第4話 種の真実
翌朝、予想通りに植木鉢には五本の紫の花が咲いていた。
すぐさま花を取り、カバンの中に入れ、制服に支度をした。朝食はいらないと母に言うとすぐさま駆け足で学校に向かった。
高校には来たものの、あまり教室には人がいなかった為絢音はソワソワしながら待っていた。時間が経つにつれて人が集まっていき、十分に集まると二本の花に願いを込めた。
(皆が私をずっと惚れていますように)
心の中でそう願うと、皆に声をかけた。
「皆!ちゅうもーく!」
と言うと、皆は一斉に絢音がかざしている花を見た。
「キャーー! 絢音ちゃーん。今日も可愛いわ」
「あぁ、女神が目の前にいるぜ」
皆はいつも通り、歓声の声を上げた。絢音はこの状況が戻ったことに心底気持ちが良かった。担任もいつもの通りに戻ったことがわかり、叱れはしないだろうと思い、他の組に移動をし、花を見せるとさっきと同じようになった。
残りにも願いを込め、先輩の方の教室に行き、花を見せると見たかった光景に戻った。
(これよ、これが見たかったのよ。私は)
絢音は満足をしていると、この前感じた重みが更に重く感じ、その場に倒れた。
「キャァーーー! 絢音! 大丈夫??」
「おい! 早く保健室に」
絢音は自分が誰かに抱えられていることを感じながら、その場に気を失った。
どれぐらい眠ったのだろうか。絢音は目を覚ますとそこは自分の部屋だった。
「はぁ! なんで私の部屋に?」
絢音は状況が理解出来ないまま目覚まし時計を見ると、日にちはいつの間にか一日ずれていた。
(まさか私そのまま倒れたちゃったから、そのまま自分の家に送られたの? もぉー一日無駄にしたわ。まぁ、まだ数日ぐらいあるんだし、長らく楽しまないとね)
絢音は気分を高鳴らせながら準備をし、リビングに向かうと母親がなぜか嗚咽を堪えながら泣いていた。
(あれ? どうしたんだお母さん。結構泣いているなぁ。あの様子じゃあご飯なんて作れないだろうし。誰かの食わさせてもらおう)
絢音は考えると、鞄を抱えて学校に向かった。
ニコニコと優しく微笑みながら下駄箱に行くと、同級生が目に入った。
「あっ、おはよう!」
絢音は笑顔で挨拶をしたが、同級生は無視をしてそそくさと歩いて行った。
(はぁ! 私を無視? なんでよ。まだあの花の効果は切れていないはずよ。まぁ、いいわ。教室に皆がいるだろうし)
絢音は少し苛立ちを見せながらも、駆け足で教室に向かった。
「皆おはよー!」
大声で絢音は挨拶をしたが、その場にいた同級生は友達とお喋りをしたまま無視をしていた。
(はぁ!! ここも? まさか入れる種を多くすると効果は一日だけになっちゃうやつだったの? はぁ、全部使って損したわ)
絢音は大きくため息をつき、自分の席に向かうと
「はぁ! 何これ??」
絢音の席には、花が入った花瓶が乗せられていた。
「ちょっと! 何よこれ! いじめ!?」
声を張り上げても、誰も絢音の声を無視していた。
もう一度声を上げようとすると、男子達の話が耳に入った。
「けれどあいつどうしたんだろうな。絢音の奴が急に心臓発作で亡くなるなんて」
「あぁ。あいつが病気持ちなんてしなかったしな」
(は? どうゆうこと? 私が、亡くなった?)
