或る狙撃兵の苦悩
黒プーさん
第1話
『...このモデルは現在最新鋭の素材を使用し精製してるため...』
...誰?
『...ふむ。性能は悪くない。だが...』
...ここは...どこ?
『...しかし、これ以上コストを下げてしまうと...』
...動けない。どうして?
『...問題なかろう、何せ最近の戦況で大規模構成の話は...』
...誰か...
『...承知しました、ではそのように。こちらのモデルは...』
『...北方戦線にでも送り込んでおけ。こんな実験がバレたら上に何を言われるかわからんからな。それか...』
『...承知いたしました。』
...助けて...
===================================
「...っ!」
最悪な夢と共に、私は極寒の基地内部で目が覚める。
あの夢、忘れられたと思ってたけど...まだ覚えてたんだ。
「お、おはようございます軍曹殿。寝覚はいかがで?」
「...最悪、かな。」
隣には私の部下でまとめ役となっている一等兵がいた。
私は基本外で寝なければならないから巡回ルートにかち合うのだ。今回の巡回担当はこの一等兵だった。
「まあこんな寒気りゃそうでしょうねえ。戦闘に支障は?」
「出る訳ない。それ、毎日聞く意味ある?」
「その返答、一番嫌なやつですけどね。こんなクソッタレな環境になれちまうとか。」
「...施設にいた時からこんな感じ。もうなれてるから平気。」
そもそも感覚なんてとっくの昔にない。
「はあ...お変わりないようで。スープ持ってこさせますよ。」
「いい。そっちで食べてて。」
「いやいや軍曹殿。あんた何日食べてないと思ってんですか。」
「...今日で1週間目?」
「わかってんだったら受け取ってくださいよ。あんたが食わないんだったら俺らも食いませんよ?」
「...わかった。」
「よろしい。んじゃ見張り変わるんでどうぞ中でごゆっくり。」
「ん。」
一等兵に双眼鏡を渡し、私は見張り塔から降りる。
そして、ほとんどのガラスが割れている廊下を歩き、壊れた調理器具と長机以外何もない食堂へ向かう。
「軍曹殿〜!スープあったまってますよう!」
「...ありがとう。」
先程の一等兵の部下である兵士から温めてあるスープを受け取り、それを食べる。
「どうですか?まだ冷たいとかないっすよね?」
「...大丈夫。美味しい。」
味はしないが。
「よかったぁ...スープあっためるの難しいからなぁ...」
「...ごめん。」
「えっいやいや!軍曹殿のせいじゃないですって!」
「...でも、私はあなたの上司。部下の不満を受け止めきれてない上司は無能。」
「いやいや、受け止めるも何もここ物資一切届かないのに改善もクソもないですって!軍曹殿のせいじゃないですよ!」
そう、日本列島、北海道に設置されたこの基地は、現在国から見放され、記録にすら存在しない基地になっている。
それもそのはず、この基地はとある研究組織が買収、運営しているはずだからだ。
しかしその研究組織は国家防衛の重要拠点であるにもかかわらず、ここを不要な実験体の廃棄場所としか考えていない。
要するにここは組織にとって都合の悪い人物を殺すための施設である。
そもそもなぜ北海道に重要拠点が置かれているかを説明しなければならないだろう。
2023年に、ロシアとアメリカが戦争状態に突入し、核兵器の撃ち合いが始まった。
お互いに核兵器を撃ち合えば共倒れになるのは明白だが、ロシアは戦争前に水面下にある計画を推し進めていた。
「機械化歩兵計画」。兵士を人間からアンドロイドに変え、その統率を本国の統合施設で行い、上陸作戦から犠牲ゼロで速やかに占領をする。
要するに大量の機械で国を攻め落とそう、その機械はロシアの施設で操ろう、というわけだ。
しかし軍の侵略作戦の意思に反するようにアメリカとの核戦争が勃発、モスク亜が真っ先に破壊され、首脳陣は壊滅、統合施設も破壊されたため、丸く収まるはずだった。
だが違った。
統合施設が破壊されたアンドロイド兵たちは暴走、ロシア市民を全て殺害したのちに他国に宣戦布告、瞬く間にユーラシア大陸、アフリカなどを制圧し、現在残っているのはイギリスやアメリカ、そして日本などのロシアから物理的に距離が離れている国家のみだった。
そしてその国家群は同盟を結成、アメリカ、イギリスを主軸として、ロシアに対応しようとしているのだ。
日本はその最終防衛ラインと設定され、ロシア国境に近しい北海道は最重要拠点だということである。
「...僕ら、この先どうやって生きてけばいいんですかね。」
「...わからない。でも、この先安心して生きるにはロボットどもをなんとかしなきゃいけない。」
