コメディクエストⅢ

アキラシンヤ

旅立ちの日

「起きなさい、レイド。旅立ちの日よ。いつまで寝てるつもりなの。早く起きなさい」


 うるさい母さんに、俺は寝たふりを続けていた。

 起きたくない。寝ていたい。旅になんて出たくない。


 うちが勇者の血を引いていることは以前から聞いていた。魔王が復活したら倒しにいかなければならないことも、聞かされてはいた。

 でもまさか俺のタイミングで復活するとは思わないじゃん。


「……どうしても行かなきゃだめかな」

「当たり前でしょ。ロクに働きもしないあんたがギリ許されてたのは勇者の血族だからよ? 早く支度なさい。お迎えが来ちゃうわよ」


 どうやら逃げ道はないらしい。分かってはいたが。

 いや、本当にないか? 本当に?

 探せ、考えろ。まったりニート生活を続けられる、起死回生、逆転の一手。


「でもさ、俺が勇者の子孫ってことは、母さんも勇者の子孫だよね? 母さんが行くってのもアリなんじゃないかな。全然若いし三〇代にはとても見えない。女性が活躍する時代、かっこいいと思う」

「ママは違うわよ。血族は他に女作って出ていったアレのほうだもの」


 はい地雷踏んだ。もうだめだ。

 クズ親父の話はタブーだったから初耳だよ。お前が勇者の血族だったのかよ。ご先祖の勇者も草葉の陰で泣いてるよ。


 やはり逃げ場はない。ここが年貢の納め時。グッバイ楽ちんニート生活。

 涙を拭いて、俺は王城へ向かう支度を始めた。


 王城、謁見の間。

 兵士二人を侍らす玉座の王様は、人のよさそうなおじいちゃんだ。


「よくぞ参られた。勇者レイドよ」

「正しくは勇者の子孫ですが」

「険しい道のりになるだろうが、おぬしなら必ずや魔王を倒し、再び世界に平和を取り戻すことができるはずじゃ」

「血族への期待が高すぎる」


 そもそも血の繋がりって意味あるんだろうか。特別な力とか特にないんだけど。なんならニートで人より劣ってるまであるんだけど。


「おぬしにこれを授けよう」


 王様がそう言うと、兵士の一人が大きめの袋を寄こしてきた。

 受け取り、中身を確かめてみる。


「木の棒、鍋のふた、二〇〇ゴールド、以上。これはなんですか?」

「行ってまいれ! 偉大なる勇者レイードよ!」

「待って! もっとまともな何かありますよね!? そこの兵士さんですら槍持って鎧着てるんですけど!」


 どういうこと? ロイヤルジョーク? 木の棒と鍋のふたとかキャンプ道具未満じゃん。二〇〇ゴールドも豪華なお小遣いぐらいだよ。


「仕方ないのじゃ。勇者といえど民間人、民間人に武器を贈与してはならない法があるのじゃよ。かといって直ちに法改正もできんのじゃ」

「難しい問題ですよね……」


 法律なら仕方ない。ちゃんとした国家だもの、ルールは大事。

 俺がまったく準備をしていなかったように、国もまた魔王復活の準備をしていなかったというわけだ。


「理解が早くて助かるのじゃ。国からはこの程度の支援しかできんのじゃが、コメーダの酒場に旅を共にしたいという有志が集っているそうじゃ。行ってみるとよかろう」


 旅の仲間を探せということか。

 それこそ兵士をお借りしたいと思ったが、それもまた難しい話なんだろう。


 王様に一礼。謁見の間を出る。

 コメーダの酒場に向かおう。今のところキャンプすらできないが、強い仲間がいればきっとなんとかなる、はず。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る