絢音は男子の話に訳がわからないでいた。すると、異様な気配を感じて顔を上げると、教室の扉にはあの女の子が立っていた。
(は? どうやってここに)
女の子はニヤリと笑うと、一枚の紙を見せた。
”屋上に来て”
それを見せると、女の子はその場を去っていった。
「あっ。待って」
絢音はすぐに女の子を追いかけていった。
屋上に着き、扉を開けると女の子はフェンスに背もたれをしていた。
「あっ。ヤッホ」
女の子は笑顔で手を振ったが、絢音はそれどころではなかった。
「あんた! 一体これはどうゆうことなの? なんで私死んだことになっているのよ!」
絢音は息を荒げて女の子に言った。
女の子はそんな絢音に態度を変えないまま言った。
「あー、あれ。言い忘れていたんだど、実はね。あの種はただの種じゃあないんだよ」
「ただの……種じゃない?」
「えぇ、一昨日あなたの友人が言っていた通りの種よ。美月って言ったけ? その子が言ったこと覚えているでしょ?」
女の子の言葉に、絢音は思い返した。
『あれは、人間の魂で願いを叶える種んだよ!』
「まさか、人間の魂での願いなの?」
絢音が声を震わせていうと。女の子は「そうだよ」と笑顔で言った。
「その種は人間の魂で叶うもの。願いを叶えれば叶うごとに寿命が減るやつなのよ。普通ならもう少しあんた長く生きている予定のはずなんだけど、きっと種を全部使ったからそうなったかもね」
女の子の言葉に、絢音は震えるしかなかった。
「それに、このように願いを叶えるために無償でやるやつなんてある? そこんところ考えないって、あんた中々頭悪い子だね」
女の子は小馬鹿にしたように絢音に言い放った。
「あんたっ! どうにかしてよ! 私を、生き返らせてよ!」
絢音は泣きじゃくりながら女の子に 言い寄った。
「いやいや無理だよ。生き帰らすことなんて私はできませーん。むしろせっかく貰った魂を返すわけに行かないじゃん」
女の子はニヤリと笑みを見せた。その笑みに、絢音は背筋がゾッとした。
「あんた……何者なの?」
絢音は女の子の異様さを感じた。
「ふふ、実はね。悪魔なんだ! 人の魂を奪う悪魔。キャははは!!」
女の子は声を高鳴らせて笑った。
「あ、悪魔? じゃあまさか私」
「はい! あなたは悪魔の種を受け取ってしまったことによって魂を私に渡してしまったことになります!」
女の子は手を叩き、はしゃいで言った。
「そんな……でもっ! 種はあなたが無理やり」
「無理やり受け取ったからって、赤の他人から貰ったものをわざわざ使いますか? 自業自得、欲に負けたんですよあなたは」
女の子の反論に、絢音はそれ以上は何も言えず、頭を垂れた。
「じゃあそろそろ、こっちに来てもらいますか?」
「は? どうゆうこと?」
絢音は顔を上げると、女の子は小さめな黒い箱を持っていた。
「何……それ」
絢音はそう言うと、女の子は箱を開けた。
「さぁ、皆。この子を連れていってくれ」
その言葉と同時に、小さな箱から無数の黒い手が絢音に掴みかかろうとしてきた。
「いっ、いや、来ないで!」
絢音は逃げようとしたがうまく体が動かせないでいた。するとついに、その手は絢音の手首を掴んだ。
そして次々とその手は絢音の足首や首、肩なども掴んできた。
「いやよ! 離して! 離してってば!」
絢音は声を荒げながら必死に暴れたが、足はそう簡単に離してはくれなかった。
「無駄ですよ。暴れても何しても」
女の子はニヤリと微笑みながら箱の中に入り込んでいく絢音の姿を見ていた。
「いっ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」
絢音の叫び声と共に箱の中に引きずり込まれていのを見届け、箱を閉じた。
「ふぅ。これで回収完了。さーてと、この後何しようかな?」
女の子は背伸びをしながらいうと、拍手の音が聞こえてきた。
振り返ると、そこには茶色の髪でカールが掛かった男が拍手をしながら笑みで立っていた。
「あれ? 康介お兄ちゃん。どうしたの?」
女の子の兄、それは絢音の好きだった康介だった。
康介は絢音には操れず、ただ願いを込めたことが頭から入り込んできたため、その通りに動いていただけだった。
「あぁ、お前がどのようになっているかなって思ってな。でもありがとう。その女中々うざったしいかから前からどうしようか考え込んでいたんだうよね」
康介は髪を掻きむしりながら女の子に言った。
「へぇ、でもお兄ちゃん殺したらダメだよ。それじゃあ魂回収できないんだかさ」
「そうだな。そろそろ帰ったらどうだ。俺はまだ授業があるからな」
「はいはーい、それじゃあじゃあね」
女の子は笑顔で手を振り、屋上を降りていった。
(本当に、欲な人間ばっか)
康介は心の中でそう言うと、屋上を降りていった。
願いが叶い、操る種 羊丸 @hitsuji29
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