18

「宣戦布告……?」


 白髪の少年――北神は涼しい顔をして語っていく。

 彼は小林のみを見据えていた。


「一年前のことを覚えているかい?」

「…………」


 小林は顎に手を当てて考え込む。

 俺とちはるのところに片手を上げて雨宮が駆け寄ってきた。


「きっと一年前、とてつもない因縁が生まれたんですわ……」

「なんだろう、親の仇……かな……?」


 雨宮とちはるがひそひそ言葉を交わし合う。いったい何が……。

 しかし、小林にはまったく覚えなさそうなのが妙だった。


「すまない、北神。一年前何かしたか?」

「演技がうまくなったね。一年前の運動会のことだよ」


 俺とちはると雨宮がずっこけた。


「運動会のことでしたわ」

「一気に規模が小さくなったな、雨宮」

「待て待て、こたな、遠藤。もしかしたら秘密結社と繋がりのあった闇の大運動会だったのかもしれない……」

「なんだよ闇の大運動会って」

「意味わかんないですわ」


 なんか騒がしくなってきたな。

 とにかく、二人にどのような因縁が生まれたのか知りたい。


「一年前の運動会? もしかして紅白リレーのことか?」

「その通り。僕はそこで君に敗けた。その前も、その前も、幼稚園の頃も」


 ちはると雨宮が瞳を見合わせる。


「なんだ幼馴染じゃん」

「急にかわいらしくなりましたわね」


 両者のクラス全体がてえてえ、という感じの空気感になってきた。

 それでも北神は一切表情を変えずにいう。


「誰にも敗けたことのない僕を君は唯一打ち負かし続けてきた。全てだ、全てにおいて」

「顔は北神の方がいいだろ。人たらしでいつもモテモテじゃないか」

「そんなことはどうだっていい」


 ちはると雨宮が納得の頷きを見せた。


「かっこいいですわ」

「逆に魅力的だな白髪頭」


 北神は宣戦布告する。


「僕はこの日のために全てを捧げてきた。今年は君に敗北の味を知ってもらう」

「それ毎年いってるような気がするぞ。勝ち負けはどうだっていいじゃないか。楽しくやろう」

「ふふ、では……」


 次の瞬間、稲妻のような光が放たれたかと思うと、晴れた砂煙の先にはもう誰もいなかった。

 は、速すぎる。


「お前ら首を洗って待ってろ」

「覚えてろよ!」

「ぜってー北神さんの方が速いからな!」


 ぞろぞろと1-S組は去っていった。こいつらの価値基準は足が速いか遅いかしかないのか。小学生か。


「相変わらず話の聞かないやつだな」


 小林が後ろ頭をかきながら俺とちはると雨宮の方へ歩いてくる。

 俺は聞いた。


「えげつない素早さだったぞ。勝てるか小林」

「勝ってもらわなきゃ困りますわ!」

「二度と歯向かえないようにコテンパンにしてやれ委員長!」

「そんなことしないよ、犬神。要は今年も楽しもうってことだよ。いよいよ面白くなってきたな、わっはっは!」


 大層面白おかしそうに笑う小林だった。俺はお前も好きだ。


 ――あとがき

 楽しんでいただけましたか! 次回もお楽しみに!

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何もかも嫌だと怒っている幼馴染が抱きついたまま離れようとしない りんごかげき @ringokageki

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