第2話
「うっ...ここは...?」
まだ頭がぼんやりする。どうして私は基地じゃない場所にいるんだろう。
...思い出した。そうだ。私はあの時...
「...また、死ねなかったのか。」
ようやく死ねると思ったのに、結局ダメだった。まさかグレネードが爆発しないとは。
「...やっぱり、ダメなのかな。」
いつもそうだった。痛くて苦しくて死にたい。でも死のうとしても結局ダメ。
部下に止められる。運悪く生き残ってしまう。
そんな偶然が何回も続いて、私はいつまでも死ねなかった。
「...ここは、どこだろう。」
周りを見渡す。どうやらここは何かの執務室だろうか。
「...執務室?」
医務室ですらない。おかしい。これでも私は足一本吹き飛ばされていたはずだ。
...そういえば足が痛くない。
「...?」
足を確認する。どこもおかしくない。欠損もしていない。むしろ靴を長く履いていて歪んだ小指も元に戻っていた。一体なぜなのだろうか。
「...まあいいや。」
立ち上がり、執務室の主人のものであろう机に向かう。
装飾のない黒革の椅子に一人で使うにしては少し大きめの机。実に普通の執務机。
その上にはきれいに整えられた文房具。万年筆やシャープペン、さらにはデッサン用の鉛筆なんていう、一度も目にしたことのないものまであった。
その隣にはハサミや糊まで。まるで文房具店のような品揃えだった。
そう、ハサミがあった。
「...」
ハサミに手を伸ばす。
実に切れ味の良さそうな刃先。これがあれば...
「...死ねる、かな。」
刃先を首に近づける。
「...どうせなら、一撃で死にたいな。」
そして、一突き。
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つい先ほど、ようやく目当ての品が届いた。
白い死神。極東戦線で長らく我が軍が攻勢に出られなかった元凶。
それを遂に捕えることができたのだ。
「あのきれいな白い髪。透き通るような肌。...想像するだけでかわいい。」
思わず満面の笑みになりつつ、仕事を片付けていく。もう残っているのはすぐに終わるもののみ。すぐに終わるものだし、終わったら執務室に向かおう。流石にあの子も目を覚ますはずだ。
彼女の瞳の色はどんな色なのだろうか。まだ目を開けたところを見ていないし、楽しみだ。
『マザーコンピューターに通達。旧地図青森県に存在した要塞の攻略を完了。現地の部隊も制圧済みです。指示を。』
「ご苦労様。ではそこの拠点の防衛を。次の進軍予定時刻は一ニ○○に開始します。」
『了解。攻勢を停止。スリープモードに移行。ではまた明日。』
「ええ。お疲れ様。」
通信を終了する。
「制圧完了。ようやく帰れるわね。」
現在、ロシア軍では基本的に兵士を全て機械化。そしてそれを指揮するものとして人間を雇用している。
要するに、指揮官のみを人間として軍を成立させているのだ。
もちろん機械兵の指揮など一般人にできるわけがない。それには適性が必要なのだ。
3歳に行われる適性検査を経て、指揮官的性のあるもののみを軍学校に入学させ、指揮に関してのあれこれを学ばせる。それが、今のロシアであった。
そのため、指揮官...マザーコンピューターとも呼ばれる存在は数が少なく、忙しい職業なのである。
「まーったく、なんで今日の攻勢担当私だったのかしら...今日のシフト別の指揮官だったはずなのに...」
『答。それはマザーの適性が高いことが原因だと考えられます。』
隣から声がかかる。
「あらR2。私あなたの電源を切っていたはずなんだけど。」
『超高性能最新型サポートAI舐めないでください。自動再起動なんざ朝飯前です。』
「あーはいはいさすがですね高性能AIさん。」
『カレン。あなた今適当にあしらいましたね。口調から推察し83.5%の確率で私の話を聞き流したことが伺えます。』
「あーはいはいソウデスネー。」
声をかけてきたのはロシア軍でマザーの生活をサポートしてくれるAIであった。
彼女...カレンのサポートAIであるこのR2は、性能が高すぎてなんでもこなせる一方で非常にやかましい存在でもあった。
だからカレンはこのAIの電源を落としたのだが...
なんとこのAI、高性能すぎて自分でシステムを起動しやがったのである。
優秀すぎる機械も困りものだ、カレンはそう思った。
「はあ...もう仕事は終わったんだから、プライベートに口出さないでね...」
『軍規定にさわるものでなければ私は文句を言いません。ただあなたの行動は私の一般AIの常識を逸脱しているせいでついつい口を出してしまうだけです。』
「はあ...面倒なAI...」
彼女は文句を垂れつつ、自分の執務室へと向かった。
そこで見たのは、喉にハサミを突っ込んで血まみれになりながら倒れている白い死神だったのだが。
もちろんR2には白い目で見られた。
或る狙撃兵の苦悩 黒プーさん @kuropu1215
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