最終話 ディモルフォセカの魔女

 丘の上。


 舞い上がった花びらを、見えなくなるまで眺め続ける零司。



「ホンット、サイスにそっくりね」



 声に引かれ振り向くと、そこには満面の笑顔のアーシェの姿があった。



「後悔してるの?」


「……してない、と思う」


「フフ、曖昧な答え」



 ――そう、後悔なんてしない。これは俺が選んだ道……だから後悔なんてしない。



「本当にイデアと闘うつもりなの?」


「……あぁ」


「勝てないよ……それでも、イデアと闘うの?」


「ヤツだけは絶対に……倒さなくちゃいけないんだ」



 ――あの時感じたサイスの意思……おそらく、いや間違いなく、親父達が俺に力を託した理由は。



「……そっか」


「オマエはどうするんだ?」


「どうするって……決まってるじゃない」



 にっこりと笑うアーシェ。



「イデアに零司一人で勝てるわけ無いでしょ」


「一緒にくるのか?」


「あたりまえじゃん」


「っ、」



 零司の頭に、アーシェはやさしくデコピンをした。



「アーシェ…」


「ん?」


「その……イデアを…倒せたら…なんだ、ホラ……」



 歯切れの悪い零司の言葉に、アーシェは顔をしかめる。



「……いや、なんでもない」


「はぁ?」



 赤く染まった顔を隠すかのように背を向けて歩きだす零司。



「ちょ、ちょ、ちょッと! 何!? なんなの!? 何言おうとしてたのよ!」


「忘れた」


「うぇぇ!? 絶対嘘だ! 言ってよ! 言えっつーの!」



 同じ道を、二人は肩を並べて歩みだす。それは決して平穏な道ではないだろう。


 しかし、それでも二人にとってそれは幸せな道。



 いつも隣には、信頼できる人が居てくれるのだから──。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ディモルフォセカの魔女~700歳の魔女と出会ったせいで人間辞めかけてるんだがどうすればいい?~ あさあさよるあさ @asato773

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