旅の仲間を探しにいこう

 まだ日も高いというのに、コメーダの酒場は普段よりずっと多くの人で賑わっていた。

 見覚えのない顔ばかりだ。彼らのほとんどが魔王討伐に名乗りを上げた有志なのだろう。やはり腕に自信のありそうな男たちが多い。しかし俺より若そうな女の子やらおじいちゃんおばあちゃんもいて、意外とバラエティに富んでいる。

 俺が思っていたよりずっと、世界は勇気ある人で溢れていたようだ。


「いらっしゃいレイード。王様から話は聞いているわ」


 店内を眺めていたらコメーダのお姉さんに声をかけられた。俺にはまだちょっと早そうな、色気溢れるお姉さん。

 カウンター席に座ると、お姉さんは冷たいミルクを出してくれた。


「意外といっぱい集まったんですね」

「多いのか少ないのか、私には分からないけれど。魔王討伐に集まってくれた人たちに声をかけて、簡単なリストを作っておいたわ。見て」

「お姉さん仕事できるねってよく言われません?」

「あなた、声をかけた人をあとから断れるタイプじゃないでしょう?」


 その通りだ。さすがお姉さん、よく分かってくれている。

 カウンターに置かれた分厚いファイルはずしりと重い。パラパラめくってみると、自由記入でなく履歴書のようにきちんと形式化されていた。特技や長所短所、志望動機など、見やすいことこの上ない。

 しかし量が量だ、パッと眺めただけでは選ぶに選べない。


「みんな一緒にってわけにはいかないですかね? せっかく集まってくれたんだし」

「どうしてもと言うなら止めはしないけれど、おすすめはしないわ。宿代だけで破産しちゃうし、関わる人が多いだけトラブルも増えるものよ」

「なるほど確かに」


 大勢の人たちをまとめるリーダーシップなんて俺にはないし、宿代はあまりに現実的だ。

 店内が静かになったように感じて見渡すと、多くの視線が俺に向けられていた。勇者の血族だと気付かれたのだろう。なんとも居心地が悪い。


「お姉さんのおすすめとかいませんか? こういうの初めてなもので。お姉さんのほうが信用できるかなって」

「いなくはないけど、あなたが選ぶべきよ。大切なのは勇者の選択。場末の酒場の女が出る幕じゃないわ」

「勇者じゃなくてただその血族ってだけです」


 なぜだろう、みんなして大事な部分を端折ってくる。血族だからって特別な力があるわけじゃないのはお姉さんも知ってるだろうに。


「強いて言うならパーティは三人がいいと思うわ。二人だと意見の食い違ったりしたとき面倒だし、四人以上だと多数決で勇者の選択が負けちゃう可能性があるから」

「勇者じゃなくてその血族。大事なことなので二回言いました」


 分かった上で言ってるんだろうけど、逐一訂正はしておきたい。なんであれば集まってくれた人たちにも聞こえるよう、ちょっと大きめの声で言った。

 しかし、お姉さんの言う通り、三人パーティが妥当なところなのだろう。二人だと気が合わなかったとき気まずいし、四人以上にしたら俺だけ会話に混ざれないなんてこともありそうで怖い。


 刺さる視線は無視して、正面からリストに向かい合う。人を選ぶような真似は性に合わないが、俺なりの吟味をするしかない。

 まず、魔法を扱える人は絶対に必要だ。俺が魔法を扱えないからこれだけは外せない。

 次に戦士タイプ。これも欠かせない。俺が特別タフでもなければ腕に自信があるわけでもないから、前線を張ってくれる人もまた必要不可欠だ。

 そこまで考えて、ぱたんとファイルを閉じた。


「俺、いらなくね?」


 俺、なんもできないじゃん。まず除外すべきなの、俺じゃん。

 みんな魔法扱えたりちゃんと鍛えたりしてるのに、俺だけなんも特技ないじゃん。


「あなたがいらないわけないでしょう。勇者の選択が世界を救うの。かつての勇者がそうだったようにね。だからみんなここに集まっているのよ?」

「勇者は勇者。俺は俺。勇者の選択が世界を救ったってのも結果論じゃないですか。血の繋がり程度のこと、みんな過信してません?」

「そんなことないわ」


 いつもと違う、強い断言。お姉さんはカウンター越しに俺の顔を覗き込んできた。

 開いた胸元から溢れるおっぱいにまず目が行ったが、すぐに顔を上げた。お姉さんは真剣な目をしていた。


「たしかに血の繋がりはあなたが選んだわけじゃない。だけどあなたはここに来た。あなたの選択で、ともに魔王を倒す仲間を探すために。本当になんの取り柄もなくて、本当になんの役にも立たないと思っているなら、ここに来ることもできないはずだわ」

「…………」


 返す言葉が見つからなかった。

 それってあなたの感想ですよね? だけでは、論破できる気がしない。

 いつの間にか店内はしんと静まり返り、みんなの視線は俺に集まっていて、どうやら今から逃げ出す選択肢などないらしいことだけは、はっきりと分かった。

 最後にお姉さんのおっぱいをじっと見て、冷たいミルクを一気に飲み干し、再びファイルを開いた。

 それからあまり時間はかからなかった。


「この人と、この人をお願いします。それと、集まってくれたみんなに感謝の言葉を伝えておいて頂けますか」


 席を立つとお姉さんはきれいに笑った。


「分かったわ、レイード。あなたはやっぱり勇者よ。血の繋がりなんて関係なくても、ね」

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コメディクエストⅢ アキラシンヤ @akirashinya

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