第5話 白の洞穴

 イシル村の村長の元を訪れると

 すぐに1000万ジュールがルミカに手渡された。


 喜ぶルミカを横目にイシル村の村長が神妙な面持ちで話を切り出す。


「アルカ村の勇者殿、他の村の代表である貴殿に頼むのは大変心苦しいのじゃが、一つお願い事がありまして…」


「面倒な建前はいい、報酬次第だがとりあえず話してみろ」


「かたじけない。昨日、イシル村の勇者様がすぐ裏手にあるワイール洞穴へ向かったっきり戻ってこないんじゃ」


「ワイール洞穴?」


「それって調査かなにか?」

 俺に被せてミリーが尋ねる。


「そうです。どうもワイール洞穴にて、魔王の手下が何やら企みをしとるようで…その証拠にワイール洞穴から出現した魔族に村人が数名殺されたんじゃ。その時の魔族はイシル村の勇者様が倒して下さったのじゃが…その勇者様もワイール洞穴に向かったっきり音沙汰が無い」


 その時、背後から肩を叩かれた。

 振り向くとミリーが珍しく真面目な顔で

 自分の鼻を摘みながら耳打ちする。


「この話、断った方がいいわよ。魔族ってのは昨日闘った群狼ウルフより数段は強いわ。それを数匹倒せる程の勇者が帰って来ないってことは…つまり、そういうことよ」


 正直、鼻を摘まれたままシリアスな話をされても違和感が凄いのだがミリーの言うことは最もだ。



「わかった。ルミカはどう思…、あれルミカ?」


 気が付くとルミカがいなくなっていた。


「村長すまねえ。悪いがその話はまた今度にしてくれ」


 俺はルミカの所在を探すことを口実に村長宅から逃げるように立ち去った。正直、俺の目的はハーレムを作る事であって魔王なんぞどうでもいい。


 俺たちは突然いなくなったルミカを探しに

 イシル村の人たちに訊いて回った。


 ルミカはイシル村出身のため目撃者が多く、幸いにもその所在はすぐに判明することとなる。


 村の商人の話によると幸運の壺とやらを

600万ジュールで購入してワイール洞穴に向かったとのこと。


「600万って詐欺じゃねえか?」


「そうねアホね」


 相変わらず辛辣なミリーと共にルミカの行方を探すべくイシル村の裏手のワイール洞穴へ向う。


 目的地は思いの他近く、イシル村のすぐ裏手には

 だだっ広い荒れ地のが広がっていた。

そして、その中心には白色に縁取られた、底の見えない大きな縦穴がぽっかりと口を開けていた。


「ここにルミカが…」


「どうするの…入る?」

ミリーは一応、俺の意志を尊重してくれるみたいだ。


「いや正直入りたくない。でも、あの胸が忘れられない」

これは俺の本音であり、本心だ。

…まだ一度も触ってないのに。


「相変わらずね。変態芋男爵」


「なんか名前がグレードアップしてるな」

ミリーとは出会って間もないが既に彼女の暴言に慣れつつある。


「あたしは行きたく無いけど…勇者の一行に参加するってのは一種の契約が発生するの。勇者の意志の尊重は絶対よ」


「そうなのか…絶対か…なら俺とセッ…ふごっ」


全てを言い切る前に俺は鋭い右ストレートを

見舞われる。


「いって、まだ言い切ってもないだろ」


「芋の考えそうな事ぐらいわかるわよ」


「ミリー、お前素手でそれだけの力があったら前衛フロント張れんじゃないか?」


「馬鹿なこと言ってんな。行くわよ」

ミリーはそう言うとワイール洞穴の淵沿いに設置されている不整備の白石の階段に足をかける。


村人から訊いた話だが、ここはかつて石切場になっていたそうだ。滑らかな白濁色の石は町の建造物にも使用されており、かつては他の村へ流通する程の特産物だったらしい。


「すまんミリー。俺と一緒に死んでくれ」


「死ぬならあんただけにして」


「わかった。なら俺と一緒になってくれ」


「死んでも嫌」


俺たちは普段通りの会話をしつつ延々と永遠に深淵へと続く階段を降った。













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ヒロインアディクション 那須儒一 @jyunasu

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