西へ東へ/森山 満穂 への簡単な感想

 応募作品への、主催者フィンディルから簡単な感想を置いています。

 指摘については基本的に「作者の宣言方角と、フィンディルの解釈方角の違い」を軸に書くつもりです。

 そんなに深い内容ではないので、軽い気持ちで受け止めてくださればと思います。



西へ東へ/森山 満穂

https://kakuyomu.jp/works/16817139554832411724


フィンディルの解釈では、本作の方角は北北西です。

フィン感に応募していただいた過去二作のほうがずっと西だとフィンディルは思います。


“衝動を抱える殺人鬼”と“殺人鬼に育てられた、被害者の娘”による話だと解釈しています。

少女の瞳に魅入られた殺人鬼は被害者の娘を傍に置き、娘は育ちます。そのなかで殺人鬼は少女に情を抱き、彼女の立場などを考え、依然として衝動を制御できない自身に強い罪悪感を抱きます。

少女は大きくなり分別がつくなかで、おそらく育ての親が実の親を殺した殺人鬼であると気づいているでしょう。そうでなくても育ての親が殺人鬼であることは明確に知っています。しかし曲りなりにも自身を育てた殺人鬼に情を抱き、彼の衝動を受け入れ、逃亡生活を主導します。そこには覚悟と哀しみが宿ります。彼女は殺人鬼や自分自身に言い聞かせるように「傍にいる」と呟きます。

彼女が衝動後に血に染まっているであろう殺人鬼の世話をするのは、証拠隠滅をできるだけ行って彼との逃亡生活を継続させるためなのはもちろんですが、彼の衝動を跡形もなく片づけることで“彼の衝動と付きあい、受け入れていく”“彼の衝動を肯定しているわけではない”の二つの証としているからかもしれません。また潔癖を感じさせるところ、実の親からの遺伝を感じさせるのがまた良いですね。

しかし明確な犯罪、この生活がいつまでも続くことはないでしょう。少女が殺人鬼の衝動を受け入れられなくなる日だってくるかもしれません。

また殺人鬼も、罪悪感に苛まれるなか、この状態はいつか終わらせなければいけないと思っているようです。衝動を綺麗に処理する少女の手は、まだ汚れていません。その少女が(動機を問わず)いつか一線を越えてしまうまえに。そして何より、今でこそ殺人鬼は少女の瞳の赤で満足していますが、いつか少女の血の赤を求めたくなってしまうまえに。少女への衝動が変異を遂げてしまうまえに、殺人鬼は少女から離れなければならないと考えているのかもしれません。


みたいなことをフィンディルは解釈しました。(一部解釈を走らせているところもありますし)まったくの大外れかもしれませんが、概ね森山さんの解釈と一致しているなら本作は北北西です。あるいは解釈が大外れであったとしても、読者が固まった解釈を言語化できる時点で本作は概ね北北西だと考えます。

殺人鬼と被害者関係者が時間を過ごし、情が湧くことで、複雑な人間模様が生まれる。こういう基本構図自体はそれなりにポピュラーだと思います。

また本作は上記基本構図を示すことをひととおりのゴールにされていますが、こういう構造はエンタメの懐にあります。何も起承転結による解決だけがエンタメではありませんから。作品映えする設定・構図を呈するのを目標とするのは北から離れたスタイルではありません。

この基本構図を示したうえで複雑で割り切れない人間模様を深く展開すればそこには強い西が宿りますが、本作はそこまで至っていないように思います。数文で処理していますからね。その点で北北西というのが妥当なところだと考えます。文字数的なことで至れないのもありますが、基本構図を示すことを目標にしているがために文字数が嵩張っているのが気になるところです。

基本構図をささっと示して、そのうえで殺人鬼と少女の内面を割り切れない言語化で示せば、もっと西が強くなるはずです。西を強くする必要もないんですけどね。北北西できちんと面白い作品だと思います。


感想冒頭でも話しましたけど、以前読んだ二作のほうが西はずっと強いと思います。理解を試みたうえで見えてくる魅力の種類が違いますから。

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