最凶を作りたい人生だった。
アテナ(紀野感無)
第1話
あの子が本格的に稼働し始めて既に3日。既にいくつかの国が滅んだらしい。
試作品(68)は順調に活動してる様でひとまず安心する。
「欠点の一つだった魔法の複数使用に関する問題もクリア、と。やっぱり治癒系の魔法を付与したのが良かったのかな。あとは燃費をもう少し良くできるといいかなぁ。魔力尽きちゃうと元も子もないし」
研究成果を纏めているとドアが勢いよく壊される。
もう、部屋に入る時はノックをしなさいって教わらなかったの?
「どなた……って貴女ですか。
「やっと見つけたよ。
「見つけたも何も私隠れてないんですけど。後その名前はもう捨てたので呼ばないでもらえます?そうですね、便宜上『黒』とでも呼んでください」
「あれだけの事をしておいて隠れてないは無理があるよ」
「あれだけの事……?」
とは言っても本当に心当たりがない。
何を言ってるんだろうか。
「……あ、もしかして私の作った試作品にした事を言ってる?別に皆には口止めしてないし、そもそもが負けたらみんな廃棄してただけだよ。喋ったら即死とかしてないから私に不信感抱いてたなら喋れたはずじゃない?負けたら廃棄される様にしてたのは単純に研究成果を他に渡したくないからですよ」
「……何でそんなことをしたの?私の知ってる翡翠はそんな人じゃなかった」
「貴女の知ってる私って、それこそ10年以上前の私でしょう。しかもこの世界に来る前の。人間ってね、環境にいとも容易く変えられちゃうんだよ?」
こっちの世界に来たのが、もし貴女と一緒だったら私はこうはならなかったのかもしれないけれど。
そんなたられば話はどうでも良いとして。
「魔法少女という存在にされてから身体的な劣化はしないけどね、精神は劣化するんだよ」
「でも、それで世界を滅ぼすなんて……」
コイツの言い方に少しイラッとしたけど何とか表情に出さない様にする。
……何も知らない癖に。
「翡翠の過去に何があったのかは確かに知らない。でも貴女のやろうとしてることは間違ってる」
「そりゃそうでしょうよ。んなこと私もよーくわかってる」
「ならなんで……」
「別に隠すことでもないし、私の目的について教える分はいいよ。でも貴女は絶対に納得はしない。綺麗事しか知らない、見ない貴女にはね」
わざとらしく白衣を着て、牡丹から遠ざかる様にゆっくり歩き、一気に振り向き大声で高らかに言い放つ。
「私の目的は色々あるけど、やっぱり1番の、最大の目的は最強で最恐で最凶の魔法少女を作る事!ですかね。
どんな相手、どんな状況下ですら勝ち、その全てを蹂躙できる強い魔法少女を、私自らの手で造る事。
それが私の人生における終着点、と言ったところでしょうか」
牡丹はひどく困惑していた。
まあそりゃそうでしょうよ。
私だって他人に万が一にも納得される理由だとは1ミリも思っちゃいない。
「どうしてそんなものを作りたいの?」
「いやそりゃねぇ?自分の手で造ったモノが世界で1番になると嬉しいじゃないですか。
ほら、努力したら実が結ぶ。こんな世界でも適応される素晴らしき
貴女も自分で努力して今の貴女を造ったからこそこの世界で一番有名になったでしょう?それと同じです」
「全然違うよ!」
「同じですよ。ただ結果が違うだけで。
貴女は結果として世界の役に立つことになった。
私は結果として世界の敵になった。
ただそれだけの違いです。
ああ勘違いしないでくださいね。別に世界の敵になりたくてやってたわけじゃないです。好きな様にしてたら偶々世界の敵とやらに認定されていただけです」
そりゃ私とて好き好んでこの世界全てを敵に回す、なんて馬鹿げた事を率先してやるかっての。
「好きな事って、何人も魔法少女を自分の手で造って殺していく事?」
「ええ!ええそうです!いやぁ楽しいの何の!
