この世の隅のどこかドブの底みたいなところ

 金貸しの男が、風俗の女に突然結婚を申し込まれるところから始まるお話。

 地獄みたいな世界に生まれてしまった人々を描いた、現代もののボーイズラブです。
 いやBLと断言していいものかどうかはわかりませんけど、少なくとも自分はそのように楽しみました。

 タグの「男男感情複雑骨折」に偽りなし。
 なのに導入が結婚のお話、という時点で綺麗に不意打ちを喰らって、そのままあっさりとお話に引き込まれました。

 とにかく描かれている環境のそのものの強烈さが凄まじい。
 人の命や尊厳に紙吹雪ほどの重さもない世界で、そのように扱われて生きてきた人の語る半生。
 この彼女、『うち』ことスミレさんがもう本当に好きです。
 語り口に滲む人柄のようなものと、その彼女の抱えた望みというか動機というか、「結婚によって成したいこと」の静かな強さが大好き。

 もちろん、男同士の関係的なものがメインディッシュではあると思うのですけれど(そちらが物語的な『現在』ということもある)。
 しかしその発端としての彼女の決意がとにかく好きというか、それがあるからこその状況というのがたまらない作品でした。