最終話 ヴァレリーの日記が呼び寄せた1000年後のお客様!
これは、異種族が沢山集まる村のことが書かれた日記である。その中に一軒のそれはそれは美味な料理を出すお店のことやどんな種族が楽しく暮らしているか書かれていた。だが、それを知るものは全て亡くなったとされている為、誰も知るものはいない。
「お前、まだそのよくわかんねぇ〜日記を読んでんのかよ。魔国が滅亡してから何年経ったと思ってんの?そんなの絶対嘘だって」
ここは元魔国があった場所だ。何故滅亡したのかは、災害によるものらしい。一部発掘された歴史が書かれた書物からわかったことである。そして、滅亡してから1000年以上は経過している。現在は、人間が国を興して1000年以上かけ大国に育て上げたのだ。
「いや!絶対あるね。俺は、信じているんだ。まだ12歳だから旅には出れないけど成人したら、この村に絶対行ってみせる」
そんな話をしたなと12歳だった少年は見事15歳を迎えて親の反対を押し切って魔境に向かっている。
「ふぅ...やっと魔境の入口に着いたけど、日記に書かれた内容と違って誰もいないし、入口も寂れているなぁ...」
昔みたいに国同士の争いはなくなったのはいいが、人間も獣人もエルフも戦闘力が下がり誰一人として魔境に訪れるものはいなくなっていた。魔境は恐ろしい所であり、絶対近付くなと言い伝えられているのだ。
「よし!そろそろ行こう」
背負っているリュックを再度背負い直して魔境に入っていく。魔境に入ると聞いたこともない魔物の声や奇声のようなものが聞こえて、辺りは薄暗く少年は恐怖心に苛まれる。少年は運がいいのか?何千年も誰も踏み入らない所為で魔物の探索能力が衰えたのか?奇跡的に魔物に出くわすことなく進んでいる。
「日記に記された場所まではまだまだ先だなぁ。でもちゃんと書かれた目印とかもあるから合っているよね。早く着かないかなぁ?」
この日記には、しっかりした地図と村までの目印が記されている。少年はあと一踏ん張りだと気合いを入れて進んで行く。進んでいると突如として一度も見たことがないオーガを目の当たりにした。少年は、恐怖で足がすくみその場から動けなくなる。
「あぁぁ...た、たすけてぇ〜」
なんとか声を出すことに成功したが、時すでに遅しで殴られてしまう。殴り飛ばされて痛みと恐怖で気を失いそうになる。失いかけた時に襲いかかってきたはずのオーガが吹き飛んでいく。
「あちゃ〜遅かったですかね?」
「マリーの薬を与えたら大丈夫だろ?最上級ポーションを飲ませてやれ」
そんな声が聞こえて「ポーションを飲め」と言われたので言われるがままに飲む。痛みは消えたが、疲れと安堵でそのまま気を失ってしまう。
「久々の客だぞ。ずっと寝言で村村村ってブツブツ言ってたからな」
「久しぶりですね。1000年振りくらいじゃないですか?」
誰かが話している声がして少年は目を覚ます。
「うぅ...う〜ん!?」
「お!目が覚めたか。痛みは大丈夫か?」
「うわぁ!ってあれオーガに襲われてて...」
「あのオーガなら倒したから安心しろ!それより寝言で村ばっかり言っていたが、魔境の村に用があるのか?」
まさかの魔境の村を知っている人に出くわすことができたと内心歓喜する少年。
「え?知っているんですか?是非教えて下さい。日記を見て来たんです」
「ここがその村だ!俺はグラデュース。目の前にいるのが拓哉だ」
おんぶされていたのと目覚めたばかりで気付かなかったが、見渡すと1つの大きな街があった。しかも、日記に記されていたグラデュースと拓哉という名前を名乗ったのだ。
「え?え?あなたがグラデュース様!それに、料理屋憩い亭の拓哉様!...やっとやっと俺は辿り着けたんだぁぁぁぁ」
日記を読み始めて5年目にして念願の村に辿り着き、日記の中の主人公たちが目の前にいることに喜び叫んでしまう。
「拓哉、その日記ってヴァレリーが無くしたって言ってたやつだよな。まさか見つけたやつがいたんだな」
「そうみたいですね。それより少年、腹は減ってない?もしよかったら何か食べる?」
「あ!申し遅れました。ログナと言います。是非美味と言われる料理を食べてみたいです」
拓哉は、ヴァレリーは一体日記にどんな大袈裟なことを書いたんだろうと思い苦笑いしてしまう。
「よし、じゃあ店に行こう」
店に向かう途中にあらゆる種族とすれ違う。しかも、吟遊詩人の詩の中や物語にしか出てこない魔族やダークエルフを見かける。それに対して興奮を隠せないログナ。
「魔族やダークエルフは、存在したのですね。もういないものかと...」
「あぁ〜災害が起こる前に、全員がここに避難してきたんだよ。だから、その日記を書いた本人も生きているし、全員がまだ元気に暮らしているよ。じゃあ何故戻らなかったかというと料理がうますぎて離れたくなかったんだってさ。笑えるよな」
災害が起こる数日前に女神ルカから知らせを受けて、全員を村に避難させたのだ。そして、拓哉の言うように居心地の良さと料理のうまさで虜になった魔族は復興を拒否して、この場に居着いたのである。
「アハハ。そうだったんですね。日記が本物で、謎だった答えが全てわかって大満足です。あ!それからグラデュース様、先程は助けて頂きありがとうございました」
「気にするな。偶々通り掛かっただけだ。それより、飯だ飯」
カランカラン
「ジュドーさん戻りましたよ。それから、お客さんも連れてきました」
「お帰りなさいませ。新しいお客様とは珍しいですね。料理を作ってあげるのですか?」
「まさかのヴァレリーさんが書いた日記を見て訪ねてきてくれたみたいですよ。そうです。日記に美味と書いてあったみたいで、それの期待に応えようかなと」
「アッハハハ、それは期待に応えないといけませんね。では私が仕込みを全てやりますので、そちらの少年に全力を注いであげてください」
ジュドーは、移り住んでから拓哉の元で修行をしている。今は教えることもなくなってお互いが切磋琢磨する関係だ。その他の料理人は、桜花とカイルの店で働いたり、拓哉の元で修行をしてから自分の店を開いたりしている。ちなみに長寿命でない人は、ほぼ全員が不老不死の霊薬を飲んでいる。
「ありがとうございます。じゃあ少し待っていてね」
「はい!」
拓哉もいつの間にか、茂三と同じようなスピードで料理を作れるようになっていた。しかも、神気にも目覚めて料理には回復作用まで付くようになったのだ。
「お待たせ致しました。憩い亭フルコースです」
そこに並ぶのは、ログナが今まで見たことがない料理ばかりである。ログナは、もう匂いだけで目を輝かせる。これが、日記書かれていた美味な料理なんだと。そして、口に運ぶ。
「う、うまぁぁぁぁい」
それを見て拓哉とグラデュースとジュドーは微笑むのであった。
完
異世界のんびり料理屋経営 芽狐 @mekomeron
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