それにですね、貴女に負けちゃった魔法少女たちも実は外で動かす前にワンステップやる事がありましてね。
1人ずつ造ってるんじゃなくてまとめて5人くらい造るんです。それに同じトレーニングをさせた後に殺し合い!とっっても見てて楽しいんです!
千差万別の戦略と魔法による殺し合い!元いた世界では絶対に見れない娯楽でした!
あっはぁ。何でそんなに私が歪んでしまったのか、こんなことをするようになってしまったのか、みたいな顔してますね。
だって、こんっなにも私に無縁で無関係で、いくら好き勝手しても誰にも怒られない世界に、クソッタレな神様は放り込んでくれたんですよ?
だから私はやりたいことをやろうと、そう思った。それだけです」
「それで幾つも国を滅ぼしてたの?それにこの世界は貴女のせいで滅びようとしてる。それには何も思わないの?10年以上過ごした世界なんでしょ?」
「え?この世界が滅びそうなことに関してですか」
「貴女を大切に想ってる人や、貴女を慕ってる人はたくさん見てきた。そんな人たちが死ぬかもしれないっていうのに、何も思わないの?」
少し思考を巡らせる。この世界の人で私を大切に思ったり慕ってくれている人たちが死ぬ、か……。
……。
「……いや別に、何も。考えたことがありませんでしたね」
特に何も感情が湧かなかったから思った通りに答えると酷く驚かれた。
「私はあの子の心を、目につく全てを破壊し尽くさなければ気が済まないよう弄っただけです。まあ破壊活動をさせてれば勝手に現存する、いわゆる強いと称されている魔法少女、軍隊、その他諸々が釣れるかなーって思っただけです。
結果が得られるまでの副産物、と言えばわかりやすいですかね。
あのこの手で滅ぼうが私は何も思いません。
どうでもいいです。
むしろ滅んでほしいとさえ思います」
「何で……何でそんなことを平気で言えるの!」
「そりゃだって、私はこんなクソッタレな世界を一度だって好きだと思ったことはありませんから」
「え……」
「想像できますか?
急に日常から引き剥がされ、神様とやら……いや、召喚儀式をしていた元上司達、ですかね。ソイツ達の勝手な都合で独りぼっちにされ、そのまま何もかも分からない、知らない場所に放りこまれ、何もしてもらえない哀しみ、虚しさ、孤独さ。
元の世界から勝手に引き連れてきておいて私が使えないとわかった瞬間にほったらかし。帰らせてもくれない。
私だってお母さんやお父さんとまだ過ごしていたかった。友達と馬鹿騒ぎしてカラオケとか色々な所で遊びたかった。
そんな思いすら踏み躙られて身一つでこの世界に放り込まれた。悲しくて一晩中泣きましたね。
貴女はいいですよね。
初めからずっと、ずーーっと仲間がいたんですから。独りぼっちじゃ、なかったんですから。
孤独で何年も何年も過ごすなんて、そんな地獄味わうことなく、なんなら考えることすらなく今の今までやってこれたんですものね。
ああ、勘違いしないでくださいね。
別に貴女を憎んでなんていませんから。
というよりそんな感情、とっくのとうに捨てましたからね。
そりゃこっちに送り込まれた時はこの世界の全てを憎みはしましたけど、次第にそんな感情すら抱かなくなりました。
憎いとか考えてたら身が持ちませんでしたから、自然と考えることはやめました。
まあそうですね。憎いか憎くないか、で言われたら憎いですが、それは貴女が憎いわけじゃないです。
憎いとしたらこの世界の全て、ですから。
まあだから、この世界が死のうが死ぬまいがどうでもいいんです。私は私のやりたいことをしてるだけです。私は自分の心に従って動いてるだけなのです。
「それは違う。心に従ってるんじゃない。
心が麻痺してるんだよ」
「そうかも知れませんね。
でもだからと言って世界を滅ぼそうなんて、そんなめんどくさいこと考えてませんよ」
「一ついいかな」
「はいどうぞ」
「なんでそんなに強い魔法少女を造る事にこだわるの?」
「え、そりゃあ面白いからに決まってるじゃないですか!」
「面白いって……それだけの理由で沢山の人を殺してきたの⁉︎世界を滅ぼそうとしてるの⁉︎」
「話通じませんね牡丹。元の世界にいた時からちっとも変わっていない。
言ったでしょう?
