異能力者バトルロイヤル
春海水亭
最強の暴力を決めるときが来た
異能――それは未だ解明されぬ、人間の中に眠る未知の力である。
炎を操るもの、瞬間移動を行うもの、皮膚を鋼鉄へと変化させるもの、その種類は数多にわたり、異能者の数だけ異能は存在するともいわれている。
そんな異能者が今、一つの会場に集められた。
「異能者諸君……我が招待に応じ、よくぞ来てくれた!」
東京ドーム中央――東京ドーム三分の一個分の大きさの特設リングに立つ八人の異能者に対し、リングサイドから外国の大富豪ミッテェーナ・オイ・イノゥバトゥールガーが呼びかける。
「ルールは最後まで立っていた一人が勝者となるシンプルなバトルロイヤル!異能の使用は自由!負傷に関しては、とりあえずは我が財力で及ぶ範囲の最大の治療を約束しよう!そして勝者には百億円を与える……シンプルなルールだろう!?」
未だこの世界の誰一人として見たことがない超常の戦いとなろう――しかし、観客席には誰一人として存在しない。この東京ドームに存在する人間は八人の異能者とリングサイドに立つミッテェーナ、そして医療スタッフのみである。
「倒すだけで良かったよ……殺人は……したくないから」
けん玉を持った小柄な少年、
「おいおい坊や、俺を殺すってかァ?おもしれぇじゃねぇか」
頭部の右半分のみを刈り上げたアシンメトリーヘアスタイルの男、
「……グヒヒ、オデは殺人だーいすきだど」
ニメートル超の巨体にでっぷりと贅肉をつけた男、ピザァ・クッテルトッキャ・ムテキヤッデが涎を垂らす。
「……フッ」
「待ちきれねぇなァ……久々の喧嘩だ」
白衣を着た筋骨隆々の男、アラユル・ケガナオシマッセイが腕を鳴らす。
「全ては神の御心のままに……」
枯れ木のように細い体躯の神父、キコエンゼ・カミカラノコエが静かに手を合わせる。
「やれやれ……いつまで私に下賤の者と同じ空気を吸わせる気だい?」
貴族然とした男、ヘンゲル・バケモンニモナレールⅢ世、ため息をつく。
「で、俺らは仕上がってるみたいなんだけどさ……金持ちの旦那はどうなんだい?」
リングロープに身を委ねた男、
誰もが合図を待っていた。
東京ドーム三分の一個分の巨大リングの中に、彼らの闘志が充満している。
彼らの闘志を東京ドームの大きさに換算すれば、果たしてどれほどの量になるだろうか。
リングから溢れ出した闘志がジリジリとミッテェーナの肌を灼く。
物理的な影響力はないはずだ――それでも、ミッテェーナはリングの中の熱を感じずにはいられなかった。自分のような常人が入れば、異能を使われるまでもなく、その熱に焼かれて死ぬのではないか――そうとさえ思えた。
「よろしい、君たちの戦いに期待する……異能力者バトルロイヤル!開始!」
ミッテェーナがゴングを鳴らす。
東京ドーム中に高らかな音色が響き渡る。
瞬間、
(私の能力は戦いが始まったと認識することで、相手の異能を理解する能力――タイマンならば厳しいが、立ち回りを求められるバトルロイヤル形式の戦いなら、何よりも優位に立つ!)
異能者の中には能力発動のために条件を満たす必要がある者も存在するのだ。
(さて……他の異能者の能力はァ!?)
「……悪いけどお兄さん!死んでもらうよ!!」
『片足で跳ねながら目を閉じてけん玉の最高難易度の技に挑戦している間だけ時間を止める能力』
「嘘だろ!?」
思わず、
この場における――否、いかなる状況においても実用性皆無と言っても良いだろう。
しかし、
「おいおい坊やァ……興奮させてくれんじゃねぇか!!」
小柄な体躯でフットワークを効かせながら、攻撃を行う
(なんという格闘戦……彼の能力は……)
『美容院でアシンメトリーに整えた髪型が自然にシンメトリーになった時に相手の心を読むことが出来る能力』
「この状況じゃ何の役にも立たねぇ!!!」
「やるじゃん……お兄さん……!」
「坊やも……なァ……ッ!!」
一進一退の攻防に入り込む余地はない――
(まぁ……役立たずの異能者同士、せいぜい潰し合ってもらうことにしましょう……さて、他の異能者はどうでしょうねェ……?)
