ザッピング・ループ
『――評価。せっかく家族で楽しんで番組を見ていたのに、あるタレントさんの行動と発言が不快でした……とっても残念です』
『……回答。個性を重視し、多様なタレントを起用しています。不適切な発言であれば、当然のことですが厳重注意を致しますが、過激な発言等があったわけではありません。視聴者個人が持つ基準に沿った不快感までは、さすがに網羅することはできませんので、お手元のリモコンでどうぞチャンネルを変えてください……。これ以上、番組側が歩み寄り、無個性な番組が乱立するわけにはいきませんので、どうぞ別の番組をご視聴くださいませ。
「嫌なら見るな」と言うわけではありませんが、せっかく多くのチャンネルがあります……この機会を有効活用し、まだ見たことのなかった番組を視聴してみてもいいのではないでしょうか』
という回答があったので、言われた通りにチャンネルを変える。
今の時代にそぐわない発言、行動――悪ノリがあれば、すぐさまリモコンを手に取る。
バラエティ、ドラマ、ニュース、ショッピング、衝撃映像、動物……、と、普段なら見ないような番組にも目を通す。
……順番にチャンネルを変えて……――気づけば一周していた。
有料チャンネルは除いて、だが。
一周して、再びバラエティに戻ってくる。しばらく見ていたら、やはり不快なノリがあったので、すぐにチャンネルを変え――また変え、またまた変えて……。そして気づいたことがある。
どの番組にも、一定数、不快に感じるポイントがあるということだ。
番組が始まってから終わるまで、一切の不快感を得ない番組はなかった。
……今頃気づいたのか? と思われるかもしれないが、その通り、今頃気づいたのだ。
人によって不快に感じるポイントが違うのであれば、当然、数を撃っていれば一発くらい、当たってしまうことがある……。
全員が満足いくような番組作りは不可能だ。
不快感を抑えるために規制をした番組は、刺激を求める層からは不快に映る。不快を消すために蓋をしたら、そのことを不快だと思われてしまっているのだから、どうしたって両極の視聴者を満足させることはできない……。
歩み寄ることは、もう不可能なのだ……。
だから番組は個性を重視した……、起用するタレントと同じように。
嫌なら変えればいい……ザッピングしていけば、絶対に、その人に合った番組があるはずなのだから。……たった一つの僅かな不快に声を上げる視聴者よりも、黙って見てくれている根強いファンを重要視するべきだ……、すぐに離れる飽き性よりも、好きで見てくれている人を捕まえておいた方がいいに決まっている――嫌じゃないから、見ているのだから。
好きだから。
ずっと、ついてきてくれている。
そういう人たちを裏切るのか?
少数の、声だけでかい『にわか』のために。
――変えることはない。
番組の個性を消すこともない。
クリエイターが変えることはないのだ。
変えるべきは、『見ている側』である。
まあ。
当然ながら、ファンが減れば番組の存続も難しくなる。――バランスなのだ。
尖り過ぎても、自分の首を絞めるだけ――。
…了
ザッピング・ループ(短編集その1) 渡貫とゐち @josho
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