「ですよね〜...」
「明るい未来なんてない。なら多少マシな未来を進むしかない。」
「...」
そんなふうに兵士と話していると、キチのオンボロスピーカーから警報が流れ出す。
『敵の進行群を確認!歩兵3師団はいると推測、他には後方に...』
その声を聞き取る前に、食堂が吹っ飛んだ。
「(ぐっ...!?いったい何が...!?)」
徐々に明瞭になる視界。だがその先には地獄が広がっていた。
「ア...アァア...」
「いだいよぉ...」
「...」
既に物言わぬ骸になっているものもいれば、表面を焼かれ、火傷に苦しむもの。下半身を持っていかれたものなど、さまざまな部下がいた。
「...」
「軍曹殿!放送室がやられたので伝令です!敵、歩兵、戦車、魔術砲含む大部隊です!指示を!」
思わず呆然とする。なぜこうなったのか。どうすればこの事態を避けれたのか。なぜ私達だけこんな目に遭うのか。そんな思考が頭をぐるぐる回り、何も考えられなくなる。
「...どうしてこうなるのかな。」
私にはもはや、ぽつりと呟くことしかできなかった。
もう何もできない。信頼する部下もほとんど死んだ。敵は多数。もう、死ぬしか...
「軍曹殿!」
一等兵の声で思考が引き戻される。
...そうだ。まだ私には大事な部下が残っている。苦楽を共にした彼ら。せめて彼らだけでも...
「...撤退。殿は私一人でやる。武器とかもいいからとりあえず生存者連れて近くの基地まで行って。」
「!お一人でですか!?危険です!」
「...私の兵装でゲリラ戦やれば3時間は耐えられる。大人数いても足引っ張られるだけ。いいから早くいって。」
「くっ...!...了解しました。ご武運を...。」
一等兵は悔しそうな顔をしたのち、負傷兵をまとめる前指示を出しに行く。
ああ、そうだ。その前にもらわなきゃいけないものがあった。
「待って。」
「は。なんでしょうか。」
「手榴弾、まだある?」
「は。あるにはありますが...?」
「ちょうだい。」
「りょ、了解しました。」
手榴弾を受け取る。よかった。これで苦しまずに済む。
「...じゃあ、行ってくる。」
「...了解しました。必ず後で合流してくださいね。」
「...」
一等兵含む私の部下達は撤退を開始する。
だんだんと静かになっていく基地内部。
「...わかってるくせに。」
合流なんて、できないことを。
===================================================
狙い撃つ。隠れる。ただその繰り返し。
魔術砲撃が来るときは相手も撤退するから私もそれに合わせる。
最近のアンドロイドは自我ができたのか迫撃に合わせて撤退していく。
無駄に人間らしい。
「はあ...はあ...はあ...」
いくら魔術で強化しているとはいえ、体力はいつかは切れる。
そしてそれは、時に致命の一撃となる。
「ぐっ!?」
突然倒れる。何かに躓いたのか...?
足を確認する。
足が、なかった。
「うぐっ...!?」
それを見た途端、久しく感じられなかった痛覚を感じてしまう。
「(なぜ今更。なぜちょうど今。なんでどうしてなぜなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで)」
頭が真っ白になる。機械の足音が間近にせまる。
「(もう、無理かな。)」
懐から手榴弾を取り出す。
一等兵から受け取った一個。
用途は自決用。
どうせなら機械どもを巻き込んで華々しく散ってやろう。
足音が近づく。
ピンを抜く。
足音が近づく。
目を瞑る。
足音が近づく。
何も起こらない。
足音が止まる。
何も起こらない。
ああ。
こんな時まで運がないのか、私は。
「...最悪。」
私は何かに殴られ、意識を失った。
========================================================
『CodeNo.6813、白い死神を確保。マザーコンピューター、判断を委ねます。』
『了解。こちらから分体を送ります。私がいくまで捕虜として扱いなさい。』
『承伏しかねます。No.6813は一人で戦車大隊を一つ潰した戦歴を持つ。速やかな処刑を推奨。』
『なりません。彼女は戦力に加えます。』
『...洗脳ですか?』
『説得と言いなさい。』
『...了承しました。No.6813を捕虜として拘束します。通信終了。』
「...白い死神。どんな子なのかしら。楽しみだわ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます