後日談:麗女の行く道

 それから二日間は、それまでのようにキーズ家の使用人として働きながら過ごしました。頭の中を整理するにはそれがいいと思ったからです。

そして三日後、休暇を貰うと、私は再びウィンベル家へと向かいました。

 

 ご夫妻は相変わらず感じ良く私を出迎えてくれました。マリエ様と四人で話がしたいと来意を告げると、二人は私を応接間に通し、マリエ様を呼びに行ってくださいました。


先日と同様四人で膝を突き合わせて座ると、最初にマリエ様が「私——」と口を開きました。

「お父様の提案通り、少し離れたところでアイザックと暮らすことになったの。もちろん、あなたのご両親——本当の私の両親に了承を得てからになるけど。・・・・・・あなたは?」

「私は——」

いつの間にか私はエプロンドレスを握りしめるのが癖になっていました。

「私は、ずっと使用人として生きてきたので、まだ自分がどう生きていったらいいのかわかりません。・・・ですので、これから各地を回って、色々な場所、色々な人の暮らしを見て、自分の見聞を広めてから考えたいと思います」

「旅に出るってこと?」

マリエ様の問いに私は頷きました。

「それでは必要な金はこちらで工面しよう。お前は本来はこの家で育つはずの子だったのだから」

旦那様はそう言っていただきましたが、私は首を横に振りました。

「いえ、そのような訳には・・・ずっとキーズ家で働いてきて、蓄えはありますので、大丈夫です」

「どのくらいの期間旅に出るの?・・・それに、身の振り方が決まったとしても、ずっと遠くで暮らす可能性もあるんでしょう?」

マリエ様が私の腕を掴んで、真剣な表情で私を見据えました。

「手紙を書きます。しばらくは、私は転々としているので一方通行になってしまうとは思いますが、落ち着いたらまた顔を出します」

三人は神妙な面持ちでしたが、どうにか納得はしていただけたようでした。

「まあ、お前が自分でよく考えて決めたことなら尊重しよう。くれぐれも、気を付けるんだぞ」

「本当に、ちゃんと手紙を出してよね。それとちゃんと定期的にこっちに顔を見せて。それだけは、約束よ?」

言いながら、マリエ様は私に抱き付いてきました。

私はもちろんです、と返すと、三人と握手を交わし、後ろ髪をひかれながらもウィンベル家を後にしました。


 それから数日中にマリエ様はオスカー家の両親への挨拶を済まし、私も準備が整ったためとうとう出立の日になりました。

キーズ家を出る時は家主夫妻と両親が見送ってくれました。いくらかの荷物と、他所行きの服を着た私は、それまで使用人としての用事でしか外出したことがなかった為少し落ち着きませんでしたが、それでも気持ちはすっきりとしていました。


見送りの人間たちに別れを告げると、私は歩き出しました。その日は最初にウィンベル家に向かった時のように気持ちの良い春の陽気で、私はその時のように少し浮かれた気分で歩き続けました。


周囲に目を向けると、道々には目にも鮮やかな緑が生い茂っていて、日差しのせいもあっていっそう眩しく感じられました。


不安が無いと言えば嘘になります。


しかし今回のことは、今まで機械的に生きてきた私にとって初めての大きな決断であり、決めたからには突き進まなければならないと思いました。

苦労も困難もきっとあるでしょう。しかし私には身を案じてくれる友が居て、本当の両親も、育ての両親も私を暖かく送り出してくれました。

それを支えに生きていきたいと思います。

しばらく経った後、自分はどのような人間になっているのだろう。

そんなことを考えながら、私は先へ先へと続く道を歩いて行きました。

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クロスロード 深雪 了 @ryo_naoi

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