「悪かったど……オデ……異能を使うのに時間がかかるからなァ……!」
誰に電話をかけていたのか、ピザァがスマホを放り投げてアラユルの方を向いて、腹を揺らす。
「へっ……構いやしねぇよ……すぐ終わっからなぁ!!」
アラユルが白衣を脱ぎ捨て、上段にガードを構える。
(さーて、彼らの異能は……)
『戦闘中に注文した宅配ピザを食べている間だけ、敵のあらゆる攻撃を無効化する能力』
『ペットのハムスターのあらゆる怪我や病気を完璧に治療する能力』
「やっぱり役に立ってねぇ!!!」
原付きとの衝突に匹敵するピザァの張り手を、アラユルがクロスガードで受け止める。アラユルの骨に僅かにヒビが入るが、アラユルは止まらない。
「おらぁっ!」
ピザァの水月を狙い、突く、突く、突く。
一瞬の隙もない急所ラッシュである。
だが――ダメージは与えられない、なんたる脂肪か、肉の鎧の如きである。
アラユルの攻撃を受けて、ピザァがニタリと笑う。
「今配達中のピザが届くまでの三時間、せいぜい楽しませてもらうど」
ピザァの笑みに釣られるようにアラユルも笑う。
「へっ、すぐ終わらせるって言ったろうが……」
「宅配ピザおっせぇ!!!」
そして
異能が発揮できないのは好都合であるが、宅配に三時間かかるピザ屋に関しては不安になってくる。
(ま、まぁ……いいでしょう……実質的な敵はキコエンゼ、ヘンゲル、
ピザァとアラユルから視線を外すと、キコエンゼがヘンゲルにコブラツイストを極めている。
(……あー、これはもう、あれだ……いや、一応見ますけど、えーっとキコエンゼが)
『神からの預言を受け取り、十二月三十一日に今年の流行色がわかる能力』
(この状況では何の役にも立たないし……ブームも先取れねぇ!!!!)
「フフ、ギブですか……?」
「甘いね……貴族にギブアップは……無いんだよ!!」
完全に極まったはずのコブラツイストを、ヘンゲルが異様な身体の柔軟性で抜け出し、逆にヘンゼルがキコエンゼにヘッドロックをかけている。
(……そうか、あの異常な柔軟性が彼の異能というわけですか)
『アバターを自由に作成できるゲームで、あらゆる制限を無視して思い通りのアバターを作成することが出来る能力』
「全然関係ねェーッ!!!!」
その割には、今日見た異能の中で一番実用的なのが腹立たしい。
このバトルロイヤルが終わったら、連絡先を聞いておこう――
「……よう、余っちまったみたいだな」
自信に満ちた強者の表情――よっぽど自身の異能に自身があるのだろう。
「悪いな、俺の異能は相手の能力を無効にする能力、つまり純粋などつきあいになっちまうわけだが……」
「あー……私の異能、相手の能力がわかる能力です」
「……そうなんだ」
「はい……なんで、まぁ」
「最初から、まぁ……そうか」
互いに若干の気恥ずかしさがあった。
だが、いつまでも恥ずかしがってはいられない。
互いに構え、じりじりと距離を詰めていく。
「……異能者同士は惹かれ合う、けれど私の異能は戦闘向きではない……それ故に、いつ異能者との戦いになってもいいように、私は徒手空拳に徹底的に磨きをかけました」
「俺もだ……」
「そして、おそらく……この会場の全員がそうでしょう」
「つまり……」
「ええ……」
「「このバトルロイヤルは一番喧嘩が強い奴が勝つ!!!!!」」
リングの中は純粋なる暴力のるつぼと化した。
そのリングサイドでミッテェーナは呟く。
「……なんか思ってたのと違うなぁ」
その後、ピザァが巨体を活かしてバトルロイヤルの勝者となり、百億円を手にした。
そして、ミッテェーナはこれはこれで案外面白かったので、その後とりあえずプロレスを見に行ったと言う。
異能力者バトルロイヤル 春海水亭 @teasugar3g
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