由だ。

この自動販売機、結構種類あるみたい。なんか怪しいやつもあったけど

「僕はこれにしよっかなぁ」

“チャリン ポチっ… がこん!”

「スーパーで買うよりも高いですけどお手軽だから買っちゃいますよねぇ」

“ゴクゴク”

「うん、最高!ってあれ?選ばないんですか?」

悩んでいるようで首を動かしいろんなところを見ている。そうしていると何かをひらめいたようでこちらの耳元で説明した。何で耳元なのかはわからないけど。

“ゴニョゴニョ”

「え、選んでほしいって?

僕がですか?それは…責任重大ですね」

まあ頼まれたならしょうがないかな?そうだなぁ、まずは

「これとかどうですか?ブラックコーヒー」

あー、かなり渋い顔をしていらっしゃる。苦いのは嫌なのか。

「駄目そうですか…他の奴となると…」

なら無難においしいやつで…

「これとかどうです?コーンスープ!」

『熱いのは今は…』

「そうですよね。実は大穴のこれとか?

そう言って豚骨ジュースと書かれた缶を指さす

反応は

顔が青ざめている。

なぜか『ひぇ』っというフリップも一緒に見せてくる。

「全然なんでもよくないじゃないですか!となると残りは普通のやつばっかりかぁ…」

『普通のやつで大丈夫だよ?というかのどが渇いているんだけど…』

「じゃあもうこの中から決めてくださいよ!絞れたでしょ?」

『はぁ… わかってないなぁ…』

“やれやれ”

「なんだかムカッときましたよ一瞬」

わけわからないよ!もう!

“よし!ランダムで決めよう!”

普通に自分で決めるのかと思ったらなぜか牡丹さんは意味もない博打に出ていた。

「大丈夫ですか…それ」

三分の二以上飲みたくないやつ出てきちゃうでしょそれ。

『思いついたことはすぐにやるのが一番!細かいことは気にしちゃノンノン。よしっ、これだ!』

ボタンが指先が離れ、下の取り出し口から出てきたのはなんと


豚骨ジュースだった。



「だいじょうぶですか…」

かなりおちこんでしまい、近くの塀に寄りかかってしまった。

「一周回ってツイてますよそれ…」

『どよーん』

落ち込んでいる彼女をよそにそんなことを思っていると

ルーレットが揃う音がなった。これって…

「すごい!当たりましたよ!もう一本早く選ばないと!」

ああっ!まだ落ち込んでる。もうっ

「時間がないですよ!なんでもいいから押さないと…」

時間が刻一刻と迫っている中やっと今の現状を把握してくれたのかノロノロとしながらボタンを押す!出てきたのは


 ブラックコーヒー

「ど、どうして…」

声が出てくるのは本当に落ち込んでいるなぁこれ

少したって泣く泣くブラックコーヒーを飲み始めた牡丹さん


「苦い…」

『しくしく うぅ…』

なんでこんなことに…とか呟く牡丹さん。

自業自得です。完全に

なんだけど…


自分の持っているさっきの飲み物を一度見る。

「これ」

そしてそれを彼女の方へ差し出す。

「よかったらですけど、交換しませんか?

ブラックコーヒー、自分は大丈夫なので」

悲しんでいた顔がきょとんとなり、フリーズ。

そしてなぜか僕から顔をそむけてしまった。


これってもしかして、ただ苦手といって遊んでいるだけだったかも…。そんな考えが浮かんできた。

「もしかして余計なお世話だったりして…?」

ちょっと恥ずかしいなと思いながらそう言葉を続けると

「そんなことない!…交換お願い」

牡丹さんから返答がくる。とりあえず余計なお世話ではなかったことでホッとする。

しかしボトルの交換を行ったが中々飲もうとしない。

そこから数分たった後、覚悟を決めたかのような顔で飲み物に口をつけた。

「おいしかった。ありがとう。」

「いえ、口に合ってよかったです」

少し緊張しているような様子だったけれど、おいしいのは本当みたいで凄い勢いで残りを飲み干していた。

その後はそのままいつもの分かれ道まで到着して

「じゃあここで、今日もありがとうございました!」

「…!」

そう言って僕は牡丹さんに向かってお辞儀をし、一人歩きはじめた。

牡丹さん途中からすごく動揺しておかしかったけどどうしたんだろう…別にいつも通り飲めないものは交換して飲んだだけだし…ん?いつも通り?そういうことか!

僕は一人歩いた道を戻りながら先ほど分かれた道まで戻り牡丹さんを探すと、まだ近くにいた。

「牡丹さん!」

「!」

僕はなんてことをしていたんだ。さすがに非常識すぎる!

「っ!他人が飲んだものに口をつけるのって抵抗ありますよね!すいません非常識でした!」

そう僕は言って頭を下げた。

「…?」

なんでこんなことにも気づかなかったんだ…。

ってあれ?なぜか微妙な目で見られている気がする。さっきの口付けの話しを非難しているようでちょっと違うような感じ。

そんな視線を感じながらも言い訳を一応させてもらおう…

「いつも家族の間ではやっていて…気づかずに牡丹さんともしていました…」

「……」

「何でなのかわからないんですけど、牡丹さんには別に渡しても大丈夫だろって思ってしまって…本当にすいませんでした!帰りお気をつけて!」

そういって頭を下げた後、僕は帰り道を走りだした。こんな一般的なことも気づかなかったのかと思い、恥ずかしくて牡丹さんの顔を見られなかった。

ある程度離れて後ろを振り向くとまだ牡丹さんは立っていた。なぜか顔は複雑そうなものになっていて僕は何回目かわからない会釈をして再び前に走り出した。


その日の夜にTIMEで最初に買った豚骨ジュースがその自動販売機の名物だと知った牡丹さんが辛い思いをもう一度するという過程をアプリのビデオ通話で見せられることになる。

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