ラジオの中の世界

ラジオが食卓にあった時代

祖父が浪花節を聴く合間に

美空ひばりなんかが流れていた


幼かった彼女にはそれが不思議だった

ラジオの表面がモザイク柄になっていたので

その小さな四角の空間が家になっていて

そこで歌っているのかなぁ

なんてカワイイことを考えていた


「ここに小さな人が住んでるの?」と尋ねると

母親はただニンマリとほほ笑んだ


どうすればこんな小さなところに住めるのだろう


子どもにとってはなかなかの難題だった

なのに更にとてつもない仮説を立てた


人が生きていくには家が必要だ

家が1軒だけでは寂しいから町が必要だ

町には病院もスーパーも必要だ


やがてラジオの中には

彼女が想像した世界がすっぽりと収まった


わたしには見えないけれど

みんなこの小さな世界で

平和に生きているんだ


ラジオから声が聞こえるたびに

そう思いながら

彼女は耳を傾けた



ラジオの本当の中身を知るのは

ずっとずっと先のことだった


https://kakuyomu.jp/users/rubylince/news/16817330669000374979

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詩を少々 2023 紅瑠璃~kururi @rubylince

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