第26話 解放

  男が女を好きになるのが普通って無意識下にあるのと一緒で、 生まれたら何か頑張って生きていかなきゃって刷り込まれてるんだ。 遺伝子レベルで。 


 でも、 きっとみんな思ってる。 何のために生きてんのって。 家族とか子供とか仕事とか、 好きなことやるためとかそんなの後付けでしかない。 もし、 死んだとしても世界はそれなりに回っていくんやから。 少なくとも、 俺の家はそうだったんやから。


 夏中うるさいセミだって植物だって人間だって、 生まれて相手と出会って、 種を残して死んで土に返る。 そして残された種がまた同じレールを走っていく。 


 ゴールのない永遠のループ。 俺はその歯車の一つでしかないんかな。 俺が生まれた理由なんて、 後付けの薄っぺらなうわ言でしかないんやもんな。

 

 なのに、 何でだろう。 


 今俺は、 自分の中で否定した生を肯定せざるを得ないほどの憧れと愛しさをたっちゃんに感じていた。 社会のレールに乗っていない、 このたっちゃんへの気持ちが常識や社会通念を蹴落として自由に躍動している。 生きているって感じる。 


 俺はたっちゃんを見つめて言い切った。

 

 「今楽しいよ、 俺。 生きてる意味は分かんないけど、 愛しいって思える人がいることは、 最高に楽しい」


 夏休みもいつの間にか終わり、 今日から二学期だ。 


 自転車をこぎながら朝七時半の空気を大きく吸い込む。 微かに秋の香りがする。 空もいつの間にか高くなっていた。 


 夏の三連休にあった事を、 ケントには報告してみた。 たっちゃんに会った事と、 たっちゃんへの気持ち。 


 「あー。 ヒカルはそうなのかなって思っとったよ。 これで、 俺の気になることが解決したわ」


 と言ってケントは次の日に小川に告白をし、 即座に振られて帰って来た。 さすがの行動力。 


 振られたその日の帰り道、 ケントが言っていた。 


 「俺さ、 小川の事が好きだったのに、 それを無視して他の子と付き合ってた。 振られるのが怖かったんよな」 


 言いながら、 ケントは俺の肩を力いっぱい叩いた。 めちゃくちゃ痛くてびっくりする。 


 「やっと解放されたわ。 なっ?」


 解放かー。 確かにそうかもしれない。

 

 性別も外見もコンプレックスも良いとこも悪いとこも、 灰になればみな同じ。 分かんないことは沢山あるけど、 自由に生きていこっかな。 












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今はまだ僕なりのニルヴァーナ 大森 みら @insyouha

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