「昼の教室」「煎餅」「読む」
穏やかな日差しが差し込む教室の端に追いやられ、身を縮める僕に彼らはチーズケーキを押し付けながらこう言った。
「さっさと煎餅読めよ!」
どうやら僕の脳はどうにかしてしまったようだ。
今日の朝起きてからというもの人が話す言葉が理解できない。
言語が分からないのではない、単語単語の意味は分かるのだがそれが文になった時、全てがパッチワークの意味不明な集合体となってしまうのだ。
また、異常はそれだけではなかった。
「煎餅! 読め!」
昨日まで仲良く話していたはずの中島が俺の顔を押さえつけ、田代が口を無理やり開かせる。そして、三谷がチーズケーキをねじ込んできた。
口いっぱいに頬張る僕の周りで3人はソーラン節を踊り始める。
彼らはいったい何をしているのだろうか、昨日まではこんなのではなかった。
僕を苦しめる異常、その二つ目は彼らの行動も言語と同じく理解できないことだった。
朝、校門前に立つ体育教師は逆立ちをしながら国家を歌っていた。
HRで担任はチョークをお菓子のようにポリポリと食べていた。
数学教師は箒にまたがったまま、1時間ひたすら両腕をぐるぐる回していた。
その間、周りの生徒は一心不乱に弁当を早食いしていた。
窓の外、グラウンドには校長がバランスボールの上で仰向けに眠っていた。
そして今に至る。
可能ならばこの世界から逃げ出してしまいたかったが、逃げ場などどこにも無いことは起床後すぐに母親がトースターを齧っていたのを目撃した時点で明白であった。
悪い夢なら早く冷めて欲しい。
踊っていた中島らが急に動きを止め、小指と薬指で僕を指さした。
「クレジットカードの運転は甘さが少し足りない」
「マグマの歌声はムービーメーカーで出来た」
「1587年、キングダムまりも大臣で神輿を砕く」
三人は口々に怪文章を垂れ流す。その様は地獄で啼くカラスのさえずりのようであった。
僕は少しでも音を防ぐため、耳の穴を手で隠して埋める。
冬眠するオケラのような僕のことなど知らぬ様子で、中島らはさらに大きな声で咆哮する。
「砂浜のダイイングメッセージはアシカの生け捕り作戦」
「蝉と3歳児に後ろ足で悲しい」
「パーソナルコントロールプレイヤードポンドリアン」
その声は教室中に反響し、僕の城壁を崩れ去りながら溶け込む。
それは、逃れられない包囲網戦線のようで爆心地に佇む僕に人権などなかったらしい。
どうしようもないので、全てを吸収して完全体と羽化しようとガードを消し去った。
「猫とパトカーの配色センスは新卒の嗜み」
「聞いた緑化細胞は魚の目でとろける」
「蛍光塗料に眠ったコンクリートはエジプトの寿司」
染みる振動は、天骨から退化した小指の爪に突き抜けていき、世界のあるべき姿を目の当たりにする僕は震える小鹿だった。
ぬかるみに塗れた脳髄をクリーン室で滅菌し、取扱説明書のとおりに理解を理解する理解を始める。
「煎餅を読むと味覚が痺れる」
僕がネズミを引き裂き中島を刺殺すると、彼らは顔を突き通してニッと三日月を下弦に配置した。
「青とぶどうの野原はまわりまわる」
「鯛のモーターエンジンが緩やかな坂を踊る」
「起きる黒溶岩は気まぐれのメロディアス」
彼らはトライデントで雪の結晶な肉の原木を差し出し、それに応じて僕の生態部品Cを厚塗りした。
どうやらスライムは疲労困憊で赤のリアルだった。
メガシャキの俺はタンゴのリズムで背筋を伸ばし、黄色の窓ガラスから順番に紐づけた。
それは、謝罪の覚悟でバケツの曲線部をなぜるミミズ。
三銃士と四天王は入れ代わり立ち代わりで、七代目総理大臣と相成った。
これが正常の世界で亡くして、異常はないと警備員と敬礼。
ピンポンとセパタクローに挟まれた剣道部員が釘バットでかけっこの準備はバッチリだ。
4つの地球と8つのかまぼこをベルトに差し込み、山手線とまぐわう。
「煎餅、読むか」
橙の教室で4つの♂が飛沫を飛ばす間隙のおやすみ。
三題噺保管室 井口創丁 @Raccoondog777
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