世界が滅びようがどうなろうが私にとってはどうでも良い事です。
世界が滅んだのなら私の目的は達成したのでもう何もする気はありませんし、貴女達が試作品(68)を殺して止めれたのなら目標未達成って事で新しく造る。
それだけです。
これでも転生前はよくダークファンタジー系の作品は読んでましてね。
最強の敵キャラ、って存在は憧れてたものなんです。
で、この世界で誰の迷惑も考えずに好き勝手できる、となればやらないわけにはいかないでしょう?」
こう言った時の牡丹の行動はいやでもわかる。
「なら私は絶対に貴女を止める。話し合いで和解したかったけど、無理なんだね」
「まあ無理ですね。それに……私を止める、ですか。
いや構いませんけど」
「そう。いつもみたいに逃げないんだ」
「そりゃいつもは研究途中に捕まえにきてたからそりゃ逃げますよ。研究続けたいもん。
だけど一つだけ言っておくよ。
仮に私を殺したとしてもあの子は止まりませんよ。あの子は目につく生命体全てを虐殺しにいくだけですから。
どんな怪我でも治る魔法、どんな魔法もコピーできる、そんな存在を放置しておいて私を止めると言うなら、まあお好きにどうぞ。
私を殺したとて、あの子の破壊衝動は消えませんけどね。止める方法も作ってませんし。てか止まる方法あるなら私も知りたいし」
「だって翡翠のことだから自分に向かってきた時の対応策あるでしょ」
「ざーんねん。それがないんですよねぇ!あっはっは。言ったでしょう?あの子は目につく生命体を全て虐殺しにいく。無論私の元へ来たら私も対象でしょう。研究所を転々としてた理由はそれですから。研究途中で殺されると無念ですから。
ほらほら、できるかは置いておきまして現状を変えたいなら私ではなくあの子を殺して止めなければ変わりませんよ?私に時間を使えば使うだけ、現状は酷くなります。
それでも私に向かってくると?」
「ええ。貴女を今ここで止めないと、仮に今をどうにかできたとしてもまたやるでしょう?それに、その子達も助けさせてもらうから」
私の後ろを指差してきて、何があったかなと振り返ると採集してきた魔法少女もといモルモットだった。
「……ああなるほど。試験管にいるモルモットの魔法少女達を助けたいと、そう思ってるんですね。
ですがご心配なく。あの子ができた時点で試験管ごと廃棄する予定でしたから。
ちゃんと安楽死はさせますよ。
苦痛のまま死に晒せ、とかそこまでど畜生じゃありませんから。もうこれ以上、今はモルモットを採集して来ませんし、犠牲になる子もいません。
念のため言っておきますが、安楽死がこの子たちにとって最良の選択です。嘘じゃないですよ?
それでも良いならどうぞ。
「ならそれ以外の方法で助ける方法を探すだけだよ。私と一緒に来てる人の中には治療が得意な人もいるから」
「……まあ、そうしたいならお好きにどうぞ。
ですが試験管からこの子たちを出すことは、恐らく貴女にとってもこの子達にとっても酷く辛く、トラウマになるかも知れないですが、まあそうしたいというなら
精々、壊れないよう、気をつけてくださいね?」
最凶を作りたい人生だった。 アテナ(紀野感無) @AthenaDAI
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